そもそも「固有の領土」って何なの?

       目黒真実(元日本語教師/肺腺癌ステージ4bにて在宅療養中)

 「あの時、沖縄が独立したいと言っていたら、私たち日本人はどうしたんでしょうね」というあなたのメール、極めて本質をついた指摘ですね。確かに、当時アメリカ統治下の沖縄には独立という選択肢もありました。しかし、沖縄の人々の大勢は平和憲法の国日本への復帰、本土復帰を選択しました。独立の旗を掲げたとしたら、アメリカと日本の二つを敵に回すことになるでしょうから、現実的な選択だったとも思います。
 しかし、70%の米軍基地を抱える島、沖縄の現実はどうか。私は、東アジアの最大の領土問題は、竹島でもなく尖閣でもなく、それは沖縄だと思っています。今の沖縄は本土防衛の捨石、まさに旧帝国陸軍参謀がいみじくも沖縄戦前に語った言葉「沖縄は本土防衛のためにある」が今も続いているのであって、アメリカと日本による捨石(半植民地)状態が厳然として続いていると思うからです。
 事実、今も沖縄の人を「土民」と蔑むようなヘイトスピーチがネット上や街頭で後を立たないそうで、本土の日本人の中に、一等国民、沖縄の人々は二等国民、台湾の人々は三等国民という差別意識がいかに根強いか教えてくれます。インターネットや沖縄の街頭で実際に吐かれた差別扇動の言葉を掲載した展示会が那覇で開かれたそうです。以下参照。

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/914387

 沖縄を我が領土(固有の領土)とするような考え方を、私は本土日本人のヤマトンチュ史観と名づけました。我が領土の「我が」は大和の民、本土ヤマトンチュに他なりません。天皇もまたヤマトの象徴ではあっても、沖縄やアイヌ民族の象徴ではありません。もし沖縄の人々がこれ以上の犠牲には耐えられないと、独立、あるいは高度の自治権を主張し始めたとしたら、日本政府とアメリカはどうするでしょうか。「尖閣は固有の領土」としている政党は、その前提において「沖縄はヤマトの領土」と考えているわけですから、与野党ぐるみでその自治自決の運動を抑えにかかることでしょうね。ヤマトの政権はそもそもこの琉球併合ー琉球処分(1872/明治12年)ーを植民地化とは考えていません。ヤマトによる「民族」統一と考えているわけです。そして、ここから「沖縄は日本固有の領土」論が生まれるわけですが、正しくは「沖縄は併合した領土」というべきでしょうね。

 日本と沖縄、中国と台湾の関係は、実に似通っていますね。中国にとって台湾は元々「化外の地」であり、そこに住む先住民は「蛮族」でした。かつて宮古島島民遭難事件というのがあって、日本政府が台湾の住民が日本人を殺害した事件に対し清朝に抗議したとき、時の清朝政府は「台湾の原住民は「化外の民」で国家統治の及ばない者であるという返事をしたとあります。そこで明治政府は1874年(明治7年)に台湾出兵を行いましたが、清朝中国にとって当時の台湾は統治の及ばない化外の地だったとすると、いつから「一つの中国」になったのか知りたいところです。かつて中国と台湾の間にも、日本の琉球処分のようなことがあったのか、私は知りません。

 日本は「沖縄は日本の固有の領土、だから尖閣もまた固有の領土」と言い、中国は「台湾は中国の固有の領土(一つの中国)、だから釣魚島(尖閣諸島)は固有の領土」と言います。この「固有の領土」論争に出口があろうはずがありません。そもそも問題は、その島の所有がどの国に属するかではなく、近海での漁の問題であり、海底資源の問題なのですから、それを実務的に話し合って、漁業協定とか海底資源開発協定とかを結べばいいのではないかと思うんですね。紛争の島を友好と協力のシンボルの島にする、逆転の発想が必要なのではないかと思います。かつて日本はその島を「魚釣島」と呼び、中国は「釣魚島」と互いに呼び合い、一緒に漁をして、一緒に利用し、漁民同士で助けたり助けられたりもしていた海域なんですから、元に戻せばいいだけなんです。

 しかし現状は、台湾ー尖閣問題が「第二のウクライナ」になる方向へ向かっています。もしマスコミで「中国の侵攻の切迫」が騒がれる状況となり、反中ナショナリズムが国中を覆うような事態になった時、反戦の旗が掲げられる政党や団体が、果たしてこの国にどれほどいるのだろうかと考えたりします。ほとんどの政党が祖国防衛の大合唱をし始め、挙国一致体制に組み込まれてゆくことになるのではないでしょうか。まさに今の状況は、日米開戦前の日本国民が迫られた状況に酷似しているように思うんですね。

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