世界で進む「GDP神話」の見直し、一方日本は

        目黒真実(元日本語教師/肺腺癌ステージ4bにて在宅療養中)

 調べたところ、世界ではGDPに代わる「豊かさ指標」の研究が、すでに10年前から活発に進められていました。OECD(経済協力開発機構)には「経済実績と社会進歩の計測に関するハイレベル専門家グループ」が設置されていて、そこでは「現在の我々の行動を変えるためには、経済実績を測定する方法(=GDP)そのものを変更しなければならない」という問題意識に立って、「GDPで測れないために無視されてきた問題の最たるものが、不平等の拡大と環境問題である」という認識から出発しています。
 以前私が提起した経済指標<持続可能な経済成長=(GDP成長)ー(CO2排出量など環境劣化)>についても、私が気づくようなことなことは、当然ながら誰かが考えていたわけで、国連の中では10年以上前から「グリーンGOP(EDP)」として検討が進んでいました。しかし、このグリーンGDPは、自然界の様々な要素をどのように金銭換算するかや、環境コストを貨幣換算することが難しいこと、国によって基準が不統一(利害調整が難しい)なことなどが原因で、新しい経済指標にする試みは難航している模様です。SDGsの中に「脱原発」が織り込まれなかったのと同じですが、OECD参加国の間の意見の調整ができないんですね。
 国連統計部が独自の基準で日本のグリーンGDPを算出した資料がありましたので、参考までに掲載しておきます。公害対策などで環境投資を増やし環境技術を開発した1993年当時の日本は、一人あたりのグリーンGDPで世界でトップに立つ環境先進国だったことがわかります。あれから30年、最近の日本はどうか、国連の報告資料が見当たりません。

 また、現在のOECDの幸福度指標に立って2017年の日本を見ると、こんな表になるようです。この表からも項目立てはわかってきます。社会の格差を示すだろう指標「所得と富」「ワーク・ライフ・バランス」の項目は、日本のデーターが揃っておらず、評価できていません。

     図4 日本の現在の平均幸福度:強みと弱みの比較(OECD 2017a)

 日本の幸福の成果にはばらつきがあり,「教育と技能」はとても高いですが、「市民参加とガバナンス」「社会的支援」がかなり低く、「仕事と報酬」では就業率や雇用の安定性は他の国々と比べると良好ですが、仕事のストレスや報酬ではOECD加盟国平均を下回っている。「健康状態」では平均寿命はOECD加盟国中トップですが,自覚的健康状態については「良い」または「非常に良い」と回答した人の割合が極めて少ないことなどがわかります。これとは別に高齢者の幸福度を日米で比較した調査したものがあって、アメリカは歳をとればとるほど幸福度が上がるのに対して、日本は歳をとればとるほど幸福度が下がるという調査結果が出ています。どうしてそうなるのか、ぜひ福祉の専門家たちに分析してもらいたいですね。

 確かにこのような指標があれば、政策決定には有効ですし、GDPに代わる「豊かさ指標」を作る目的もそこにあるわけです。興味がある方は、以下の「GDPを超えてー幸福度を測るOECDの取り組み」を参照してください。

 https://www.jstage.jst.go.jp/article/serviceology/6/4/6_8/_html/-char/ja

 OECDと並んでフランスやイギリスでも、それぞれ国情にあった「豊かさ指標」の見直しが進められています。日本でも少し遅れて内閣府に「幸福度に関する研究会」が設置され、2011年12月に「幸福度に関する研究会報告―幸福度指標試案―」が公表されました。それが以下の図ですが、私がマズローの法則に立って考えた「豊かさ指標」(幸福の基礎的条件、社会的条件)と重なっていて、「経済社会状況」と「健康」が「幸福の基礎的条件」、「関係性」が「幸福の社会的条件」に相当していると考えていいんじゃないでしょうか。ただし、日本の幸福度指標では、OECDが取り上げた「環境の質」がなく、代わり
に「自然とのつながり」となっています。

 日本の資料を読みながら感じたのは、欧米諸国が「不平等の拡大と環境」をリスクと捉え、それらへの対応を政策決定の前提条件として、予算編成上もリスク管理に必要なコストとして計上しているのに対して、日本はリスクとしてではなく、改善すべき課題として捉えていることです。この認識の落差が、コロナ対策で露呈しているのではないでしょうか。事実、欧米はもちろん、後発国中国に比べても、再生可能エネルギーへの転換は遅れています。EU諸国では「グリーンGOP」やグリーン・ニューディール政策を取り入れることでは社会的合意ができていると言ってもよく、中国も既に経済政策に独自の「グリーンGOP」を取り入れ、経済格差問題でも「共富」政策に転換しています。ところが日本は「成長が先か、配分が先か」が議論されている段階にあります。「グリーンGOP」にいたってはもっとお粗末で、最近になってやっと問題意識を持ったというところでしょう。それを教えてくれるのが、日経新聞(2021.8.11)のニュースです。遅れているのは行政のデジタル化だけではありませんでした。

「グリーンGDP」指標創設へ 経済成長に脱炭素加味 
                 (日経新聞 2021年8月11日 18:40)
 政府は、温暖化ガスの排出削減の進捗度合いと国内総生産(GDP)を組み合わせた新たな指標をつくる。既存のGDPとは別に算出した「グリーンGDP」と位置づける。日本は近年排出量が減っており、新指標の成長率は上振れする見通しだ。世界で脱炭素が加速するなか、日本の取り組みを経済成長も絡めた視点で示す。GDPはその国の経済規模や景気動向をみる代表的な経済指標の一つだが、とらえられていない要素も多い。
・・・・・(以下略)・・・・・・・


 私がこの間「GDPに代わる豊かさ指標」として考えていたことが概ね間違っていなかったことがわかったのはいいのですが、日本が世界の大勢からあまりに大きく遅れていることに、ショックを受けたのも事実です。私たちは日本にいるのでわからないのでしょうが、「日本の常識は世界の非常識」と考えた方がいいようです。

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