台湾を第二のウクライナにしないために、今、問われているのは?

      目黒真実(元日本語教師/肺腺癌ステージ4bにて在宅療養中)

 ゼレンスキー大統領の演説、なんだか熱の入っていない、中身も平坦な演説に思えましたね。チェルノブイリに触れながら、福島にも、広島・長崎にも触れないとは、少しがっかりの演説でした。戦争当事者のどちらか一方だけに国会での演説を認めることが正しいことだとは思っていませんが、そのこと以上に、演説後のインタビューで、与野党の党首が口を揃えてロシアに対する経済制裁継続を声高に叫んでいるのには呆れてしまいました。誰一人として、ウクライナ停戦のための提案をしようとはしませんでした。

 私は非軍事の人道的支援と難民支援、戦後復興への協力こそが平和憲法の国日本が取るべき道だと私は思っていますが、日本政府の場合は「ウクライナ国民と共にある」というのは表向きで、「常にアメリカと共にある」というのが本音だろうと思いました。もし「ウクライナ国民と共にある」というのなら、「1日でも早い停戦を、そのために日本は何ができるか」と考えるのが普通じゃないのでしょうか。それと重要な問題が残されていて、それはウクライナ国民として一括りにしていいのかということです。
 私は、ウクライナには二種類、正確には三種類の国民がいると思います。まず東部地域を中心とする親ロシア系の住民、西部地域を中心とする親欧州系の住民が存在します。これは長いウクライナの歴史の産物であって、かつて親欧州系西部住民の中の極右民族主義者は、反スターリンでナチに協力してきた歴史がありますから、東西ウクライナ国民の対立は根深いものがあると思います。これに、おそらく大多数だと思いますが、NATOに加盟はしたいけれど、ロシアとの戦争をしてまで加盟したいとは思っていない現状維持派の住民がいて、ウクライナ国民は三つに分かれていると思うのです。私が以前、台湾の世論について表した図表(文末掲載)を載せたのは、一括りでウクライナ国民と言ってはいけないことを知らせたかったからです。

 今回のロシアのウクライナ軍事侵攻(=侵略)は、この大多数であろう現状維持派のウクライナ国民を反ロ・ナショナリズムに追いやったと思いますし、これがプーチンの最大の誤算だったと思います。ドンパス地方を超えてロシア兵を進軍させた瞬間から、ロシアは大義を失い、この軍事作戦は侵略戦争になりました。
 さて、ゼレンスキー大統領は、今でこそ停戦交渉の中で「国民投票を」と言っていますが、彼が国民投票に言及したことについては評価していいと思います。もう少し早くこのことに気づいていたら、この戦争は避けられた可能性があります。おそらくゼレンスキー大統領は、対ロ強硬論の国内の極右民族主義の圧力や、NATO加盟を働きかけてきたアメリカを後ろ盾にして、最後までロシアに対して強硬論をとり続けたと思いますが、その判断が国のリーダーとして正しい選択だったのかという問題は残されています。開戦前のウクライナに、下に示すような台湾の図表と同じような世論がウクライナになかったのか、冷静に立ち止まって考えてみる必要があると思います。台湾民進党が現状維持を続ける慎重さを、なぜウクライナ政権は持てなかったのかということです。

 もちろん、この戦争の大きな責任はロシアだけではなく、アメリカにもあると思います。ロシアの軍事侵攻は近いと言いながら、早々とNATO軍は派兵しないと言ったバイデン氏、彼は戦争になると知りつつゼレンスキー大統領が危険な方向に歩んでいるのを止めようともしませんでした。それはなぜか、このこともいずれ歴史の法廷で裁かれることになると思います。
 ウクライナと同じ状況が今台湾にあり、同じことが、今、台湾で繰り返される危険があることを、私たちは真剣に考えなければならないと思います。民主主義とは何か、民意とは何か、そして時の政権の暴走を止めるにはどのような方法があるかを考える必要があります。私は最低でも「自衛隊の派兵に際しては衆参両院の3分の2以上の同意を要する」といった歯止めが必要だと考えています。つまり、アメリカの「戦争制限法」のようなものが日本でも必要ではないかと思うのです。

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