家族の形5 (佐久間くん)

朝の光が眩しい。
「おっはよー!」
食卓には、父と母、そして兄。
いつもと変わらない風景。
「おはよう、大介」
「おはよう、早く食べなさい」
「おはよ、遅刻するぞ?」
3人にふぁい!
と、答えて笑いながら食卓を囲む。
本当にいつもの朝だった。

夕方、部活を終えて帰宅した俺は、サっ、とシャワーを浴びた。
その足で、食事へ、
目の前には兄。
「お!美味そー!」
「おい、大介、髪くらいちゃんと拭いて来いよ」
兄は寡黙な人だけど、こういう時は少し煩い。
「ごめーん、今日は見逃して?」
そう言うと兄は、仕方ないなぁ、苦笑いしたのだ。
やったー!と食べ始める。
この日は、父と母は友人の主催するパーティーに出かけるとかで、夜中までいない。
それ以外はいつもと同じ、俺が喋って、兄はそんな俺の話しを聞いてくれる。
そして、食べ終わると、
家政婦さんは帰宅し、
兄は自室へ、
俺は部活の自主練をする為に庭へ。
そんな俺の姿を見てる姿があるなんてその時の俺は知らなかった。

そして、夜。
自主練を終えた俺は風呂場へ。
学校から帰宅したらシャワーで軽く汗を流す。
自主練の後はしっかり湯船に浸かって身体をほぐすのが日常。
「あ、しまった………」
バスローブを部屋に忘れた。
まぁ、いっか部屋までそんなに距離はない。
走れば数秒、さっと部屋に戻ってしまえば良いだろ。
そう結論づけて、さっとバスタオルで体と髪を拭くと、
浴室のドアを、そぅ、と開ける。

よし!兄はいない!

確認して、走る!
そして、部屋へ。
成功!とバスローブを羽織り、髪を乾かすためにドライヤーを用意していた時だった。
ドアの開く気配に振り返る。
「兄さん?どう、したの?」
そこには、兄がいた。
けれど、何か様子がおかしい………。
ぶつぶつ何か言ってるけど聞き取れない。
顔が、怖い………。
「兄さん?」
一歩、下る、
同時に兄が俺の手を掴む。
何だか、怖い………。
「に……、さん?」
「お前が悪いんだ!」
叫ぶと兄は俺を引っ張る。
そして、ベッドへ放り投げられた。
「兄さん?!どうしたの?やめて!」
叫ぶけど、兄は徐々に俺に近づく。
目は血走っていて、正気とは思えなかった。
「来ないで!」
叫んでも、兄はやめなかった。
いつの間にか手はバスローブの、紐で縛られて、身動きが出来なくなってた。
俺に覆いかぶさる兄に恐怖が襲って来る。
「いやだーー!!」
叫ぶ俺の声は虚しく誰もいない家に吸い込まれていく。

それからは、地獄だった。
兄は父と母がいない夜、
必ず俺を陵辱した。
嫌だと言っても、やめてと泣いても、やめない。
そして、自分の欲求を満たすだけ満たすと、
父と母には言うな
と、脅して出て行くのだ。
けれど、そんな事が長く続くはずない。

その日も父と母は夜出か顔をけて行った。
そして、兄はいつものように部屋へやって来ると俺をベッドへ投げつける。
「いやだっ!」
裸で俺と兄が揉み合っている時だった。

ガチャリ

部屋のドアが開く。
そこには信じられない
そんな顔をした両親かいた。
「何、をやってるんだ?」
父は青ざめてそんな事を言っていた。
母は口を覆って泣き出していた。
兄は………、兄は俺に誘惑されたんだ、と、
俺に誘われて拒めなかった、
と2人に訴える。
俺は………、俺はただ、ただ震えていた。
ただ怖かった。
でも、これで開放されるのだ、と安心している自分もいた。

その後、父は兄に服を着させると、母と共に出ていった。
「どうしても顔を出さないわけにはいかないんだ」
そんな事を言っていた気がする。
けれど、父の眉間にシワを寄せて俺を見おろす顔と、泣きながら俺を見る母の目は忘れられない。
蔑みと、嫌悪が混ざった顔。
きっと兄の言葉を信じたのだと思った。

1人暗闇で泣いていた。
何もせず、ただ泣いて………。
どれ位たったか………。
「大助ちゃんっ!」
鍵を受け取ってたら遅くなってごめんね!
伯母さんが、いた。
何も考えられなくて、
「おば………さん?」
それだけ言う。
伯母さんは、何も言わず、俺の涙を拭うと。
パジャマ着なさい?
と、優しく言ってくれた。
そして、俺が着るのを見届けると、
「今は寝なさい」
そう言って寝るまで側にいてくれたのだ。

夜中
「大助ちゃん起きて!」
伯母さんに起こされた。
少し寝たからか気分は大分落ち着いていた。
「伯母さん?どうしたの?」
伯母さんの報告は父の運転する車が事故を起こした、というものだった。

夜の病院は薄暗くて、どこか異次元のような気がした。
ERと書かれた部屋から医師が出てくる。
俺と伯母さんを見ると、少し俯いて、首を横にふる。
そして、
「残念ですが………」
父も母も兄も即死に近かった。
そう言うのを他人事のように聞いていた。

お通夜と葬儀はとても大きなものになった。
と、いっても俺は全て叔父に任せっきりで何をすることもなかったのだか………。
その叔父が、葬儀が終わると、
佐久間財閥を、寄越すように、と言って来た。
俺は佐久間財閥に何の未練もなかったから、放棄の書類にサインするつもりだった。
けれど、伯母さんがそれに待ったをかける。
そして、弁護士まで用意してくれた。
結果、佐久間財閥は叔父に。
変わりに、俺が成人するまでの全ての費用は叔父持ちに。
父と母が残した遺産はそのまま俺のものとなった。
これは本当に伯母さんに感謝しかない。

そして、納骨の日。
1人丘の上の一等地、枝垂れ桜の下にいた。
父と母、兄の眠るお墓を見ていた。
ねぇ、何で兄だけ連れて行ったの?
何で、1人にしたの?
ねぇ、何で俺だったの?
何で、俺にあんな事したの?
聞きたい事はいくらでも湧いてくる。
けど、答える人はもういない………。
そう、思ったら無償に怒りが湧いてきた。
手を振り上げる、そして、思い切り花を墓石に叩きつけた。
もう、ここに来ることもない。
1人だけで生きていく。
後ろは向かなかった。

あとがき

さっくん過去編でした。
結構ハードなものにしてしまったか、と(^_^;)
ごめんなさい(^_^;)

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