家族の形3 (めめ

佐久間くんの家、静寂が2人を包み、重なった唇が離れる。
「どうして?」
「ひょっとして同情されたとか思ってる?」
顔に出ていたのか、佐久間くんがまた俺の額にデコピンする。
「いてっ」
「俺がそういうの嫌いなの知ってるだろ?
絶対同情じゃないから安心しな」
じゃあどうして?
聴けば、秘密とはぐらかされた。
「めめは………、めめはどうして俺にキスしたの?」
さっきまでおちゃらけてたのにいきなり真剣なトーンで聞いてくる佐久間くん。
言っても………良いのだろうか………。
「めめ?」
優しくて大好きな人………。
そ、ときれいな手が俺の頬を包む。
「佐久間くんが好き、です」だからキスした。
伝えたらふわり、とその胸に頭を抱きかかえられる。
一瞬の間がとても長く感じる。
「友達からでも良いかな?」
その言葉が信じられずに、
本当にっ?!
と、前のめりなってしまった俺に優しく笑う佐久間くん。
この人と付き合えるのだ、
そう思うと天にも昇る気持ちだった。


6ヶ月後


ダンスレッスンを受ける佐久間くんと、ラウを見るとはなしに見ながら俺はため息をつく。
「なんだぁ?6ヶ月後のジンクスかぁ?」
えっ?
そう思うのと、
「ふっか!」
岩本くんの声が重なる。
「どういう事?」
岩本くんに聞くと、ため息をつく。
そして、来いよ、と俺をレッスン場の外に連れ出した。
「で?どういう事かな?
6ヶ月後のジンクスって?」
岩本くんは渋い顔をしつつ、
仕方ねぇな、と話しだした。
「俺も詳しくは分からないんだけどな。
大介今までも何度か付き合った人がいたらしいんだ。
だけど、皆6ヶ月後くらいに別れてるみたいなんだよ」
ああ、そうなのか………。
「おい、大丈夫か?」
何も、考えられない。
きっと、そういう事なのだ。
そのまま蹲り1人にしてくれ、と岩本くんに頼み込み、暫く外で過ごすことにする。

6ヶ月後のジンクスか………。
つき合い始めた頃は嬉しくて嬉しくて、気が付かなかった。
けれど付き合い始めて3ヶ月後くらいになると、関係も変わり始める。
抱きしめたり、キスしたりは………出来ている。
佐久間くんからも抱きついて来てくれることもある。
それなのに………。
もう一歩、踏み出す事が、出来ない。
そういう雰囲気になったと思っても、スルリとかわされてしまう。
最初はそういう雰囲気になったと思ったのは俺だけだったか………。
と気にしなかった。
けれど、それが、2度、3度と続くと、さすがにわざとだと気がつく。
「人間って欲張りだな………」
付き合ってくれている、これだけで満足すれば良いのに、
次へ進む事を願わなければ………。
こんな、ドロドロした気持ちを知らなくても済んだ。
佐久間くんの全てを手に入れられないもどかしさ、淋しさに押し潰されそうになる。
「俺もジンクスの仲間入りになるのかな………」
いやいや!そんな事はさせるかっ!
佐久間くんを諦める事だけは絶対したくなかった。
それに、俺には1つ気になる事があるのだ。
ちゃんと話そう。
そう決めて次の休みの前日佐久間くんを家に誘った。

当日、緊張のあまり動いて動いて………。
佐久間くんが来る頃には、テーブルに結構な料理が並んだ。
「お!すげーじゃん!」
2人で食事をして、いよいよ良い時間になる。
いつ切り出そう。
悩んでいるうちに、佐久間くんがそろそろ帰るよ、と席を立ってしまった。
「待って!」
思わず手を掴み引き止める。
「どうした?」
驚いた声、めめ?優しいその声に意を決して
「佐久間くんさ、俺とそういう関係になるの嫌、なの?」
「そんなわけないっ!!」
もし、嫌だと言われたら、
もし、そんな気はないと言われたら、
最悪の事を考えていた俺は、その答えを聞いてホッ、とする。
「じゃあどうして?
そういう雰囲気になると………。
ううん、そういう雰囲気になるのすら避けてるよね?」
ギュ、手を握る佐久間くんの手が目に入る。
「そんな……ことは………」
「ないって言える?」
佐久間くんの顔を見ると、
眉間にシワを寄せ、ぎゅっ、と真一文字に唇を結んでる。
こんな言い方良くない。
わかってるんだけど………、
確かめたかったのだ。
「言えるなら、今夜泊まっていけるよね?」
ビクリ、揺れる身体。
強く握って白くなってしまった手。
その手をぎゅっ、と握る。
「あのね、怒ってるわけじゃないんだ。
何か理由があるなら、話して、貰えないかな?」
助けになりたいんだ、続くはずの言葉は、
「めめも、そうなんだ!」
叫ぶ佐久間くんの言葉にかき消される。
「やっぱりめめも身体が目当てなんだ!
「何でそうなるの!?
そんなわけないでしょ!?」
そんな風に思われるのは心外だ!
「じゃあ!じゃあ、このままでも、良いじゃん!」
どうしてダメなの?泣き出した佐久間くんを、思わず抱きしめる。
意を決して、俺は口を開く。
これを聞いてしまったら佐久間くんを酷く傷つけるかもしれない。
でも、聞かなければ、俺も、佐久間くんも、前に進めない気がした。
「ごめん、俺知ってるんだ。
佐久間くん時々寝ながらうなされてるでしょ?
あれは、何で?」

ヒュッ、と息を呑む佐久間くんの気配を感じた。


あとがき

やっとさっくんの過去が明らかになってきます。
ちと、ハードでそういったのが苦手な方はご注意して下さい。

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