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STAY HOME時代の“ライブ配信”飽和状態のなかで考えた

「STAY HOME」「新しい生活様式」が求められ、ライブハウスでお客さんを入れてのライブができなくなっている状況のなかで、音楽シーンでは「無観客ライブ配信」がトライされています。またアイドルやミュージシャン自身が、ツイキャスやInstagramのライブ配信機能(いわゆる「インスタライブ」)などで自宅からトークをするような配信も多く、そうしたものを合わせると「飽和」しているといってもよく、同じ時間に観たいものが複数あって、選べないというくらいの状況になっています。

僕らもそうしたアイドルやミュージシャンの無観客ライブ配信のお仕事をいただいていたりする一方で、個人的にひとりのファンとしていろんな配信を見たりもしています。

この3月からこれまでの間で、送り手として関わったり、受け手としてみてきたライブ配信を振り返って、いったいどういうものが求められるのか、また送り手としてどういうものを提供していくべきなのか、個人的に思う、いまの感覚を記しておきたいと思います。

このままではヤバい

とにかくまずはスタート地点として、ライブ配信を見た人が、いずれは生でこれを観たいと思える表現でなけらばならないし、生で観るのでは得られない、べつの価値を提供できていないならやらないほうがよい。と思っています。

また、観る側の視点にたって、ライブ配信でなければ得られない体験、コンテンツになっていないなら、ちゃんと時間をかけて編集したものをアップしたほうがいいわけで、なぜライブ配信でやるのか? なにを観せたいのか、そのために、選択した配信プラットフォームのUI、UXは適切なのか? については、ちゃんと考える必要があるでしょう。

技術はもちろん必要ですが、いちばん大切なのは、どんなユーザー体験を提供できるのか、だと考えています。

おそらく、現状は送り手がそこを考えずに、とりあえずできるからやる、ということばかりやってしまっているせいか、受け手の期待値は下がりはじめているなと感じます。

特に、週に何度もライブハウスなどに通っていた層は、配信モノを有料・無料問わずたくさん観てきて、「ライブ配信疲れ」を感じていたり、「やっぱライブ配信ダメじゃん」な評価に達してしまっている人もいます。受け手であると同時に、送り手としてて関わっている僕らは、そんな現状にモヤモヤしたものを抱えています。

必要な機材も安価に手に入るようになり(いまは、供給の問題と、ニーズの高まりで市場では品薄ですが)、配信に使えるプラットフォームも手の届くものが多いいま、「とりあえず配信する」のは誰にでもできるようになっている結果、品質の低いライブ配信も多く、玉石混交の状況といえます。

本当にこのままではファンは離れていってしまう、真剣にライブ配信体験として求められるものとは何か? を考えないとダメだと思っています。

本当に「ライブ」でやる必要があるのか?

事前に撮影・録音したものを編集・整音して映像・音声をつくるのと、ライブスイッチング・収録で映像・音声を作るのとでは難易度はまったく違います。ライブでは、失敗しても修正することはできませんし、時間の余裕がないなかで、撮影・スイッチング・収音・整音・配信はもちろん、場合によってはテロップの挿入やチャットなどの管理やフォローなど、すべてをしっかりやる必要があります。

観ている側が期待しているのは、本当にその時にリアルタイムにパフォーマンスしていることでしょうか? もしかして、配信の担い手が「ライブ配信をやってみたい」からやっていたりしないでしょうか?

たとえば生誕イベントや周年のイベントなど、その日だからこその重要なイベントというのは存在して、そういうのはライブでやる意味は大きいと思います。

そうしたイベントでも、観ている側がライブであることを実感するためには、MC中にチャットなどのコメントを演者が読んでステージ上のリアクションがあったりしなければ意味がありません。場合によっては、ファンが事前に送ったプレゼントや花束などをステージ上で受け取る演出など、ライブならではの演出を意識的につくっていくことも必要でしょう。

現在のような状況になるより前の話ではありますが、2019年12月10日に無観客でのライブ配信が行われたtipToe.の『tipToe. 3rd Anniversary 「homeroom」』では、視聴者の投票によるリクエストで歌唱する曲を選ぶ演出が行われたり、MC中はステージ奥にニコ生のコメントをプロジェクタで投影して、コメントにメンバーが反応するという演出も行われました。

ファン同士が同じ時間を共有して、同じコンテンツを見ながら、チャットやTwitter上でやりとりしていくことも、ライブならではです。それを、ステージ上の演者が拾って、コメントを重ねてくれたら、よりうれしいことは間違いありません。

では、そうした体験を提供するために、すべてのコンテンツが“ライブ”である必要があるかというと実はそうでもありません。

僕自身が企画して提案したのをきっかけに実現した、「電影と少年CQの『月世界旅行通信 vol.1』」は、昨年12月のワンマンライブ収録映像を観ながら、メンバーが“ワイプ”(正確にはP-in-P=ピクチャー・イン・ピクチャーですが)で登場して、コメントしていくという配信でした。上映したライブ映像は、もともとDVDで販売する予定で収録・編集したもので、一度ライブ会場でお披露目したことはあるものの、広く公開したのはこの配信が最初でした。

こうしたスタイルだと、通常のライブと違って、メンバーが常にチャットやツイートを拾うこともできます。このときは、YouTube側の遅延の設定を「通常の遅延」としてしまったので、タイムラグが大きく、視聴者とのやりとりはしにくかったのですが、「低遅延」にして、ほぼリアルタイムにチャットに反応できるようにしておいたほうがよいでしょう。

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同じような試みとして、Maison book girlのメンバーの和田輪が主に配信の技術的な面をみてやっている配信もあって、ちゃんとメンバーがワイプで入ってきたり、レイアウトなどのセンスもすごくいい感じで、これを見ているとプロも負けられないなと思います(和田輪はVTuber「ワダリン」としての活動も自力ではじめてしまったり、歌唱もすばらしく、表現へのこだわりも強くて、でも、ヲタクな魅力もある、ほんとすごい人なので、みなさん推してください)。

「lyrical school REMOTE FREE LIVE」は、メンバーが自宅で収録した映像を編集したすばらしいコンテンツですが、vol.1では録画された動画をアップロードして公開しただけだったものを、Vol.2では同様の動画をライブで配信したことで、ファンやメンバーとの交流がチャット上で展開されていて、より魅力的な視聴体験を提供していました。

ライブ配信を行う場合、エンコーダや安定したインターネット回線が必要になりますが、実はYouTubeにはライブ配信でなくてもライブ配信と同様の視聴体験を提供できる「プレミア公開」という仕組みがあります。

これは、アップロードしておいて動画を決まった日時から公開する仕組みで、最初の公開時は早送りなどはできず(巻き戻すのは可能)、チャットの機能を有効にできるため、実質ライブ配信と同じことを安定して実現できます。

それを利用した例としては、シューゲイズ系のアイドルグループ“RAY”による「RAY001 the beginning of the dream 2019/5/1 at 渋谷チェルシーホテル」を挙げておきたいと思います。

ちょうどRAYお披露目から1周年の日に、お披露目の日の記録映像が「プレミア公開」され、プロデューサやメンバー4人もチャットに登場したことで、非常にエモい配信となりました。エモさの理由は、RAYの前身となる「・・・・・・・・・(ドッツトーキョー)」からの流れと、その楽曲の一部をRAYも歌っていることなど、RAYのお披露目に至るいろんな背景を共有しているファンとメンバーが、大切な日のステージを一緒に観るという体験にこそあって、メンバー自身もファンも1年間でのグループの成長を改めて感じることができるなど、この日でなければならない理由があったのも大きいと思います。

映像としては、複数台カメラは入っていたものの、前半は固定カメラ1台、後半は手持ち1台というシンプルなものでしたが、撮影のセンスもよく、ファンとして観たいものにしっかりなっていました。

配信映像・音声の品質は当然として……

そのコンテンツがいいと思えるかどうかについては、どういうふうにみせるかも大切ですが、映像や音声などの表現がちゃんとステージの魅力を伝えるのもになっているか? という基本はもちろん重要です。

さらにいえば、生のステージを観るのでは得られない、別の感動がそこにあればすばらしいし、作り手としてはそういうものを目指したいという気持ちが大きいです。

そこまでの表現に到達できていなくても、カメラ1台でも、ステージの魅力を伝えることを「邪魔」していない映像であれば、充分によいものといえると思います。

「生のステージを観るのでは得られない」演出という意味でも、お客さんが入っているときのライブの映像収録・配信とは、また違った視点が必要だと感じています。

僕らもまだまだ、試行錯誤を重ねているところですが、3月31日に配信したNILKLYさんの配信は、メインで利用しているカメラは4台(固定カメラ入れて6台)ですが、無観客ならではの撮影のありかたを考えてトライした事例です。はたして、どこまでそうしたゴールに到達できているのか、ぜひとも観ていただいて、感想などいただければうれしいです。

どんなに多くのカメラを投入して編集・スイッチングしていても、「邪魔」と感じるうざったい表現であったらダメなんだと思います。前にも書きましたが、音楽モノに関しては、以下に尽きると思います。

音楽モノの配信をしたり、見ていて思うのは、プロのカメラマンであっても、音楽のセンスがない人が撮る映像はグルーヴがいまいちで、音楽やっている人や音楽好きの人のほうが絶対にいいと思っているのですが、今回、店長の根岸さんにカメラをやっていただいて、その思いがまたまた強くなりました。
カメラももちろんですが、スイッチングについても、音楽的センスが非常に重要なんですよね。拍(表でも裏でも)とか小節の区切り、ダンスの動きにスパっとはまると、本当に違和感もなく気持ちよい映像ができあがります。

この辺については、以下でも書いてみましたので、よかったらそちらもご一読ください(2020年5月14日追記)

機材への興味や技術先行ではいいものは作れません。どういう画を撮ってみせるのか? という視点での優れた「ディレクション」があれば、プロのカメラマンと箱レンズのカメラにも負けない映像をiPhone 1台で撮ることだってできるはずです(もちろん、iPhoneのカメラでは寄れないので、撮影者が演者に近づかないといけないなどの限界は当然あります)。

一番残念なのは、とりあえずスイッチャを用意したから、カメラも複数台用意して、三脚に据えてみて、なんの演出上の意図も意思もなくスイッチングしているような映像です。驚くべきことに、有料の配信でもそうした映像を見せられることがちょいちょいあります(はっきりいえば、腹立たしいですね)。

さらにいえば、音量レベルが適切でなかったりするなど、音に関しても課題は多いと感じています。高音質をうたってハイビットレートの配信が可能なプラットフォームも登場しようとしていますが、いまはそれ以前の状況としかいえません。

ライブ配信の音(特に音楽モノ)については、故佐久間正英氏がトライされていたライブ配信向けの音作りを、無観客配信をやっている現場だからこそ、真剣にトライすべきなのではないかと思っています(無観客なら外音のボリュームを抑えられるので、FOHでもモニターもしやすいですからね)。

ライブハウスがやっている音楽配信・トークイベント配信でも、こうした議論以前の本当にひどいものも存在するので、ここは真剣に改善していく必要があると感じています。

こうやって、一定の品質の映像と音がつくれたとしても、先にも述べたように、それは最初の一歩であって、それを観てもらうタイミングや文脈、それを観る環境(チャットなどの存在や、視聴に使える機器)が重要なのだと思います。

結局、普通に生のライブを企画・演出するのと同様に、演出面はもちろん、そのライブをその日・その場所でやる理由みたいものを真剣に考える必要があるのだと思います。

有料でやるのか、無料で投げ銭なのか?

ドームツアーが即完売するようなミュージシャンやアイドルであれば、有料配信でもチケットがそれなりに売れる期待はできます。

もともとのファンで時間の合う人、相当気になっていてライブを見たいと思ってくれていた人でない限り購入まで至ることは期待できないことを考えると、ライブハウスで数百人の集客が限界のグループでも、有料でやる意味は果たしてあるでしょうか?

実際、どれくらいしっかりやられているのかという疑問もありますが、自分たちの楽曲でも作曲家・作詞家がJASRACやNexToneなどに権利を委託していれば、ビデオグラム録音やインタラクティブ配信の申請と使用料の支払いが必要になります。

JASRACやNexToneに対する著作権使用料や、有料配信プラットフォームの利用料、決済手数料、会場費、PAさんや照明さんの人件費、配信スタッフの人件費や機材費を考えて、ペイできるのかは考える必要があります。

また、有料での配信に使えるプラットフォームは限られるため、そうしたプラットフォームが提供する視聴体験がよいものになっているのか? ちゃんとターゲットになる視聴者層にとって購入が難しくないか?(決済手段や海外からのアクセスが可能かなど)も考慮しなければなりません。上記でも述べたような、視聴体験のためには重要なチャットなどのチャンネルがあるのか、それが使いやすいのかもポイントになります。

無料であれば、YouTube Liveのように使い勝手もよく、ユーザーへのリーチもしやすく、ユーザーの視聴体験も高いプラットフォームが利用でき、より多くの人に観てもらえる可能性があります。アーカイブを残せば、SNSでのライブ配信の評判をみてアーカイブを観てくれたり、コストをかけて配信したコンテンツが放っておいても“宣伝役”として機能してくれる期待もできるのです。

ちゃんとしたコンテンツをアップロードして、ファンを着実に増やしていけば、一見ハードルの高いYouTubeの収益化の最初の閾値である、チャンネル登録者数1,000人、過去1年の総再生時間4,000時間の達成もそこまで難しいものではないはずです。ちゃんとしたコンテンツによってチャンネルを育てて、“Super Chat(スパチャ)”での投げ銭機能を使えるようにするのもひとつの手です。

また、ライブ配信をやる機会をいかして、うまく通販での物販の需要を喚起できれば、案外費用は回収できてしまうものです。

ファンを増やすプロモーションとしての視点

お金を払ってまで、有料の配信を観てくれる人は既存のファンか、過去にライブ会場で対バンで観て気になっていたなど、なんらかの接点があった人たちがほとんどでしょう。

いまはライブ会場で生の音楽に触れていた経験を取り戻したい、そのかわりになるものをファンは渇望していて、アイドルやミュージシャンの過去のパフォーマンスから得られる期待値という貯金を切り崩している状況なので、それがなくなったら先はないかもしれません。

これまでのライブハウスでのライブであれば対バンイベントだったり、フェスでの共演を通して、新しいファンを獲得したり、名前や音楽性などを知ってもらって、興味を持ってもらうきっかけをつくることができましたが、単独の配信では難しいものがあります。

既存のファンから細くお金を集め、質の低い配信や体験でファンを減らしていくようなことでは先はないのは間違いありません。

そうした視点にたって、有料で配信するのか? 無料でやるのか? を判断していく必要があります。

じゃあ、対バンイベントを無観客ライブ配信すればいいじゃないかということになるかもしれませんが、「東京都感染拡大防止協力金」でも無観客ライブの実施においては『同時に複数の演奏者等を出演させないなど「三密の状態」を発生させない使用に努めていただくことが必要』としているように、オンライン上での対バンイベントを実施する場合は、控え室なども個別に用意するなど、多くの小規模ライブハウスでは難しい面もあります。複数のライブハウスをつないで、交互にライブをやっていくなどの工夫も必要かもしれません。

有料配信プラットフォームの選択肢

無料での配信のメリットを挙げてきましたが、有料でやっていくという選択肢ももちろんあります。無料での配信でファンを獲得しつつ、有料のイベントも開催していくという方法もあるでしょう。では、どうしたプラットフォームを選ぶべきでしょうか?

こうした状況のなかで、有料でチケットを購入して購入者だけが配信を視聴できるようなサービスがいくつか出てきています。比較的広く使われているのが、もともとチケット販売サービスを提供してきたZAIKOによる「ZAIKOライブ配信電子チケット」です。

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通常のイベントのチケットと同様の流れでライブ配信のチケットが購入できるのが特徴です。

残念なことに、まだスタートしたばかりのサービスのため、必ずしも使い勝手がよいわけではなくて、たとえば配信ページを開いた時点で配信が開始されていない場合、配信が開始されても自動で再生は開始されず、ブラウザのリロードが必要だったりします。

ライブ配信中は巻き戻して再生できないため、配信開始に気づけなかったユーザーは、配信終了後にアーカイブをみないと冒頭が観られないという問題が発生するため、配信する側があらかじめ配信開始時刻より前から「蓋画」で配信をはじめておくなど、工夫が必要です。

また、チャット機能はないため、Twitterでハッシュタグを決めてツイートしてもらったりするなどの対応は必要で、インタラクティブなやりとりをするには向いていないことは否めません。

ユーザビリティに関しては、やはりすでに多くのユーザーによってもまれているYouTubeなどの既存のプラットフォームのほうに一日の長があるのが、まだまだ紛れもない現実です。

また、ZAIKOが配信プラットフォームとして利用しているVimeo自体が、昨今の需要増のせいか、ライブ配信については若干不安定であることもあって(実際、仕事で関わっている案件でも1080pでは不安定で720pでの配信を余儀なくされるケースもありました:2020年5月26日追記)、有償で提供するのに見合っているかについては、現状においてはやや懸念される点です(ZAIKOはYouTube埋め込みでやっていた例もありましたが、YouTubeの利用規約的にはNGの疑いがあります)。なお、JASRACとの契約は行われていると伺っています(2020年5月26日追記)。

ライブ配信後にチケット購入できる期間と、アーカイブが視聴できる期間が短めに設定されているため(ZAIKO側のアーカイブ期間に制約があるのかは設定に関わったことがないのでわかりません)、買ったものの視聴できずに終わってしまったり、また、配信の評判をSNSなどで知って、視聴しようと思っても、購入&視聴ができないなどの機会損失ももったいない点です。また、配信する側が、アーカイブを買ってもらう意識でSNSでの宣伝などをしないことも多く、そこについては、もったいないなぁと感じています。

一方で、UIは多国語(日本語、英語、韓国語、中国語)に対応していて、PayPalやWeChat Pay、AliPayなどに対応しているなど、海外ファンへもリーチできるのは優れた特徴です。ライブアイドルシーンは海外ファンも一定数いるグループも多いため、海外から視聴できるかは配信プラットフォームの選択において重要なポイントです。

視聴体験についていえば、青山のライブハウス「月見ル君想フ」さんがやっている、Moonromantic Channelが採用しているWixでも同じように開始時にリロードしなければならなない問題があるうえに、配信の品質が安定しない印象もあります(配信の中断などあるとリップシンクがずれるなど、音楽モノとしては致命的な問題もあるようです)。

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Vimeo自体も月額7,500円の「Premium」プランであれば、課金したライブ配信が可能であるため、そちらを使うのも1つの選択肢です(契約に必要な書類などの面倒はありますが)。

また、ツイキャスなども「プレミア配信」というサービスを開始していて、JASRAC、NexToneとの包括契約もありますし、長く続いてきたサービスゆえにUIなどもこなれているので、ツイキャスとの親和性の高いコンテンツであれば、ひとつの選択肢になりそうです。

実際にこのnoteを書いたあとに、配信側としても視聴側としてもツイキャスさんのプレミア配信を利用しましたが、配信自体はさすが長い実績があるだけあって安定していました。やや、アーカイブ視聴へのアクセス方法がわかりにくいところもあるのですが、配信中は「アイテム収益専用アイテム(お茶爆50・100・500)」で、投げ銭もできるなど、すでにファンがツイキャスになれているアイドルの配信には向いているなと感じました。チャットの機能もあるので、視聴者どおしや演者とのリアルタイムのコミュニケーションも問題なく行えます(2020年5月26日更新)。

先日、高音質をうたったサービスとして「MUSIC/SLASH」というサービスのローンチが発表されるなど、今後もいろんなプレーヤーが参入してきそうな分野です。

YouTube Liveの優位性と問題点

YouTubeを選択するよさは、UIも国際化されていて、ユーザーも使い慣れているので、海外からのアクセスも予想以上に多いということです。

また、市販の液晶TVなどがYouTubeに対応していたり、Amazon Fire TV Stickなど多くのデバイスで再生できるので、大画面で視聴したいというニーズにも問題なく対応できます。

ZAIKOの有料配信の場合、PCやMacでの再生であれば、TVを接続しての全画面表示はできますが、iPhoneなどではできないようです。プラットフォームの選択の際にはそういう視点でのチェックも欠かせないと考えています。

iPhone版のYouTubeアプリを例にすると、「Lightning - Digital AVアダプタ」でHDMIでTVにつなげば、動画はTV画面に、チャットはiPhoneの画面に表示されるなど、大画面でライブ映像を視聴しながら、手元のiPhoneでチャットのやりとりができるなど、すぐれた視聴体験を得ることができます。

また、ファンがチャンネル登録し、通知を有効にしていれば、配信開始がスマホなどに通知されたり、アーカイブしたものについてはオススメのリストに出てくるなど、多くの人に発見され、観てもらえる期待も持てます。無料で誰でも観られることも手伝って、新たにファンになったというコメントがあるなど、ファンの拡大の効果も期待できるのは、有料配信では得られにくいメリットです。

多くのライブ配信でも、アーカイブで視聴が伸びる例は非常に多いので、問題がなければ、アーカイブを残すほうがオススメです。

ライブ配信とアーカイブは同じURLとなるので、ライブ配信中にSNSで話題になれば、そのリンクからアーカイブへのアクセスが可能なので、興味を持ったひとにすぐ観てもらうことも可能です(興味を持ってもわざわざ検索が必要では、観てもらう機会を逸してしまうので、簡単にアクセスできることは重要です)。

安定した視聴という意味では、YouTubeはIPv6にも対応しているので、NTTのフレッツ網でのIPv4(PPPoE接続)が夜間・休日にアクセス増で速度低下している一方でIPv6(IPoE接続)は安定しているなどの状況を考えると、IPv6での視聴ができるかどうかはプラットフォーム選択のうえでは、地味ですが大きなメリットになり得ます。

配信する側の視点でみても、JASRACとNexToneとの包括契約があるため、事前に許諾の申請や使用料の支払いが発生しないのは大きなメリットです(ニコ生やツイキャス、SHOWROOMなども同様の包括契約をしています)。なお、こうした包括契約は、他のサイトへの埋め込みの場合では、別途許諾が必要なケースもあるので注意が必要です。

利用規約上「YouTubeの視聴の権利」を外部のサイトなどを通して販売する行為はNGと考えられるため、あくまでプロモーションを主眼として無料で配信して、スパチャや物販での費用回収を考えたほうがよいでしょう。また、YouTubeからのリンクによって物販につなぐことには制約はあるので、Twitterや公式サイトでの告知、MCでの案内などを通して誘導することになります。

YouTubeの動画もライブ配信も、特定の「チャンネル」のなかで行なうのですが、どのチャンネルでやるのかも重要です。箱のチャンネルなのか、レーベルのチャンネルなのか、所属事務所やアーティスト名のチャンネルなのか? などは、オトナの事情での選択となることもあるでしょうし、スパチャを使えるチャンネルを選ぶこともあるでしょう。しかし、アーカイブを長く残していくこと、どのチャンネルを育てていくのかという視点で、場合によってはチャンネルを整理することも必要かもしれません。

YouTubeを使うリスクとしては、コミュニティガイドラインに反する動画やライブ配信は削除される可能性があるということです。通常時であれば、視聴者からの通報に対して、人の手によって最終判断がなされていたのですが、現状ではスタッフの感染リスクを抑えるために、AIなどによって機械的に判断されてしまっていて、“疑わしきはBAN”のような状況にあるので、動画そのものはもちろんですが、概要欄などのテキスト情報にも注意を払う必要があります。

また、YouTubeではContent IDという仕組みによって、権利者がもっている音源と一致するものを自動的に検出して、権利者が設定した対処(収益化の禁止やコンテンツの削除)が自動的に行われるため、ちゃんと自分たちが配信できる権利を持っている音源でも、レーベルやエージェントが管理している場合、あらかじめ配信に使うチャンネルを「ホワイトリスト」に入れてもらっていないと、配信中に止められてしまう可能性があり注意が必要です。

そもそも、自分たちが権利を持たない音源を使うことはできません。そのため、ド地下アイドル現場でみかけると聞く「カバー」と称して、他のミュージシャンのインスト音源だったり、カラオケアプリの音源を使うようなのは完全にNGです。

JASRACやNexToneが管理しているのは、作曲家や作詞家の権利(著作権)ですので、音源など演奏の成果物についての権利(著作隣接権)はまったく扱いが違います。

ライブ配信が音楽シーンに欠かせないものになるために

ライブハウスでお客さんをいままでどおりに入れてライブができる時期がいつくるのかが、まったく見通せない状況のなかで、ライブ配信が担うべき役割は非常に大きい一方で、現状のままの品質ややりかたでは、続いていかないし、新たなファンを獲得していくのは難しいと言わざるをえません。もしかしたら、既存のファンすら失うことになってしまいかねません。

どうしても、ライブ配信に関する情報共有においては、技術視点の情報が多くなりがちではあるのですが、ファンとの関係性の構築やインタラクションを含めた視聴体験含めて、演出面のディレクションが極めて重要だと考えています。

こんな時期ですので、サポートいただけたら家飲みビール代としてありがたく使わせていただきます! ご紹介しているような配信案件などのご相談ありましたら、TwitterやFacebookなどでどうぞ!