第 4 章: シードアクセラレータープログラムに受かるまで


BenkyoPlayer.comをオープンした直後から、以前申し込んだシードアクセラレーターへの参加を意識するようになりました。 やはり週末や平日の夜にまとまったプログラミングをする時間はあまりないですし、一緒に作った同僚のオリバーとも、仕事中におおっぴらにBenkyo Playerの話もしづらいですし。なにより最近私ばっかりコミット(ソフトウェアのソースコードをバージョン管理システムに保存すること)して、オリバーのコミットがあまりないので、まとまった時間がほしいと思っていたところです。

応募

私が今回の企業アイデアで挑戦した時には全部で6つのプログラムに応募しました。アメリカのプログラムに2つ、イギリスのプログラムに3つ、そして他のヨーロッパのプログラムに1つ。


5年前と違い今回はYコンビネーターにも応募したのですが、インタビューのお誘いすらもらえませんでした。あそこはいくら60チーム近くとるといっても、応募チームも2000近くあるので非常に狭き門です。あとで知ったのですが、年々拡大の一歩をたどるYコンビネーターは前回のプログラムで80チーム近くとったところ「なにかがおかしくなった」とのことで、今回は半分ぐらいに縮小したとのことです。

書類審査に受かった場合、応募して2~3週間ぐらいで面接の招待がきます。海外のプログラムではSkypeでいいよと言ってくれるところもあるし、直接いかなければいけないところもあります。

最終的に私は3つほどのプログラムからインタビューの招待をうけましたが、1つは辞退しました。辞退したところはリトアニアにあるプログラムで、面接もSkypeで良いと言ってくれていたのですが、本当にその国までいって3ヶ月間すごす自信がなかったので辞退することにしました。

面接

最初に面接をうけたプログラムはイギリスの中部、バーミンガムにあるプログラムでした。同僚のオリバーは「え〜、バーミンガムなんかやだ。ちょ〜つまんない町だし」とあまり乗り気ではなかったのですが「面接の練習だと思っていこう」と説得して参加することにしました。

面接のフォーマットですが、面接官達は2つの部屋に分かれ、2回にわけて面接をします。1つの面接時間は20分。自分たちのピッチを5分ぐらいした後、残りはQ&Aでした。

最初の面接はちょっと圧迫面接みたいな感じで「こんな検索機能、コースプラットフォームが各自で実装すれば終わりじゃないの?」「どうやってマネタイズするんだ」みたいなことをしつこく聞かれました。大体は想定内の質問だったので「複数のプラットフォームの字幕を自分たちのシステムに取り込むことでプラットフォーム間の相互検索も可能にする」とか「フリーミニアムモデルで、高付加価値機能に対してお金をとる」とか受け答えしておきました。でもその圧迫面接みたいなことをしてきた面接官、あとで個別にメールを送ってきてくれて、「こういった点をもっと良くした方がよいよ」とアドバイスとかくれました。やはりいろいろ聞いてくる人は興味があるから聞いてくるんだと解釈して前向きに受け取ったほうが良いですね

最初の面接の直後に行なわれた2回目の面接では逆になごやかな感じでした。私たちが「Benkyo Player」です、と説明すると「Bento みたいだね」と笑いながら面接官に言われました。

そう、名前選びって語感が重要ですね。「勉強に特化したビデオプレーヤー」を意識したのですが、その時に「勉強」という単語と「学ぶ」というふたつの日本語が候補にあがりました。しかしながら「Manabu」を会社の同僚にいったところ「Man's boob」(男のひとのおっぱい)みたいに聞こえると言われたのでBenkyoが採用されました。後であったフランス人の人はすごくBenkyoの語感が気に入って、彼の新サービスの名前を「Benkyt」と命名していたのですが、「それって便器みたいに聞こえるからやめた方が良いよ」と忠告しておきました。

それはさておき、このバーミンガムで受けたプログラム、結局最終選考リストまで残ったとの連絡がきたのですが、そのまま音沙汰なし。 結局受かった人のアナウンスすらされませんでした。後日、そのプログラムがロンドンに移ってきたと聞いたので、あまり良いチームを集めることができず、キャンセルしたのではないかと思います。やはり都会以外のところだとスタートアップを集めるのに苦労するのでしょうか。

次に面接を受けたのが最終的に私の参加することになったプログラムです。

1度目の反省点からいろいろ模擬解答を修正することができたし、なにより面接官の人が私が以前カンファレンスかなんかで話していたのを聞いていたらしく、ラッキーでした。その人も自分で勉強会やイベントを主催したりしているのでいろいろ共通点もあったのが良かったのではないでしょうか。ビジネスモデルのところで私が「ユーザの履歴情報をオンラインコースの先生にもわかりやすい形で分析データとして提供したい」というと「そうそう、そういうところでビッグデータを活用できるんだよね」と相づちをうっていました。その面接官の人は前年度にそのプログラムを卒業した人らしく、自分と似た境遇の人がプログラムに参加しているということによけい親近感を覚えました。

当選…!!!

その面接から2週間後にプログラムに受かった旨を電話で受け取りました。 その時には実はちょっとあきらめ気味でした。Yコンビネーターからはインタビューのお誘いすらもらえず、バーミンガムのプログラムからも何の音沙汰もないし。でも前回のようにすぐにBenkyo Playerをあきらめたくはなかったので、夏の間にどういう機能をつけたら来年度のプログラムに受かるか考え始めていたくらいです。

オフィスにいた時に携帯に電話がかかってきました。「BGVからです」といわれたので急いでオフィスの外に飛び出し、会話を続けると「おめでとう。Benkyo PlayerはBGVのプログラムに受かりました。」とのこと。何度も「本当ですか?」と聞き返したのですが夢ではないようです。

最初に起業を意識してから足掛け8年、今すぐにでも「参加します」といいたかったのですが、ちょうどその日はオリバーが会社に来ていなかったので、はやる気持ちを押さえつつ「共同創業者が今日はいないので、彼の返事をもらってから返事します」といっておきました。なんでもオファーを受け取るかの決断は1週間ほどかけて良いらしく、急ぎではないようです。

彼の携帯のメッセージに、うかったよ、承諾の返事するから確認の返事ください。と送っておきました。 てっきりすぐに返事があると思っていたのですが、その日は返事がありませんでした。まあ、病気だろうから携帯の見てないんだろうと思い、その日はほっておきました。

翌日は会社に来ていたので、卓球室兼会議室に呼び出し、卓球をしながら返事を聞くと「ごめん、参加できない」とのこと。何が今起きたのかよくわからず、パニックになりつつも、まあこんなところでこんな重要な話をしてもしょうがないから、明日の朝、カフェに行ってからゆっくり話を聞いてみることになりました。

詳しい話を聴いてみると、彼のガールフレンドが地質学を勉強していて、南アフリカにある会社から良い条件でオファーをもらったので、オリバーも就職活動をしているとのこと。そういえば彼はよく南アフリカに彼女について旅行に行っていたし、 バーミンガムのでのインタビューに行く途中に将来の希望を聞いたとき、南アフリカにで住んでみたいと行っていました。しかしまさかそれが今年のプランだとは夢にも思っていませんでした。 「それじゃあ、Benkyo Playerは最初からやる気がなかったの?」と聞くと、「そうではないけれど、とりあえずどこまでいけるか見てみたかった」とのこと。そしてさらに運の悪いことに、ちょうど私たちのプログラムに当選が決まった日に、 彼が面接中の会社から最終面接の招待をもらったとのこと。そこでもう先伸ばしにできず、参加は出来ないと私に切り出してきたようです。 「なんでそんな大事なことを前もって言ってくれなかったの」とさらに問い詰めると、「そういうことを真剣に話す機会がなかったよね」との返事が。 どうやらBenkyo Playerに対する思い入れは、私の片想いだったようです。 まあそういわれれば、今年に入ってから彼のBenkyo Playerに関する貢献度がほぼゼロだったときに問いただせばよかったのかもしれません。私にすれば、シードアクセラレータープログラムに応募することが彼の本気度を図る試験みたいなものだったのですが、まさか当選した後にこういう形で切り出されるとは思っても見ませんでした。 じゃあこれからどうしようかと途方にくれていると、オリバーは「一人で参加するべきだ、正直面接官達は君の熱意を買っているわけだから大丈夫じゃない?」といってきます。「何を今さら」、と思ったのですが、他には諦める以外道がないので、それで大丈夫か聞いてみるしかありません。

通常こういったシードアクセラレータープログラムでは二人以上での参加を強力に勧めてきます。理由は起業の際のストレスやプレッシャーは一人で耐えるにはきつすぎるから、そして共同創業者を得られない人は、その人が十分な信頼を得られていないか、そのアイデア自体が良くないということを意味するからです。共同創業者を得ることは、最初の起業テストと言っても良いでしょう。私たちのプログラムの応募要項も、一人での申し込みを禁止してはいませんが、やはり二人以上のでの参加を推薦していました。

こういった大事なことを電話で話すのもなんなので、直接出向いてプログラムの面接官であるパートナー達に説明しました。

2週間で15人を面接は可能か?

彼らに事情を話すと理解はしてくれましたが、やはり共同創業者が必要とのこと。「参加承諾の期限はあと1週間だけど、君の場合は事情が事情だけに2週間の期限をあげよう」とのこと。 そこで知り合いの中から15人をリストアップしました。私とオリバーは結構スキルセットが似ていたのですが、せっかくの機会なので、私にたりない技術や能力を補完できる人。具体的にはデザインスキルのある人か、数学の能力の高い人を高く評価し、そして評価の高い人から順にアプローチしていきました。 しかしながら、今すぐ私と一緒に起業しよう、といってそうかんたんにうんといってくれる奇特な人がいるわけではありません。最初に返事があった人はスキルも申し分ないし、フリーランスなので会社をやめる必要もないし、何より起業家精神の高い人でした。しかしながらそういう人はえてして自分の起業アイデアを持っています。その人の場合はアイデアだけでなく、実際にプロダクトも作り上げたところでした。一応Skypeで話を聞いてくれるところまでは成功したのですが、自分のアイデアを捨ててまで参加するほどではないと思ったのか、断られてしまいました。二人目の人も同様に、Skypeまではしてくれましたが、「オレは今の会社で十分満足してるから」、という理由で断られました。その後の人達は返事すらなかったり、他の人を推薦してくれたり、「養う家族もいるの で、この投資金額で生活するのは無理」、という返事をもらい、1週間が過ぎました。

だんだん手持ちの駒も少なくなってきたところ、1人興味を示してくれる人が見つかりました。彼はイギリスの超有名大学を出ていて、プログラミングも私の10倍ぐらいできる上、物理学を専攻していたので数学力もバッチリです。私が今まで躊躇していたのは彼が会社の同僚であり、なおかつ現在同じプロジェクトを担当している唯一のメンバーだったため、二人同時に止めると、今の会社に多大な迷惑がかかると思ったからです。

彼にBenkyo Playerのプロジェクトを詳しく説明し、実際にプログラムのパートナー達にもあってもらいました。

そこまで持ってくるのにもう1週間費やしてしまいました。 彼は、週末に友達と色々相談してみる、といわれたので、パートナー達にも翌週の月曜日まで待ってもらうことになりました。

これでなんとかなりそう、と安堵していたのですが月曜日にもらった答えはノー。彼も色々考えたあげく、スタートアップに今後の1~2年を賭けるほどの興味が持てないというのが主な理由でした。

非常に落胆はしたのですが、充分に考え抜いた上での決断なので尊重するしかありません。また安請け合いされたあげく、やっぱりごめん、と言われるよりはましでしょう。

もう本当に声をかける人がなくて困っていたのですが、ダメもとでリストの一番の下にあるさゆりさんに声をかけてみることにしました。

1.5人分

彼女は日本から語学を習いに来ており、今どき古風にも黒髪で長髪、前髪は眉毛上で揃った出で立ちから、「リング」という映画に出てくる貞子さん、と個人的に呼んでいます。本人は認めていないようですが。

彼女は去年日本から来た際、オリンピックハッカソンのデザインなどをボランティアで手伝ってもらっていました。

今回イギリスに来た際も、午後3時から始まる半日授業にの合間に、時間があればデザインを手伝ってもらえることになっていました。

彼女は共同創業者にはなれないけれど、ボランティアとして二人で1.5人分でなんとかかけあってみることにしました。

そうすると、「じゃあ彼女を連れてきて、とパートナー達から連絡があり、改めてさゆりさんを交えて面接をうけたところ、なんとかオッケーがでました。

この時点でプログラムが始まるまで2週間弱しかない状態でした。

Yコンビネーターでは、プログラムの終了後3割の会社の創業者達が仲違い、もしくは創業者の1人が脱落してしまうらしいですが、私のようにスタート直前に相方を失ってしまう例は少ないのではないでしょうか。

起業を飛行機での旅に例えると、離陸の前からエンジンが片方落ちた状態で、助走しながらエンジンを付け替えたと言っても良いでしょう。


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