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◆部活嫌いで歩くのも嫌い、そんな自分がエベレストに挑戦したワケ

 アイアンマン完走、ゴビ砂漠マラソン完走、セブンサミット登頂。これだけ見ると、学生の時からガチなスポーツマンだったかのように思われることも多いのですが、もともとスポーツが好きだったわけではありません。中学の時は一応、陸上部には所属していたものの、ほぼ帰宅部と言っていいくらい。部活は大嫌いだったし、小学校のころに親から無理やり野球・サッカーをやらされていたのですが、そちらも大っ嫌いでした(笑)

 運動神経はまあまあ良かったかもしれません。でも決して「スポーツ最高!」というタイプではなく、むしろ家でファイナルファンタジーなどのテレビゲームをやっている方が心地いい、そんな小・中学生でした。

 高校時代は帰宅部で、大学時代はウィンドサーフィンとスキーの飲みサークル。ウィンドサーフィンは一見スポーツっぽいですが、「海ってなんかいいかも」という程度で始めただけです。週末は鎌倉でウィンドサーフィン、という時期もあったのですが、常にスポーツをしていないと気持ち悪い!というわけでなく、肉体的にもアスリートとは程遠い状況でした。
 このように、けっしてスポーツマンタイプではなかった僕が大人になってから始めた競技、それがトライアスロンとゴビ砂漠マラソンです。
 とある雑誌でトライアスロンの記事を読んで、「極限に挑むこと=カッコいい」と純粋に思い始めたんです。きっかけはその程度です。

 僕が影響されたその記事には、トライアスロンの中で最も過酷といわれるアイアンマンレース(水泳3.8km、自転車180km、マラソン42.195km)が紹介されていました。記事を読んだとき、「これはイカレてるな」とやけに胸がざわついたのを覚えています。さらに続けて、ゴビ砂漠マラソン250kmの記事も目にしました。「なんでわざわざ砂漠なんかを走るんだ!」と思ったのですが、「イカレてる= カッコいい」という思いが昔からあったので、同じく妙に、僕の心にひっかかりました。

 このように、トライアスロンとゴビ砂漠マラソンに対する僕の動機は、スポーツというより「極限への挑戦」「自分との闘い」「何かイカれたことをしたい」こんな思いから始まったものだったのです。


◆アイアンマンレースに出場できない?
 
繰り返しになりますが、僕は「スポーツ人間」ではありませんでした。自転車は好きだったのですが、これは電車が大嫌いだからという消極的な理由です。東京に住んでいるので、電車に乗る代わりに自転車で走り回っていました。走るのも歩くのも大嫌いで、自転車が一番楽だったのです(笑)。 そんな僕でも、一度試しにハーフマラソンに出場してみたことがありました。ただやはり疲れただけで、走ることにはまったく面白みを感じませんでした。

 走ることが嫌いだったにもかかわらず、「極限への挑戦」という意味でトライアスロン自体には興味を持ちました。そこで試しに最短距離のレース(スプリントの場合は水泳0.75km、自転車20km、ラン5km)に出場。正直これも面白いとは思わなかったのですが、アイアンマンレースの極端さに惹かれていたので、その後すぐにエントリーしたのです。しかしアイアンマンレースには参加資格が必要で、スプリントなど短いレースの実績だけでは出場できません。仕方なく2回目に、アイアンマンの半分のレース「アイアンマン70.3」という大会に出て参加資格を取得。3回目でやっと、メキシコ・アイアンマンレースに出場することができました。


◆「自分を追い込む」のが楽しい
 
レースを振り返ってみると、水泳はまあまあ、バイク(自転車)は良いものを買えばなんとかなったのですが、やはりランが全然ダメでした。どんなに頑張っても30km走るのが限界。アイアンマンの場合、泳いでバイクに乗って、と走り出す前の時点ですでにバテていますから、最後の42.195kmはほぼ歩きになってしまうのです。
 僕がアイアンマンに挑む感覚は、他の出場者とはまったく違ったのかもしれません。スポーツというより、修行僧のイメージ(笑)。水泳、バイクまではなんとかスポーツの域ですが、そのあとはただただ修行。最後のランは、もはや四国八十八ヶ所巡りの感覚です。結局タイムはいつも制限時間ギリギリ、約14時間でのゴールでした(アイアンマンの制限時間は17時間)。
 でもレース自体は、とっても楽しいものでした。僕が過去やってきたスポーツの中でもかなり極端だったので、記録よりも「もうダメだとなった時に、さらに自分を追い込むこと」「自分に対する極限への挑戦」、ここに新たな楽しみを見出すことができたのです。


◆エベレストに対する気持ちを再確認

 その後、北海道のアイアンマンレースにも出場しましたが、タイムを競っているわけではないので、何回も繰り返すというモチベーションにはつながりませんでした。そこでもう一つ気になっていたレース、250kmゴビ砂漠マラソンへ行くことにしました。都市で開催されるトライアスロンとは違い、大自然の中だとまた違った感覚を発見できるんじゃないか、とすごく期待したのです。自分の中の眠っている「何か」を呼び覚ましてくれるんじゃないか!と。
 
実際に走ってみたら、予想通り最初は好調。「お!!お!!いける!!いけるぞ!!この初めての感覚はなんなんだ!」と、興奮気味でステージに入っていったのですが、いつも通り30kmの時点で足がまったく動かなくなりました。ゴビ砂漠の自然が、ふだん使っていない「何か」を呼び覚ましてくれるはず、との思いは、早くもここで打ち砕かれたのです(笑)。

 結局ゴビ砂漠マラソンで走れたのは、いつも通り30kmだけ。残り220kmはすべて歩くことになり、これまた修行になりました(笑)。ちなみにゴビ砂漠マラソンは一気に250kmを走るわけではなく、1日約40kmを計6日間で走り切るというステージレースです。僕はすべて歩きなので、他の参加者が走って5時間ぐらいで終わるところを、10時間かけて歩く。みんなゆっくりリラックスして夜ご飯を食べているところに、やっと自分が到着。翌朝、他の参加メンバーと同じ早朝に出発し、また自分だけ夜遅く到着。その繰り返しでした。
アイアンマンレースと同じく、僕だけが何か別の競技のようになっていましたね。とにかく、絶対にゴールへ到達してやる、その執念で完走(完歩)しました。

 ゴビ砂漠マラソンはアイアンマンよりもさらに過酷なレースだったので、やはり面白かった。アイアンマンは1日で終わりますが、ゴビ砂漠マラソンは6日間です。しかも大自然の中で、まわりに誰もいなくなる。この感覚が本当に最高でした。参加者、運営スタッフ含め、レースに集まる方々がすごく魅力的だったというのも印象に残っています。

 アイアンマン、ゴビ砂漠マラソンと経験して、「ブッ飛んだところに行けばいくほど、面白い人が集まる!」という事実を発見したのです。そして、もっともっとブッ飛んだ場所を攻めていこうと心に誓いました。それが、エベレスト登頂です。
 実はゴビ砂漠マラソンの途中で「次はエベレストに行く!」と宣言していました。そのときの僕はほぼ歩きで、実力としても下から数えたほうが早いレベルだったので、まさか本当にエベレストを目指すとは誰も思わなかったでしょうね。

 ゴビ砂漠マラソンでいきなり宣言したかのように思われる「エベレスト登頂」ですが、その場の思いつきではなく、自分の中で長年あたためていた思いが2つあったのです。

 僕は中学生の頃から「人生でやるべきことリスト」を作っていたのですが、その中に「エベレストへ行く」という目標がすでにありました。でもアイアンマン、ゴビ砂漠マラソンが終わった時点でまだ達成できていなかった。極限へ挑戦することの面白さにますますハマり、エベレストへ行きたい気持ちが一気に現実のものとして降りてきたのです。

 もう1つは、大学時代に行ったバックパックで、モロッコの砂漠に宿泊したときのこと。月の光しか見えない砂漠の夜は、人の気配も完全に消えて、まったくの無音。自分という存在すら消えそうになってしまうような、圧倒的な空間でした。そんな空間を味わったとき、「最高だ!こういう瞬間が、自分の感性を呼び起こすんだ!」とすごく興奮し、感動したのを覚えています。そして月を見ながら「必ずエベレストへ行こう!絶対に宇宙へ行こう!」と誓いました。この砂漠での経験は今もまったく色あせず、僕の中でものすごく強力なエネルギー源として生き続けています。


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完全に素人から、エベレスト含む7大陸8最高峰までの1,105日。どういう道のりで達成してきたのか、どんな出会いがあったのか、そして「素人からの挑戦」の過程での新たなチャレンジにより生まれる葛藤、もがきについて書いています。

素人からの挑戦 <目次>
STAGE 0
『はじめまして。2019年エベレスト登頂しました(未来系)』
(2014年4月14日のブログより)

はじめに

STAGE 1 エベレストチャレンジまでの道のり
 ◆部活嫌いで歩くのも嫌い、そんな自分がエベレストに挑戦したワケ
 ◆アイアンマンレースに出場できない?
 ◆「自分を追い込む」のが楽しい
 ◆エベレストに対する気持ちを再確認
 
STAGE 2 心の中で準備ができると、出会うべき人があらわれる
 ◆最強のガイド、倉岡さんとの出会い
 ◆20kgの荷物と5kgの重りでトレーニング

STAGE 3 エベレスト制覇の準備と、セブンサミット攻略
 ◆打ちのめされたエルブルース 5,642m
 ◆低酸素トレーニングで何度も失神
 ◆7,000mを無酸素で登れるかどうか、が境界線
 ◆高所登山で必要なもう一つの要素
 ◆高所では自分の状態を把握できなくなる
 ◆山専用のコックさんがいる
 ◆1日5リットルの水を飲む
 ◆最適な「酸素の吸い方」を編み出した
 ◆本当は2度泣いたチョーオユー(コラム)(チョーオユーを登頂した数日後の日記より)
 ◆エベレストからセブンサミットへ
 ◆7割が下山で亡くなる
 ◆セブンサミット挑戦中、常に僕の前にあったもの(コラム)
 ◆お金をケチると、死ぬ確率も高くなる
 ◆山は本能を研ぎ澄ます
 
STAGE FINAL 突き抜けた本物に出会う旅
 ◆エベレストで「本物」に出会った
 ◆愛すべき“山野郎”たち
 ◆すばらしい「変人」に出会いたい
 ◆宇宙に行くためのステップ
 ◆「本物」に出会う旅
 ◆本物には「バカ」や「アホ」が多い?
 
NEXT STAGE 「宇宙へ行きます!」
 ◆セブンサミットを達成しても、ヒーローなんかじゃないんだぜ
 ◆はじめに2014年のブログを載せた意味

◆おわりに、そして次のチャレンジのはじめに


<著者プロフィール>
星野 誠(ほしの まこと)
1978年、神奈川県生まれ。2001年、中古品売買の会社で新規事業立ち上げに携わった後、自分らしい生き方を実践するために独立。さまざまな事業を経て2005年、子どもの頃から夢だった宇宙旅行の会社「銀河ヒッチハイカーズ」を設立するもあえなく撤退。2008年、前職の経験を活かしブランド中古メガネ店「株式会社 誠」を設立。2017年、夢を実現するため宇宙旅行社「銀河ヒッチハイカーズ」を復活させる。2010年からトライアスロンをスタート。2013年にはゴビ砂漠250kmマラソンに出場し完走。素人からエベレスト登頂を目指し、2017年5月にはエベレスト登頂に成功。2017年10月、登山開始から3年でセブンサミット(七大陸最高峰)登頂制覇。

<公式サイト・著作>
『星野誠 HP』 
7大陸最高峰登頂後から、ブログをコツコツ毎日UP中

『ちょっとエベレストに行ってきます!』
エベレストへ行く! と決めた日からセブンサミット登頂まで、1,105日間更新していたYouTubeです。目指し始めた日から、怠けている日、トレーニング、セブンサミット登頂まで、全日すべてをUPしています。

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素人からの挑戦 星野誠
2018年2月26日 デジタル版書初版発行
発行者 星野誠 & 鈴木基眞
発行元 銀河ヒッチハイカーズ 〒160-0023 東京都新宿区西新宿7−11−15
電話 03−6908−8553 ファックス 03−6908−8428
(C)2018 Makoto Hoshino


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