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将生と有栖

将生と有栖を乗せた軽トラの荷台でこたつに入っていると雪が降ってきた。
気がつくと皆が軽トラを抱えた。軽トラが宙に浮き空へと登って行った。
登って行った先には庭園があり暖かい陽射しが差していた。
庭園には見るからに丸々と太った男女が酒宴を開き絡み合っていた。
将生と有栖はその酒宴を遠巻きに眺めながら歩いて行って関所にたどり着いた。
ウスイ関と書かれてあった。
軽トラを降りて2人は中に入り、しばらく行くとホームがあって電気機関車2両が連結された普通列車が停まっていた。
見ていると電気機関車2両は普通列車から切り離されてウスイ関の外に下って行ってしまった。
ウスイ関の向こうにも線路が伸びていて、快速電車がやってきた。快速電車に電気機関車2両が連結されて発車を知らせる汽笛が鳴った。
将生と有栖は快速電車に乗ってウスイ関の先に向かった。
電気機関車2両連結の快速電車はカルイザワに着いた。
カルイザワで電気機関車2両の連結を外した。軽くショックの体感があった。
将生と有栖は快速電車を降りて隣のホームに渡ると丁度普通電車に電気機関車2両が連結されていた。2人は普通電車に乗ると電気機関車2両連結の普通電車はウスイ関に向かって発車した。
電気機関車2両連結の普通電車がウスイ関に着くと連結を外していて、ホームに駅弁売りが一斉に寄って来て普通電車の窓の下に来た。
将生と有栖は駅弁売りから釜飯を買い求めた。
「関の釜飯だって」
「そうだね」
2人は釜飯の蓋を取った。湯気と松茸の薫りが車内に広がった。2人は黙々と食べた。
ひとしきり食べて有栖が唸って「おいしい」と絞るような声をあげた。
「おいしいね」
将生もそう言って唸っていた。
普通電車でウスイ関を降りて行った2人はタカサキで降りてホームの反対側に渡って快速電車に乗った。
快速電車はウスイ関を目指して走り出した。
ウスイ関で電気機関車2両を連結した快速電車に駅弁売りが集って釜飯を売ると汽笛が鳴った。
電気機関車2両を連結した快速電車はウスイ関を出てカルイザワに向かって行った。
カルイザワで電気機関車2両の連結を外し、快速電車はコモロに向かって行った。コモロの手前、ミヨタまで来ると空気が変わった。今まで暖かい空気だったのが暑い空気になった。
コモロ駅を南に出て庭園に2人は行った。シラカバの木立を抜けて石碑の立つ崖の上から川を眺めた。
石碑にはどうやら歌が刻まれているらしいが風雨に晒されて磨滅してよく読めなかった。
コモロには漫画家の兄弟が住んでいてコモロの話やウスイ関の電気機関車2両連結着脱のことを漫画に描いている兄とカルイザワの暴走族のことを漫画に描いている弟とがいた。
「この町に漫画家兄弟が居てるって聞いてる」
「そうなん」
2人はコモロ駅に戻り快速電車に乗って行った。
快速電車は盆地を走ったあと山間を登って行き、スイッチバックの駅に停まった。
「オバステ?」
「オバステ」
将生と有栖はスイッチバックのホームから麓を見下ろした。
「天国って電車通ってるのね」

快速電車はマツモトに着いた。
将生と有栖は駅前から路線バスに乗り城へと向かった。
まったりと流れる車窓から見える街並みが少し白っぽい色合いをしていた。
「天国ってバスも走ってるんだね」
城の前の停留所で路線バスを降りて2人は城へと登って行った。
城の手前には小学校があって赤色の風雅な建築だった。
「カイチガッコウ」
「カイチガッコウ」
2人はそう言い合って城に登って行った。
城の大手門横に売店があって城壁煎餅を売っていた。
「城壁?」
有栖がそう言って将生に見せると将生は城壁を買い求めた。
城の天守前のベンチに座り城壁を食べ始めた将生が言った。
「この旨塩の程よさしつこくない揚げ味、直径8センチの大きさ。城壁すごく旨い」
「そうよね。旨塩が利いて旨いわね」
天守に登りマツモトの街を2人は眺めた。
マジックアワーで朱色に街は染まっていた。

マツモトからナゴヤに向けて急行電車に2人は乗った。
「きそって言うの?」
「そう。きそ」
キソフクシマで深夜になった。

ナゴヤには朝に着いた。街に出ようと駅の改札を出た将生と有栖に少しくたびれた佇まいのじじいが話かけてきた。
「あの」
「はい」
「コウゾウジまでっていくらでしょうか」
「470圓ですよ」
「家がコウゾウジにあって帰りたいんですがお金持ってないんよ。電車賃貸してくれませんか」
「そういうのは駅で借りて」
じじいは黙って去って行った。
「あのじじい、私がちっとそこに置いてたリュックずっと見てた」
有栖がそう言った。
「ここは天国じゃなくて地獄じゃなかろうか」
将生が言った。
じじいが去ったら女子高生が近づいてきた。
「あの」
「はい」
「家に帰りたいの。でもお金持ってなくて。電車代貸してくれませんか」
「そういうの警察に言うんだよ」
「はい。ありがとうございます」
女子高生は去って行った。

ナゴヤから地下鉄に2人は乗ってオオスに行った。
寺の門前町になっているオオス界隈には飲食店や雑貨屋古着屋などがあった。そのオオスの外れに佇まいの印象的な雑貨屋があった。
入店すると雑貨の密林で、奥に銀髪のおばあさんが座っていた。
有栖がフィギュアで心惹かれるものに出会い買い求めた。
おばあさんは有栖の佇まいを見て言った。
「あなた。かわいい佇まいをしてなさるわいね」
有栖はありがとうございますと言ってフィギュアを受け取った。
オオスを出てナゴヤに戻った2人はオオガキ行き快速に乗った。
オオガキの街は洪水で水没していた。水面を快速電車が走っていく。
オオガキでオオサカ行きの快速電車に接続した。マイバラで快速電車は停車して発車時間が来ても発車せず停車していた。
車内を歩く車掌に将生が聞くと爆弾を仕掛けたという電話がマイバラ駅にあって警備隊が爆弾を探しているという。
1時間後、快速電車はマイバラを出た。快速電車が出てから地響きと爆発音がした。

キョウトに着いた快速電車を降りた将生と有栖は街に出た。ガチャガチャの前でママと息子が立っていてママがしきりにガチャガチャをしていた。息子がママの腕を取って「ママいい加減にしときよ。もうだいぶつこてるやんか」と言っていたがママが「次絶対にシークレットくる気がするねん。あと1回だけ」と言ってガチャガチャを回していた。
ガチャガチャが1玉出てママが開封してみるとママの顔が笑顔になった。
「シークレットやわ」
息子はママの笑顔を見ていた。

オオサカに快速電車は着いた。
将生と有栖は街に出た。
夜のオオサカは魔都だった。
猥雑なオーラに満ちて酒と香料の匂いがした。
2人はナンバの24時間鶏料理に入り焼き鳥を食べた。
賑やかだった。
「オオサカって」
「魔都だよ、ここ」
2人は宿を取った。
濃密な夜というのは、真夏が多い。
ベッドに2人横になり黙っていた。
「私たちってあそこで死んでここに来たのかな」
「わからないなあ。どうでもいいんじゃないかな」
「天国も地獄もあんまり違ってない?」
「見た目ではどっちもごちゃごちゃとあるよ」
「どこまで行く?」
「どうせ片道切符だし行けるとこまで行こう」
2人は黙って重なった。

テレビをつけるとロックフェスが放送されていた。アヤノハルカが夜は言葉を溶かすくすりを歌っていた。
夜は言葉を溶かすくすり
なにもかも溶けてぐるぐる
寝床に溜まる言葉のジュース
また夜になり言葉を溶かす
体温を感じて暑いラニーニャの夜
2人溶けていく

参照・引用
だけどベイビー!! 
作詞 Chie 作曲 KANAME 1999年