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タイムベースコレクター⑥カメラとVE

🎵オラこんな村いやだぁ東京へ出るだぁ〜🎵
と、思ってはみたものの、一体どこへ行けば良いのか?
いくつかテレビ局に問い合わせてみましたが「三流大学ご卒業の方には門戸を開いておりません」こ、これが学歴社会ってヤツか!高校の時、山ばっかり登ってないで勉強すれば良かった・・・後の祭りです。
なんかどこでもいいんで無いかな?焦っていると遠い親戚(母の腹違いの弟のお嫁さんの弟)というひとがテレビ局で働いているという。頼んでみると「出入りの業者に紹介してあげる」ということになり、そこの入社試験を受けました。「25歳ですが、カメラも編集も経験豊富で即戦力です」売り込みが奏功したか、親戚のコネか分かりませんがとにかく放送局の下請け会社に入社いたしました。
その会社B社はテレビドラマのスチール写真を受注するためにプロ写真家が集まった共同体として生まれましたが、私が入った時はテレビ局の技術協力会社という立ち位置でした。
カメラマンになるかVE(ビデオエンジニア)になるか編集マンになるか?
それぞれの現場を観て決める事になり、最初に行ったのはカメラマンの見学でした。当時スポーツニュースを作るために関東のプロ野球場全てに局のスポーツ記者と一緒にカメラマンとVEが取材に行っていました。私が見学に行ったのは神宮球場で、ヤクルトスワローズ担当のカメラマンについて行きました。

AIさん作画、機材はこの10倍はあった

Mカメラマンはバックネット裏に三脚を据えると、アジャスターを緩めてスルスル動く様にして、カメラを載せた状態でバランスをとりました。そしてブームの端にビニールテープでボタンスイッチを着けていつでもボタンが押せる形で右手を構えます。
左手はレンズの腹に置いて、人差し指は絞り、中指はズーム、薬指と小指はフォーカスリングに当てて、それぞれをスイスイと動かします。
私はびっくりしました。当時の私はズームは電動でするもので、絞りはオート、左手はフォーカスだけで精一杯だったのを、この人は全部左手で、しかもフルマニュアルでやってる。どうしてマニュアルなんですか?「モーターじゃ思った様に動かねぇからよ、それに音がうるせぇし、バッテリーも喰う。無駄なんだよ」ゲゲゲ!
しかし驚くのは早かった。試合が始まってバックネット裏で撮影をはじめた彼の動きは・・・相手ピッチャーの表情、手元の動き、バッターの表情、足元、グリップ、バットの動き、ピッチャー振りかぶる、投げる瞬間に引いてバッター込み、と細かに右手のスイッチでON/OFFしながら必要な画を撮っていく。さらに驚いたのは打球をファインダーから逃さず捉え続ける速さ!カキン!打球が高く上がると一気にズーム画面中央に捉えてピントも合わせる。打球は伸びてセンターバックスクリーンへ、2回バウンドさせたら一塁を回るバッターの表情、打たれて悔しいピッチャーの表情、ベンチ前の味方ピッチャーの表情、監督は隠れて見えない。ホームへ帰ってきて仲間の祝福のグループショット。ライトスタンドのファン、青や緑の半透明ビニール傘の乱舞、スコアボードに1の文字。
で、出来る気がしない・・・今ならきっと出来ると思ったはずです。この後散々同じ光景を見て来たから。これらの動きが繰り返しなされて来た熟練の動きだと知っているから。でもその時は天狗の鼻をポッキリ折られて打ちひしがれ「俺にはカメラマンは無理だ」諦めました。

当時はもっとデカくてもっと機械的でネジだらけでした

同様にVEも無理でした。私は文系出身でオシロスコープなんか見たことも無かったし、電圧計は中学の技術家庭で習った程度、回路図を見せられてもチンプンカンプン。
残る一つは編集マンです。

用語解説
VE・ビデオエンジニア
いわゆる技術職でカメラやVTRのメンテナンスを行ったり、電波を飛ばす時の無線技術士という資格保持者だったりします。カメラとVTRが一体化する前はカメラマンを猿回しする立場だった時代もありましたが、経費削減と機材の高性能化・軽量化が進むと、単独の音声マンがいなくなりVEが音声もカメラアシスタントも全部背負う事になりました。

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