実施基準 二 2 事業上のリスク等がもたらす財務諸表における重要な虚偽表示のリスク

監査人は、監査計画の策定に当たり、景気の動向、企業が属する産業の状況、企業の事業内容及び組織、経営者の経営理念、経営方針、内部統制の整備状況、情報技術の利用状況その他企業の経営活動に関わる情報を入手し、企業及び企業環境に内在する事業上のリスク等がもたらす財務諸表における重要な虚偽表示のリスクを暫定的に評価しなければならない。

実施基準二2

監査人は、監査の実施において、内部統制を含む、企業及び企業環境を理解し、これらに内在する事業上のリスク等が財務諸表に重要な虚偽の表示をもたらす可能性を考慮しなければならない。

実施基準一2

監査人は、監査リスクを合理的に低い水準に抑えるために、財務諸表における重要な虚偽表示のリスクを評価し、発見リスクの水準を決定するとともに、/監査上の重要性を勘案して監査計画を策定し、これに基づき監査を実施しなければならない。

実施基準一1

監査人は、監査を効果的かつ効率的に実施するために、監査リスク監査上の重要性を勘案して監査計画を策定しなければならない。

実施基準二1

監査人は、自己の意見を形成するに足る基礎を得るために、/経営者が提示する財務諸表項目に対して、「実在性、網羅性、権利と義務の帰属、評価の妥当性、期間配分の適切性及び表示の妥当性等」の監査要点を設定し、これらに適合した十分かつ適切な監査証拠を入手しなければならない。

実施基準一3

監査人は、十分かつ適切な監査証拠を入手するに当たっては、財務諸表における重要な虚偽表示のリスクを暫定的に評価しリスクに対応した監査手続を、原則として試査に基づき実施しなければならない。

実施基準一4

監査人は、財務諸表項目に関連して暫定的に評価した重要な虚偽表示のリスクに対応する、内部統制の運用状況の評価手続及び発見リスクの水準に応じた実証手続に係る監査計画を策定し、実施すべき監査手続、実施の時期及び範囲を決定しなければならない。

実施基準二4

■監査基準の改訂2002
リスク・アプローチに基づいて監査を実施するためには、監査人による各リスクの評価が決定的に重要となる。そのために、景気の動向、企業が属する産業の状況、企業の社会的信用、企業の事業内容、経営者の経営方針や理念、情報技術の利用状況、事業組織や人的構成経営者や従業員の資質、内部統制の機能、その他経営活動に関わる情報を入手することが求められる。監査人がこれらの情報の入手やリスクの評価を行うに当たっては、経営者等とのディスカッションが有効であると考えられ、こういった手法を通じて、経営者等の認識や評価を理解することが重要となる。

リスク・アプローチに基づいて監査を実施するためには、重要な虚偽表示のリスクを見積ることが重要となる。
そのために、企業の経営活動に関わる情報を入手することが求められる。
情報の入手やリスクの評価を行うに当たり、経営者等とのディスカッションを十分に行う必要がある。

■監査基準の改訂2005
現実の企業における日常的な取引や会計記録は、多くがシステム化され、ルーティン化されてきており、財務諸表の重要な虚偽の表示は、経営者レベルでの不正や、事業経営の状況を糊塗することを目的とした会計方針の適用等に関する経営者の関与等から生ずる可能性が相対的に高くなってきていると考えられる。
また、経営者による関与は、経営者の経営姿勢内部統制の重要な欠陥、ビジネス・モデル等の内部的な要因と、企業環境の変化や業界慣行等の外部的な要因、あるいは内部的な要因と外部的な要因が複合的に絡みあってもたらされる場合が多い。
一方、監査人の監査上の判断は、財務諸表の個々の項目に集中する傾向があり、このことが、経営者の関与によりもたらされる重要な虚偽の表示を看過する原因となることが指摘されている。
そこで、リスク・アプローチの適用において、リスク評価の対象を広げ、監査人に、「内部統制を含む企業及び企業環境を十分に理解し、財務諸表に重要な虚偽の表示をもたらす可能性のある事業上のリスク等を考慮すること」を求めることとした。
さらに、こうした観点から、固有リスクと統制リスクを結合した「重要な虚偽表示のリスク」の評価「財務諸表全体」及び「財務諸表項目」の二つのレベルにおける評価等の考え方を導入した。このようなリスク・アプローチを「事業上のリスク等を重視したリスク・アプローチ」という。

◆事業上のリスク(Business risk)
企業目的の達成戦略の遂行に悪影響を及ぼし得る重大な状況、事象、環境及び行動の有無に起因するリスク、又は不適切な企業目的及び戦略の設定に起因するリスクをいう。

◆事業上のリスク等の考慮
経営者レベルの不正経営者の関与によりもたらされる財務諸表の重要な虚偽の表示を看過しないようにするために、リスク評価の対象を広げる必要がある。
監査人に、内部統制を含む企業及び企業環境を十分に理解し、財務諸表に重要な虚偽の表示をもたらす可能性のある事業上のリスク等を考慮することを求めている。

◇具体例

企業及び企業環境:景気の後退
事業上のリスク:与信先の業績悪化に伴う債権回収不能リスク
重要な虚偽表示のリスク:貸倒引当金の過小計上、売掛金の過大計上
監査要点:評価の妥当性、網羅性


企業及び企業環境:
事業上のリスク:
重要な虚偽表示のリスク:
監査要点:

★識別すべき事業上のリスクと、生じる可能性のある虚偽の表示
◇具体例
・著しい技術革新と過剰な在庫及び設備投資
→棚卸資産及び有形固定資産の過大計上

★事業上のリスク等を重視したリスク・アプローチに基づく監査のプロセス(2008短答)
企業及び企業環境を理解する。
重要性の基準値や質的要件をもとに、重要な勘定科目及び開示を選定する。
③ 重要な勘定科目及び開示ごとに固有リスクを把握する。
④ 重要な勘定科目及び開示ごとに内部統制のデザインを評価する。
⑤ 内部統制に依拠して監査を行うかどうかを決定する。
実証手続を設計する。

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