「事業上のリスク等を重視したリスク・アプローチ(2005)」

■監査基準の改訂2005
1  事業上のリスク等を重視したリスク・アプローチの導入

①リスク・アプローチの適用において、リスク評価の対象を広げた

②固有リスクと統制リスクを結合した「重要な虚偽表示のリスク」の評価

③「財務諸表全体」及び「財務諸表項目」の二つのレベルにおける評価

リスク・アプローチの基本的な考え方は変わらない。


2 「特別な検討を必要とするリスク」への対応

3  経営者が提示する財務諸表項目と監査要点


◆解説
①「事業上のリスク等を重視したリスク・アプローチ」の導入
《改訂以前に指摘されていた問題》
監査人の監査上の判断は財務諸表の個々の項目に集中する傾向がある。
経営者の関与によりもたらされる重要な虚偽の表示を看過する原因になっていた。
《対策》
1. リスク・アプローチの適用においてリスク評価の対象を広げ、/監査人に「内部統制を含む、企業及び企業環境を十分に理解し、財務諸表に重要な虚偽の表示をもたらす可能性のある事業上のリスク等を考慮すること」を求める。
2.  固有リスクと統制リスクを結合した「重要な虚偽表示のリスク」の評価→②
3. 「財務諸表全体」及び「財務諸表項目」の二つのレベルにおける評価→③

②「重要な虚偽表示のリスク」の評価
《従来》
固有リスク統制リスクを個々に評価し、発見リスクの水準を決定することとしていた。
《問題点》
実際には両者は複合的な状態で存在することが多く、独立して存在する場合であっても、監査人は重要な虚偽の表示が生じる可能性を適切に評価し、発見リスクの水準を決定することが重要であり、両者を分けて評価することにこだわれば、リスク評価が形式的になる。
→「発見リスクの水準の的確な判断」ができない虞れがあった。
《新たな原則》
両者を結合した重要な虚偽表示のリスクとして評価した上で、発見リスクの水準を決定することとした。

③「財務諸表全体」及び「財務諸表項目」の二つのレベルでの評価
 財務諸表における重要な虚偽の表示は、経営者の関与等から生じる可能性が相対的に高くなってきている。
 従来のリスク・アプローチでは、財務諸表項目における固有リスクと統制リスクの評価、及びこれらと発見リスクの水準の決定との対応関係に重点が置かれており、/監査人が自らの関心を財務諸表項目に狭めてしまう傾向や、財務諸表に重要な虚偽の表示をもたらす要因の検討が不十分になる傾向があった。
 そのため、広く「財務諸表全体における重要な虚偽の表示」を看過しないための対応が必要と考えられた。そこで、財務諸表における重要な虚偽表示のリスクを、財務諸表全体及び財務諸表項目の二つのレベルで評価することにした。

財務諸表全体レベルにおいて重要な虚偽表示のリスクが認められた場合、そのリスクの程度に応じて、補助者の増員、専門家の配置、適切な監査時間の確保等の全般的な対応を監査計画に反映させ、監査リスクを一定の合理的に低い水準に抑えるための措置を講じる。

財務諸表項目レベルでは、まず内部統制の整備状況の調査を行い、重要な虚偽表示のリスクを暫定的に評価する。次に当該リスク評価に対応した監査手続として、内部統制の有効性を評価する手続と監査要点の直接的な立証を行う実証手続を実施する。

④「特別な検討を必要とするリスク」への対応
・「会計上の見積り収益認識等の重要な会計上の判断」に関して財務諸表に重要な虚偽の表示をもたらす可能性のある事項
不正の疑いのある事項
・「関連当事者間で行われる通常ではない取引等」の特異な取引

→監査実施の過程において特別な検討を行う必要がある。
→「特別な検討を必要とするリスク

<対応>
・「特別な検討を必要とするリスクが財務諸表における重要な虚偽の表示をもたらしていないか」を確かめるための実証手続の実施
・必要に応じて内部統制の整備状況の調査運用状況の評価を実施

⑤経営者が提示する財務諸表項目と監査要点
監査人は、経営者が提示する財務諸表項目について、立証すべき監査要点を設定する。
監査要点ごとに監査手続を実施して監査証拠を入手する。
監査要点に関して立証した事項を積み上げて統合化し、財務諸表の適正性に関する結論を得る。

財務諸表項目は、経営者が責任の主体である。
監査要点は、監査人が設定した立証すべき目標である。

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