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17歳、21歳、35歳。かつて付き合った女性たち。

楽しかったあの頃

フランク・シナトラのレパートリーとして知られる「楽しかったあの頃 / It Was A Very Good Year」。17歳、21歳、35歳、それぞれの時期に付き合った女性たちの思い出を述懐しながら、黄昏の入り口に達した自分の人生を、まるで"古い樽に入ったヴィンテージ・ワインのようだ"と表現する歌だ。

作詞作曲は、アーヴィン・ドレイク。こうしたオリジナル作品、ブロードウェイの仕事のほか、カンツォーネの「アル・ディ・ラ」やラテンの「ティコ・ティコ」「クァンド・クァンド・クァンド」などの英訳詞を手がけた。

この曲を初めて取り上げたのは、実はシナトラではない。1958年全米1位の大ヒット「トム・ドゥーリー」によって人気絶頂だったフォーク・グループのキングストン・トリオだった。メンバーのひとり、ボブ・シェインがソロ・ヴォーカルを披露している。1961年のことだ。
「楽しかったあの頃」を収録するアルバム「Goin' Places」は、全米3位に到達した。


キングストン・トリオの後継、モダン・フォーク・カルテット版も素晴らしい。こちらは1963年。ジャジィなコーラスが見事だ。

シナトラが取り上げたのは、キングストン・トリオから遅れること4年後の1965年。偶然にラジオから流れてくるのを聞いて、気に入ったというから、ボブ・シェインが歌うキングストン・トリオのヴァージョンを聞いたのだろう。同年発表のシングルは全米チャートの28位まで上昇し、グラミーの最優秀男性歌唱賞を受賞した。

夏の夜、町の少女と電灯の影に隠れた17歳。上の階に暮らすシティ・ガールが、髪を解く時の匂いを嗅いだ21歳。35歳では、運転手付きの車に乗る育ちのいい女性付き合った、と歌われる。なんだか、いい歳をした男性の恋愛自慢を聞かされているみたいだなあとの気持ちになる一方で、シナトラが歌う堂々たる「俺様感」にぐうの音も出ず、承服させられていることにも気づく。自分の人生を重ね合わせるかのような歌詞は、同じくシナトラによる「マイ・ウェイ」と似ており、ともに齢を経て人生を振り返っている点も共通している。ゴードン・ジェンキンスによる編曲が、いい味だ。この時シナトラは、50歳だった。

こうしてフランク・シナトラの歌唱によって広く知られたのち、「楽しかったあの頃」は数多くのシンガーが取り上げ、スタンダードとしての扱いを受ける歌となった。

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