賞味期限切れのオリンピック

オリンピックというスポーツ興行の賞味期限が切れたのだと思う。近代オリンピックが事実上始まったのは、オリンピック旗が制定された1920年大会だ。それから100年。


戦後、途上国であった日本などは自国選手がメダルを取ることで国威発揚に繋がったし、じっさい国民も興奮した。私達もやればできるんだ!試合内容よりもメダルの時代。選手たちは日の丸を背負い悲壮な思いで試合に望んだし、視聴者はオリンピック中継を見ながら、初めて見るスポーツのルールを学んだ時代だ。


いっぽうで冷戦期には東西陣営のメダル獲得競争は模擬戦争として認識された。東側が盛大にドーピングをしていた時代だ。その2つの価値観の集大成が北京オリンピックだったかもしれない。中国は世界最大の途上国にして東側陣営の最後の生き残りだったのだ。


2021年の視聴者の興味は多様化している。サッカー、ラグビー、テニス、ゴルフ、サイクルロードレース、フィギュアスケート、スキージャンプなどのグローバルスポーツ興行の経済効果合計と視聴者数合計はオリンピックの比ではない。アメリカにおける野球とフットボールこそオリンピック以上の規模だ。オリンピックがアメリカンスポーツの閑散期である夏に行われることをみても明らかだ。


21世紀になってオリンピックが国威発揚などと思っている途上国も少ないだろう。投資に合わないのだ。1世紀近く上記の理由でスポーツ投資をしていた先進国にはもはや絶対に敵わないのだ。


ようするに世界全体でシラケはじめていると思う。興奮しているのは、上記の盛大だった頃のオリンピックを見た各国高齢者だけかもしれない。高齢者というのは、自分が若い頃に興奮したという事実だけは覚えている。すでに感覚は鈍麻しているのだが、あのときの興奮をもう一度というわけだ。しかし実際にオリンピックが始まってもそんな興奮を感じることはない。それが高齢者というものだ。

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