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検証 自衛隊の南西シフト①     ――情報公開請求で捉えた陸自「教範」で記述される「島嶼防衛」戦

安保関連3文書において、本格的な、新たな段階に入りつつある自衛隊の南西シフト態勢について、資料をもとに検証する。
第1回は、2000年に大改定された、陸自の最高教範『野外令』である。以下は、拙著『自衛隊の島嶼戦争  資料集・陸自「教範」で読むその作戦』からの解説を引用する。

資料解説  情報公開請求で捉えた陸自「教範」で記述される「島嶼防衛」戦

大改定された陸自教範『野外令』
 本書で最初に紹介するのが、陸自の最高教範『野外令』である。自衛隊には、作戦・ 戦闘や日常の訓練・演習に欠かせない教範(教科書)が多数あるが(例えば『師団』『普通科連隊』など)、陸自では、これら教範のもっとも基本になるのが『野外令』である。

 「野外令は、その目的は、教育訓練に一般的準拠を与えるものであり、その地位は、陸上自衛隊の全教範の基準となる最上位の教範である」(野外令改正理由書・2000 年9月)とされ、旧日本陸軍で言えば『作戦要務令』にあたる。

 2000 年1月、『野外令』は、 およそ 15 年ぶりに改定された。旧『野外令』は、1957 年に制定され、68 年、85 年の二度にわたり改定、最新の 2000 年の改定版は、全体の構成として 85 年版を踏襲しているが、頁数はもっと増え、全文は440 頁の厚さになった。
 この新『野外令』は、冒頭の「はしがき」に「本書は、部内専用であるので次の点に注意する」として、「用済み後は、確実に焼却する」と明記している。つまり、新『野外令』は、旧『野外令』と異なり、部内においてのみ閲覧するという、事実上の「秘」文書の扱いとなった。

 前記『野外令改正理由書』は、その改定理由について 「旧令で主として対象としていた特定正面に対する強襲着上陸侵攻のほか、多数地点に対する分散奇襲着上陸侵攻、離島に対する侵攻、ゲリラ・コマンドウ単独攻撃及び航空機・ミサイル等による経空単独攻撃の多様な脅威への対応が必要になった」「離島に対する単独侵攻の脅威に対応するため、方面隊が主作戦として対処する要領を、新規に記述した」と特筆している。
 つまり、ここでは自衛隊創設以来初めて、「方面隊が主作戦として対処」する島嶼防衛作戦が策定され、任務化されたということだ。また、島嶼防衛作戦と同時に、これも自衛隊史上初めてという「上陸作戦」が策定されたのである。

 『野外令』の「離島の作戦」の内容は、本文を参照していただきたいが、現在自衛隊の戦略である「事前配置による要領」「奪回による要領」の島嶼防衛の基本的作戦が、すでに記述されている。

 そして、もう一つの重要な改定は、冷戦時代の自衛隊では概念さえなかった「上陸作戦」が策定されたことだ。これは、 「奪回による要領」の中で記述されている。すなわち、 「敵の侵攻直後の防御態勢未定に乗じた継続的な航空・艦砲等の火力による敵の制圧に引き続き、空中機動作戦及び海上輸送作戦による上陸作戦を遂行し、海岸堡を占領する」と。

 重大なことは、こうした『野外令』による離島防衛―島嶼防衛作戦、上陸作戦の策定が、先島―南西諸島への自衛隊配備の始まる 16 年も前に、すでに日米制服組による主導下で、冷戦後の新たな日米の戦略として打ち出されていたということだ。というのは、『野外令』の改定・制定は、1997 年の日米ガイドラインに基づく、新たな日米共同作戦態勢下の戦略として策定されたからだ。この背景にあるのが、東西冷戦終了後の日米のアジア太平洋戦略の再編(日米安保再定義)であった。

 そして、今回の『野外令』改定で追加されたのが、419 頁の「警備」(間接侵略)の項目である。これは悪名高い「間接侵略論」として自衛隊の創設以来大論議されてきたものだ。つまり、国内の反戦平和勢力・労働運動団体・左翼勢力を「仮想敵国のスパイ」として位置づけ、武力鎮圧の対象にしてきたからである。この「仮想敵国の使嗾による間接侵略」(戦争反対などのデモ・ストライキなど)は、もちろん、自衛隊の治安出動で対処するということになる。

 問題は、自衛隊法第3条、第 78 条の「自衛隊の主要任務」に定められてはいたが、具体的規定を欠いていたこの「間接侵略論」(治安出動)が、島嶼防衛戦においても陸自の作戦として策定されたことだ。これはかなり重大なことである。
つまり、島嶼防衛戦において、新たに自衛隊を配備する与那国島・石垣島・宮古島・奄美大島などの住民が、治安弾圧の対象とされたことになる。これこそ、まさしく沖縄戦において、住民をスパイとして処刑した歴史の再現である。これが島嶼防衛戦の本質なのである。

小西講演資料から

以下、陸自『野外令』の当該カ所「離島の作戦」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・陸自教範1- 00 - 01 - 11 -2

              

          野外令

                   陸上幕僚監部
                           平成 12 年1月
陸上自衛隊教範第1- 00 - 01 - 11 -2号
陸自教範野外令を次のように定め、平成 12 年4月1日から使用する。
陸自教範1- 00 - 01 - 60 -1野外令は、平成 12 年3月 31 日限り廃止する。
平成 12 年1月 21 日       
                   陸上幕僚長 陸将 磯島恒夫

第3章 防衛作戦の実施

第4節 離島の作戦
第1款 要説
離島の作戦の目的
離島の作戦の目的は、海上・航空部隊と協同し、侵攻する敵を速やかに撃破して離島を確保するにある。

離島の作戦の特性
1 離隔した作戦地域 
離島は海により本土と離隔しており、その特性は、離隔距離、港湾・空港施設の有無、住民の存否等により大きく異なる。また、離島の作戦は、気象・海象に大きく制約を受ける。

2 不意急襲的な侵攻 
敵は、離島を占領するため、通常、上陸侵攻と降着侵攻を併用して主動的かつ不意急襲的に侵攻する。したがって、我の作戦準備に大きな制約を受ける。

3 統合的かつ多様な作戦 
離島の作戦は、離島への機動、離島における戦闘、住民への対応等から、海上・航空部隊等と連携した輸送・着上陸、又は対着上陸等の作戦、部外支援等、統合的かつ多様な作戦となる。

離島の作戦の重視事項
1 情報の獲得 
敵の離島侵攻の機先を制する事前配置の処置及び奪回を含む多様な作戦からなる離島の作戦を整斉と遂行するためには、離島の地形、気象・海象、敵情等に関する確実かつ早期からの情報の獲得が重要である。このため、経空・経海による地偵察、航空偵察、関係部外機関等・島民の協力等あらゆる手段を活用することが必要である。

2 迅速な作戦準備 
侵攻する敵を速やかに撃破するためには、状況の緊迫に即応して、適切かつ迅速に作戦準備を実施することが重要である。このため、陸上最高司令部、海上・航空部隊等と緊密な連携を図るとともに、関係部隊等に対して早期に企図を明示し準備の余裕を与えることが必要である。

3 緊密な統合作戦の遂行
(1) 指揮・統制組織の確立
陸上・海上・航空部隊の戦闘力等を統合発揮するためには、指揮・統制組織を確立することが重要である。このため、作戦準備段階の当初から、指揮・統制組織を確立するとともに、作戦、情報、通信、兵站等の各分野にわたり、責任及び権限を明確にして統制及び調整を適切にし、海上・航空部隊と緊密な連携を保持することが必要である。

(2) 海上・航空優勢の確保
離島の作戦においては、海上・航空部隊と緊密に連携し、適時に海上・航空優勢を確保することが重要である。このため、作戦の各段階における海上・航空優勢の確保の時期、地域等について密接に調整し、作戦の遂行を確実にすることが必要である。

4 柔軟性の保持
敵の侵攻の時期・場所・要領の不明、気象・海象の不確実性等、あらゆる状況に対応するためには、作戦の全般にわたり柔軟性を保持することが重要である。このため、複数の機動手段の準備、予備隊の保持、迅速な部隊の転用等に努めることが必要である。

5 強靭な作戦基盤の確立
(1) 離島の作戦においては、情報収集、離島への機動、離島における作戦及び海上・航空部隊等との連携のため、確実な通信の確保が重要である。このため、基地通信組織に野外通信組織を連接し、海上・航空部隊等と統合一貫した通信組織を構成することが必要である。この際、無線通信、衛星通信及び部外通信を活用した迅速な通信確保に留意する。
(2) 作戦を密接に支援するためには、兵站支援地域、後方連絡線等作戦支援基盤を、状況に即応して、迅速に設定することが重要である。このため、既存の施設の活用に努めるとともに、航空科部隊、兵站部隊等の展開のための十分な地積を確保することが必要である。

6 関係部外機関との連携
侵攻に伴う被害等から住民の安全を確保するためには、関係部外機関との連携が重要である。このため、早期から関係部外機関と密接に連携し、情勢の推移に即応した住民避難等の部外支援について、十分な調整を実施することが必要である。

第2款 計画の策定
要旨
計画の策定に当たっては、任務、海上・航空部隊等との協同要領等に基づき、離島の特性、敵の可能行動、我が部隊の状況、海上・航空部隊等の能力、関係部外機関等の状況等を考慮して対処要領を決定し、関係部隊等に対して必要な行動の準拠を明らかにする。

2 離島を防衛するための基本的な対処要領には、所要の部隊を事前に配置して確保する要領(以下「事前配置による要領」という。)と奪回により確保する要領(以下「奪回による要領」という。)がある。対処に当たっては、努めて事前配置による要領を追求するが、やむを得ず敵に占領された場合は、奪回による要領により離島を確保する。

事前配置による要領
1 対処要領
任務に基づき、所要の部隊を敵の侵攻に先んじて、速やかに離島に配置して作戦準備を整え、侵攻する敵を対着上陸作戦により早期に撃破する。この際、海上・航空部隊等と協同して、海上及び空中における早期撃破に努めるとともに、状況により、予備隊等の増援により離島配置部隊を強化する。

2 計画の主要事項
 計画には、作戦のための編成、離島への機動、対着上陸作戦、通信、作戦支援基盤の設定、海上・航空部隊等との協同等の必要な事項を含める。
 
3 作戦のための編成
作戦のための編成においては、対着上陸作戦を基礎とし、離島配置部隊、戦闘支援部隊、予備隊及び後方支援部隊に区分して編成するとともに、統合通信組織等の指揮・統制組織を構成する。この際、離島配置部隊には独立戦闘能力の付与に努めるとともに、離島の特性、予想される敵の侵攻規模・要領、使用できる部隊、作戦準備期間等を考慮して編成する。

4 離島への機動
(1) 離島への機動においては、離島における対着上陸作戦準備の促進を重視して、所要の部隊を努めて早期に離島に展開する。この際、膨大な移動所要を短期間に充足するため、十分な輸送力を確保するとともに、一元的な統制により効率的な輸送を実施する。
(2) 機動の要領は、離島の港湾・空港施設、侵攻の脅威の度、部隊の特性、利用できる輸送手段等を考慮して、海上輸送、航空輸送、これらの掩護態勢等について定める。この際、侵攻の脅威の度に応じ、移動の効率性を重視するか、機動梯隊ごとに独立戦闘能力を付与して、離島における戦闘力発揮の容易性を重視するかを適切に定める。

5 対着上陸作戦
(1) 対着上陸作戦においては、各離島配置部隊ごとの独立戦闘能力の付与及び全周の防御を重視して、部隊を配置するとともに、海上・航空部隊等と協同して、敵の着上陸部隊を撃破する。この際、対海上・海上・航空等火力による早期からの敵戦力の減殺及び敵の侵攻正面に対する予備隊の増強を重視する。
(2) 予備隊は、離島の特性、気象・海象、敵情、我が配置、利用できる機動手段等を考慮して配置する。この際、海上・航空部隊との連携及び航空科部隊の配置を適切にして、状況に即応した予備隊の展開ができるようにする。
(3) 航空科部隊の展開地は、離島との離隔度、気象、敵情、我が配置等を考慮して設定し、ヘリコプター火力・空中機動力の柔軟な指向及び部隊の根拠地としての機能を確保する。

6 通信無線通信、衛星通信及び部外通信を主体として、離島配置部隊との通信の確保及び対着上陸作戦における海上・航空部隊等との統合一貫した通信組織を計画する。この際、離島配置部隊の通信力を強化して、通信の独立性を保持させるとともに、作戦準備間に努めて強固な通信を構成させる。

7 作戦支援基盤の設定
(1) 作戦支援基盤は、離島との離隔度、港湾・空港施設の有無、敵の脅威の度、離島配置部隊の規模・種類、使用できる後方支援部隊、期待できる海上・航空部隊等の支援等を考慮して設定する。状況に応じ、前方作戦支援基盤を設ける。この際、離島配置部隊には、事前集積による支援を努める。
(2) 作戦支援基盤地域においては、前方支援地域、端末地等を構成する。この際、作戦支援基盤の設定の当初から、対空掩護の態勢を確立する。

8 海上・航空部隊との協同
海上・航空部隊との協同においては、海上・航空優勢の確保、敵の増援等に対する海上・航空阻止、火力支援、情報、離島への機動・兵站支援・住民避難等のための輸送、救難等について明らかにする。

奪回による要領
1 対処要領  
敵の侵攻直後の防御態勢未完に乗じた継続的な航空・艦砲等の火力による敵の制圧に引き続き、空中機動作戦及び海上作戦輸送による上陸作戦を遂行し、海岸堡を占領する。じ後、後続部隊を戦闘加入させて、速やかに敵部隊を撃破する。状況により、空中機動作戦を主体として、海岸堡を占領することなく速やかに敵部隊を撃破する場合がある。


2 計画の主要事項  
計画には、作戦のための編成、着上陸作戦、後続部隊の攻撃、通信、作戦支援基盤の設定、海上・航空部隊等との協同等必要な事項を含める。

3 作戦のための編成  
作戦のための編成においては、離島に対する空中機動作戦及び海上作戦輸送による上陸作戦を基礎とし、着上陸部隊、戦闘支援部隊、予備隊及び後方支援部隊に区分して編成するとともに、統合通信組織等の指揮・統制組織を編成する。この際、離島の特性、敵の勢力・編組・配置、使用できる部隊、作戦準備期間等を考慮する。

4 予行  
着上陸段階を重視するとともに、着上陸の時期・場所・要領、海象・気象、敵情、海上・航空支援火力等を考慮して、計画の適否、各部隊に対する計画の徹底、通信の確認等に関する予行を計画し、作戦の遂行を確実にする。この際、対情報処置を適切にする。

5 着上陸作戦
(1) 基本的要領
海上・航空優勢の獲得の下、増援部隊を阻止して敵部隊を孤立化させるとともに、航空・艦砲等の火力による敵の制圧に引き続き、空中機動作戦及び海上作戦輸送による上陸作戦を遂行し、海岸堡を占領する。この際、侵攻着後からの継続的な敵部隊の制圧、増援部隊の阻止による孤立化及び離島への戦闘力の推進を迅速にするための港湾・空港等の早期奪取が重要である。

(2) 指揮・統制の責任区分
着上陸部隊は、海上・空中機動間においては、通常、海上・航空部隊の統制を受ける。
(3) 情報
ア 情報活動に当たっては、離島に侵攻した敵の勢力・編組・配置、増援部隊、着上陸のための港湾・空港・ヘリポート等の状況の解明を重視する。
イ 地上偵察においては、偵察部隊を直接離島に配置して敵情等の解明を行う。偵察部隊の運用に当たっては、情勢の緊迫に応じて、努めて敵の侵攻前に配置する。やむを得ず敵の侵攻後に配置する場合には、経海・経空のあらゆる手段を用いて隠密に離島に潜入させる。この際、関係部外機関等及び島民との連携に努める。
ウ 海上・航空偵察においては、離島の状況、敵の増援部隊等の解明を重視する。
(4) 搭載
ア 搭載は、離島への着上陸後の戦闘計画を基準として計画する。
イ 海上作戦輸送による上陸作戦においては、上陸後の戦闘及び主力の攻撃を考慮し、海上部隊の定める搭載全般予定を基準として、乗船部隊の部隊区分、乗船艦船の割当て、搭載区域、搭載予定等を明らかにする。
ウ 空中機動作戦の搭載計画については、「第4編第7章第4節 空中機動作戦」を適用する。

(5) 離島への機動
空中機動作戦及び海上作戦輸送による上陸作戦における機動梯隊は、離島における戦闘力発揮の容易性を重視して、機動梯隊ごとに独立戦闘能力を付与する。この際、海上・航空部隊等と連携して、作戦実施間の海上・航空優勢を獲得し機動の安全を図る。


(6) 着上陸戦闘
ア 着上陸の実施時期・場所は、港湾・空港等の早期奪取を重視するとともに、離島の地形、気象・海象、敵部隊の制圧状況、海上・航空支援火力、揚陸能力等を考慮して定める。
イ 空中機動作戦及び海上作戦輸送による上陸作戦は、状況に応じて、同時又は逐次に実施して海岸堡を占領する。
ウ 海岸堡の確保においては、離島の地形、港湾・空港等の位置、敵主火力の射程、後続部隊の収容等を考慮し、空中機動作戦と海上作戦輸送による上陸作戦を連携して、所要の地域を確保する。
エ 火力運用
( ア ) 着上陸前においては、敵の侵攻直後の防御態勢未完の脆弱な時期から着上陸の開始まで、継続的に航空・艦砲等の火力を敵部隊に集中して制圧し、孤立した敵部隊の戦闘意志を喪失させる。
( イ ) 着上陸直前においては、着上陸のための港湾・海岸・空港・ヘリポート等周辺の敵部隊の制圧を重視する。
( ウ ) 着上陸直後においては、当初野戦特科火力の発揮が制約されるため、ヘリコプター・航空・艦砲等の火力により密接に支援する。
( エ ) 火力の統制・調整においては、着上陸前後の時期を重視し、野戦特科・ヘリコプター・航空・艦砲等の火力を適切に統制・調整する。この際、統制権者、統制の時期・場所・要領等を明確にする必要がある。
オ 空域の統制においては、空中機動作戦実施時期を重視し、高射特科部隊、航空科部隊等を適切に統制・調整して、空中機動作戦等の円滑な遂行を図る。

6 後続部隊の攻撃
(1) 後続部隊の推進
確保した海岸堡の港湾・空港等を活用して、海上作戦輸送及び航空輸送により戦闘力の推進を図る。この際、戦車・野戦特科部隊等の揚陸支援態勢の設定及び後続部隊の海上配置又は作戦支援基盤地域等における前方配置を重視して迅速な推進を図る。
(2) じ後の攻撃
着上陸部隊の海岸堡の占領に引き続き、敵に対応のいとまを与えないように後続部隊を迅速に戦闘加入させ、速やかに敵を撃破する。

7 通信無線通信及び衛星通信を主体として、着上陸部隊との通信の確保及び着上陸作戦における海上・航空部隊等との統合一貫した通信組織を計画する。この際、着上陸部隊の戦闘のための編成に応じて、通信力を強化するとともに、企図秘匿のため、通信に関する統制を適切に計画する。

8 作戦支援基盤の設定
着上陸作戦における作戦支援基盤は、作戦部隊を密接に支援するため、努めて前方において支援できるように配置を適切にする。この際、航空科部隊の離島における火力支援、輸送、補給等の行動の容易性、対空戦闘部隊・航空部隊等による対空掩護及び後方連絡線の確保を重視する。

第3款 作戦指導
対処の基本
情勢の緊迫に応じて、先行的に作戦準備を実施する。敵の離島侵攻に先んじて、所要部隊の事前配置又は情報収集部隊の展開を実施する。敵の侵攻に際しては、対着上陸作戦により早期に侵攻する敵を撃破する。やむを得ず敵に占領された場合は、着上陸作戦により海岸堡を確保し、じ後、後続部隊の攻撃により速やかに敵部隊を撃破し、離島を奪回する。いずれの場合にあっても、敵の侵攻に迅速に対応し、占領の既成事実化を阻止する。この際、住民の事前避難のための部外支援に留意する。

事前配置による要領の場合
1 要旨 敵の侵攻に際しては、侵攻正面を早期に解明して、侵攻する離島に対する配備変更、予備隊の増援、航空等火力の重点指向等を状況に即応して柔軟に行い、侵攻する敵を早期に撃破する。

2 作戦準備の実施
(1) 作戦準備に当たっては、敵の離島侵攻に先んじて所要の部隊を事前配置するため、早期から作戦準備に着手するとともに、陸上最高司令部、海上・航空部隊等と密接な連携を保持して敵の侵攻兆候の察知に努める。
(2) 離島への機動は、海上・航空部隊と緊密に連携して実施し、迅速に部隊を展開させる。この際、海上・航空優勢の確保により機動間の安全を図る。
(3) 作戦支援基盤の設定は、努めて早期から実施し、配置部隊の作戦準備を促進する。

3 対着上陸作戦の実施  
対着上陸作戦に当たっては、ヘリコプター・航空・艦砲等火力の迅速な重点指向と離島配置部隊の強靭な戦闘により、敵部隊の着上陸前後の弱点を捕捉して撃破する。状況に応じて、侵攻のない離島の配置部隊の転用及び予備隊の増援により、敵が侵攻する離島の配置部隊を強化し、柔軟な作戦を遂行する。この際、気象・海象、彼我の状況、機動手段等を考慮して、配備変更及び増援の実施時期・要領を適切にする。

4 事前配置部隊での撃破が困難な場合 
事前配置部隊での撃破が困難な状況においても、じ後の奪回行動に必要な最小限度の要域を確保させるとともに、港湾・空港等の利用を妨害し奪回を容易にする。

奪回による要領の場合
1 要旨 
敵の侵攻に際しては、事態に即応して作戦準備を促進するとともに、侵攻直後の防御態勢未完の時期から、航空・艦砲等の火力により継続的に敵の制圧を実施する。着上陸作戦の実施に当たっては、空中機動作戦及び海上作戦輸送による上陸作戦により、迅速に離島に海岸堡を占領する。じ後、後続部隊を戦闘加入させて速やかに敵部隊を撃破する。この際、事前の綿密な調整及び実施の確実な統制に留意する。

2 作戦準備の実施
(1) 作戦準備に当たっては、敵の離島侵攻に先んじて、努めて情報収集部隊を配置するとともに、奪回のため早期から作戦準備に着手する。この際、侵攻正面・時期、敵の勢力・編組及び陣地・障害の程度の解明を重視する。
(2) 着上陸作戦の開始時期の決定においては、着上陸時期を基準とし、気象・海象、敵侵攻部隊の状況、海上・航空優勢の獲得、空中機動作戦及び海上作戦輸送による上陸作戦の準備等を考慮して、好機を捕捉するように決定する。この際、陸上最高司令部、海上・航空部隊等と緊密に調整する。
(3) 予行は、作戦の特性、使用可能な時間、訓練の練度等を考慮し、時期・場所・要領を適切にして実施する。この際、目的を明確にするとともに、企図の秘匿に留意する。
(4) 搭載においては、着上陸作戦の開始に伴い、着上陸部隊は速やかに搭載地域に移動し、所定の時期までに搭載を完了する。この際、輸送部隊の統制の下、着上陸時において迅速に戦闘力の発揮ができるように搭載するとともに、企図の秘匿に留意する。

3 着上陸作戦の実施
(1) 敵部隊の制圧等
ア 敵の侵攻に当たっては、侵攻着後の敵の防御態勢未完に乗じて減殺を図るため、海上・航空部隊等と緊密に連携して、努めて早期から敵部隊を制圧する。敵の制圧効果は着上陸の成否を左右するため、制圧の徹底を図るとともに、着上陸前における着上陸地域の制圧状況の把握を確実にする。 
イ 敵部隊の増援に対しては、海上・航空部隊等と連携して、海上及び空中において阻止し、離島に侵攻した敵部隊の孤立化を図る。
(2) 着上陸戦闘
ア 空中機動作戦と海上作戦輸送による上陸作戦を同時に実施する場合は、各着上陸正面に対する十分な火力支援を確保するとともに、空中機動作戦部隊と海上作戦輸送による上陸作戦部隊を密接に連携させる。
イ 海岸堡の確保において状況有利な場合は、海岸堡を占領することなく、一挙に敵部隊を撃破する。
ウ 着上陸時の火力支援においては、海上・航空部隊等と緊密に連携するとともに、ヘリコプター火力を最大限に発揮して敵部隊の制圧を実施する。
後続部隊の攻撃 後続部隊の攻撃については、「第4編第3章 攻撃」を適用する。

5 離島奪回後の行動 
陸上最高司令部と緊密な連携を図るとともに、敵の可能行動、部隊の状況等を考慮して、離島への配置、部隊交代、撤収等について、じ後の行動を明らかにする。

第4款 後方支援
兵站
1 兵站支援要領
先行的な準備による所要の補給品の確保及び事前集積、後方連絡線の維持、あるいは兵站組織の前方推進等により作戦を継続的に支援する。

2 事前配置による要領の場合 
作戦構想に応じ、事前配置部隊に対し、補給、整備、衛生等の兵站部隊を配属するとともに、補給品の事前集積、必要に応じ一括割当補給を実施して、長期間にわたる独立作戦能力を付与する。併せて海上・航空部隊及び関係部外機関等と緊密に連携して、努めて後方連絡線を維持し、緊要な補給品の補給及び傷病者の後送を行うとともに、あらかじめ空輸等の強行手段を準備する。また、離島における現地調達は、民需を考慮し、慎重に行う。

3 奪回による要領に場合  
通常、作戦準備期間が限定されるため、先行的に海上・航空部隊及び関係部外機関等と輸送手段の確保、端末地設定等に関する調整を実施するとともに、弾薬・燃料等所要の補給品を確保し、作戦正面に集中できるように準備する。この際、離島作戦に伴う特殊所要特に航空燃料・搭載弾薬、空中投下器材、輸送資材、水等の補給に留意する。作戦構想の具体化に伴い、速やかに着上陸作戦支援のための兵站組織の構成に着手し、作戦支援基盤地域に前方支援地域を推進するとともに、所要の地域に方面前進兵站基地、端末地等を設定する。
 この際、前方支援地域は、ヘリコプターの行動範囲内で、かつ、着上陸部隊の発進基地の近傍に設定する。また、端末地及び発進基地には、必要に応じ、海上・航空部隊と調整し、補給品等の梱包・搭載を統制する端末地業務専門部隊を編成・配置し、あるいは海上輸送の端末地には、所要の船舶をもって補給品の海上集積ができれば有利である。着上陸作戦開始後は、当初、着上陸部隊に増強した兵站部隊・補給品により支援し、海岸堡の占領に伴い、逐次、所要の兵站部隊を推進するとともに補給品を追送し、継続的に支援する。この際、傷病者の後送を含み、あらかじめ強行支援を準備する。

人事
1 人事支援要領
支援基盤の早期確立及び独立作戦能力の付与により、作戦間における支援を確保する。この際、作戦の特性から、指揮官の卓越した統御と適切な指揮により隊員に国土防衛の信念を堅持させ、規律の維持及び士気の高揚を図ることが必要である。

2 事前配置による要領の場合
作戦構想に基づき、事前配置部隊に対して所要の要員を事前補充するとともに、人事部隊を配属して独立作戦能力を付与する。作戦間は、必要に応じ、指揮官・重要特技者等の補充のため、空輸等の強行手段を準備する。

3 奪回による要領の場合  
 作戦構想に基づき、作戦支援基盤地域に速やかに人事支援基盤を構成する。着上陸作戦開始後、海岸堡の占領に伴い、逐次人事部隊を推進し、支援を継続する。この際、あらかじめ空輸等による指揮官、重要特技者等の補充及び戦没者の後送を準備する。

部外連絡協力及び広報 敵の離島侵攻に先んじて、適時に必要な情報を関係部外機関に通報して、先行的な住民避難等ができるように支援する。
やむを得ず敵に占領された場合は、住民の島内等避難に努め、作戦行動に伴う被害及び部隊行動への影響を局限する。 
また、地方公共団体等と連携した適切な広報により、住民に必要な事項を周知させ、住民の安全及び作戦への信頼を確保する。

第7節 警備 第1款 要説
5376 警備の目的
1 警備の目的は、敵の遊撃活動、間接侵略事態等に適切に対処して地域の秩序を早期に回復し、全般の作戦の遂行を容易にする。 
2 本節においては、間接侵略事態対処を対象として取り上げ、敵の遊撃活動への対処については、「第4編第8章第5節 対遊撃戦」等を準用する。(以下略)


●『自衛隊の島嶼戦争  資料集・陸自「教範」で読むその作戦』(小西誠編著・社会批評社刊)から引用

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メディアが報じない、自衛隊の実態を徹底的にバクロ

現在、日米軍隊による南西諸島全域へのミサイル基地建設造りが急ピッチで進んでいるが、これを報道するメディアがほとんどない。この全容を現地取材…

私は現地取材を重視し、この間、与那国島から石垣島・宮古島・沖縄島・奄美大島・種子島ー南西諸島の島々を駆け巡っています。この現地取材にぜひご協力をお願いします!