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検察のリアル

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検察ってなんだろう。その実態を垣間みた元サラリーマン記者が独自の視点で描きます。
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新米記者が見た検察④黒川さんのこと

連載も最終回になった。 きょうは渦中の人物、黒川弘務(くろかわ・ひろむ)さんのことを書く。 有名人はじめて見たのは、筆者がポップコーンを食べていたときだった。 2008年秋。法務省主催のイベント「赤れんがまつり」でのこと。すらっとした細身で、めがねの奥の眼光がするどい。「このひとが、黒川さんか」。しばし見入ったのをおぼえている。 とにかく有名だった。 「できる」「豪腕」「顔が広い」「政治力がある」。記者連中からこんな評判があがっていた。 うろおぼえだが、当時の役職

新米記者が見た検察~はじめに

はじめまして。まこりんと申します。わたしは3年前まで日本経済新聞の記者をしていました。いまは縁あってベンチャー企業に属しています。東京在住の35歳の一市民です。 知られていない検察官の人間性ここで記事を書こうと思い立ったのは、検察庁法改正案の議論が世間をにぎわしているからです。この問題に対する世間の反応をみると「検察に対する知識」が足りていないようにおもえます。どのようなひとたちが組織を支え、どんな気持ちで働いているのか。イメージが漠としているゆえ、議論が一面的で単純化され

新米記者が見た検察①腫れ物

黒いハイヤー東京・霞が関に東京地方裁判所という建物がある。夕暮れ時になると、この裁判所の脇の道に黒いハイヤーがずらっと並ぶ。東京地検特捜部を取材する通称「P担」(ピー・タン)の記者たちが夜回り取材で乗る車だ。 入社1年目、筆者は通勤で電車に乗った記憶がほぼない。すくなくとも週5回、朝、晩は必ず黒いハイヤーに乗り、検事宅、被疑者宅などを訪問取材した。自宅訪問が難しい場合は路上で声をかけた。何度、警察に通報されたかわからない。 過熱取材2008年当時、PCI(ピー・シー・アイ

新米記者が見た検察②深夜の牛丼

禅問答毎日、午後4時が憂鬱だった。 検察を担当する記者たちは東京地裁にある記者クラブに詰めていた。4時になると、おもむろに地下通路をわたって真向いの検察庁舎にむかう。検察幹部の部屋を訪ね、取材するためだ。 ここで、東京高検のR刑事部長と筆者とのやり取りを再現しよう。東京高検刑事部長といえば、いまでいうと、黒川高検検事長の直属の部下にあたる重要なポジション。ちなみR刑事部長は現在、経済事件を取り締まる公的組織のトップを務めている。 筆者「■■の事件、読売に▼▼みたいな供述

新米記者が見た検察③居酒屋での誘惑

使命”巨悪を眠らせない” 検察の王道コースを歩むひとたちがよく口にすることばだ。社会を揺るがす”悪”を摘発し、是正していく。検察を端的にあらわす表現といっていい。 相手が総理大臣であっても、偉い財界人であってもひるまない。絶大な権力をにぎっているからこそ、黒川検事長の定年延長問題がこれだけ国民の関心の的になっているわけだ。 事件の糸口検察はどうやって事件をみつけてくるのだろう。 たとえば、最強の捜査機関と呼ばれる東京地検特捜部の場合、当時は3班にわかれた捜査体制をしい