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盟友

 登山の帰り道、私たち二人は
電車に揺れている。紀恵はしばらく話していたが途中でウトウトと寝てしまった。トレッキングポールが紀恵の力を失った指と膝に引っかかって、何とか倒れるのを免れいてるが、時間の問題だろう。私は、紀恵のトレッキングポールを二つに束ね
電車の座席にうまく安定させる。
紀恵はもう深い眠りに落ちてしまっている。

 紀恵は、5歳の時から一緒の仲だ。保育園から高校生まで一緒。大学でついに離れ離れになったが、ことある度に、時間を合わせて遊んだし、社会人になってもそうだった。今思えば、伴侶より長い時間を過ごしている。
紀恵との思い出は、私の人生そのものだと思う。本当にいい「友」を持ったと思う。お互い、残された時間は僅かになってきている。

 紀恵は1年前に夫を亡くしている。それでも、いつも元気な姿を見せたくれた。登山をしようと言ってきたのも紀恵からだ。悲しみを拭い去るようわざと空元気をしているようで心配だった。
紀恵の口元がパクパクと痙攣するように動く。ひどく愛おしくなる。どちらが、先にあの世に向かうのか・・・・・・
紀恵には先に逝ってほしくないと思う。
そう思ったら、急に寂しくなって、紀恵を起こそうとしたがやめた。

夕日があかね色に染まり、私たちを包む。何遍見てもこの夕日ため息が出るほど美しい。生きているうちは、この美しさに包まれているだ。生きているうちにもっともっとこの美しさを共有したい。



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