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インターホンを押しに 2 短編小説

気になるこの住所を覚えてしまった。即座に思いついた答えが
フードデリバリー。
これになれば彼女に会えると思った。

そして、なった。

僕は、彼女のアパートの前に立っている。
今更ながら、なんで何も頼まれてもいないのに彼女のアパートの前にいる???

これ、完全にストーカーじゃん!!

汗が滝のように出て、体全身を覆った。

でも、後に引く気はない。
「死のうかな」彼女のあの言葉を思い出す。
嘘だとしても本当かもしれない。
嘘が本当になる話。先日、観たアニメがそういった物語だった。
嫌だ。そんなの絶対に嫌だ。

その想いがインターホンを押してくれた。
しばらく間があった後、彼女のくぐもった声が聞こえる。

取り敢えず、フードデリバリーの会社名を言う。
頼んでませんよ。場所間違えてますよぉ えっ? てっ・・・・・・・

と言った後、僕だと気づいてくれた。嬉しかった。

そして、彼女と少し話をした。焦りまくって何を話したか
あまり覚えていない。
けれど、
「ストーカーだねっ」とはっきり言われたことは
覚えている。
ショックの勢いで、「死なないでね」とはっきり伝えた。
彼女はクスッと笑った。

その後も僕は、インターホンを押した。
そして、他愛のない話しを少しした。
でも、いつも話すのはインターホンのマイク越しだ。
彼女は、引きこもりになっていた。

ある日、よく働けるねと褒められた。
私なんかと話してても、時間の無駄だよとも言われた。
自虐的になっている。いつもより。
僕の存在がプレッシャーになっているのかもしれない。
心底不安になった。

僕は勇気を振り絞って、彼女に一緒に働かないかと提案した。

彼女は嫌だと。

いや、2ケツで一緒に乗ってるだけでいいよ!

捕まるよ。と彼女

そ、そっかっ あーじゃぁ
か、稼ぎは君と折半でいいから

何様?

何様でもないけど・・・・・・

何で働かそうとすんの? 

何んでって、君に元気になって欲しいから

ならなかったら?

か、稼ぎ全部君のものだ!

は?

いや、その、だから、その ごめん・・・・・・。

私のこと何だと思ってる!?どう思ってんの??遊んでんの? 

好きだと思っています。

あ。



ブツっとインターホンは切られた。

な、何、やってんだ・・・・・・・・僕???
切られたぞ 言っちゃった後 切られたぞ 嫌われたぁ???

ってか、告白しちゃった?!?!?
しちゃった!? あ、してたよ!
でも、嫌われた??

切られ方。。。。あの切られ方 やばい切られ方 つまりは、拒否! 
嫌ですのブッ!ストーカーのブツ! ストーカー嫌です!のブツ!!
インターホンで、ブツツツ!!!!!

あぁ、嫌われた! もう嫌われた!
ん?でも、あれ? でも、何で今まで話してくれたんだよ??
あぁ、わかった。遊んでたのかぁな 遊ばれたのかなぁー 
きっとネットに書き込みまくってるんだよなぁー 「ストーカーと会話してみた」って掲示板とかに投稿されてんのかなぁ 
ショックだなぁ あー お終い。めでたしめでたし・・・・・・
あー辛い。全然よくないじゃん告白って、地獄。
僕、ひきも・・・・

バァアアン!扉が勢いよく開く

彼女は出てきて、恥ずかしそうに 
やっぱし、せ、折半ねっ 

僕は呆気に取られ、
ふうぅん。
と何とも情けない返事をした。

彼女が2ケツで行こうと言ってきた。

でも、さっき捕まるって言ったじゃないですかぁ と僕。

何で敬語なの?

えっ あ、 やっぱ2ケツで行こう!

彼女がドスンと自転車の荷台にまたがる
僕はサドルにまたがり、ペダルを漕ごうとするが
見事にバランスを崩して二人で、自転車から滑り降りる

む、無理でしたね。

そう言って、僕は倒れた自転車を持ち上げようと、ハンドルバーに手を掛ける。
そしたら、上から手が被さった。彼女の手。そして、優しく握ぎりながら言われた。

「ありがとう」

顔が真っ赤かになるのがわかる。でも、

すごく嬉しい。彼女の声が心に響く。
幸福の声。

僕たちは一緒に自転車を押しながら、進む。
夕日が綺麗だ。
これからも、この夕日を見よう。
そうとは言えないけど、密かに思って 一緒に明日へ向かう。

終わり





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