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「お茶を淹れる人」という存在

お茶を淹れる人、茶人とは?


茶を生業としている人々の、茶との関わり方は様々です。

元々私は音楽制作の仕事をしていて、お茶好きが高じて農家様の元を訪れたり、日本茶インストラクターの資格を取得して少しずつ知識、経験を積んでお仕事を頂くようになり、今に至っています。

現在は音楽制作の仕事を中心に、ボトリングティー(ワインボトルのような瓶に入った高級茶)の製造、農作業、ECサイトで少量限定の茶販売。
お茶会、講座、イベントの企画、開催。ライブ配信を手掛けています。

日本茶カフェ、バーにお勤めであったり、茶の生産者、販売者がお茶を淹れる人、茶人、プロフェッショナルというのが当たり前と思われている中、私のような人間は まれなタイプと言えるでしょう。

そんなちょっと人とは変わった関わり方をしてきた自身が思う茶人とは、
自分自身に茶を響かせ、表現できる人なのではないかと感じています。

根本として茶の知識があることは勿論のことですが、茶のそのままを伝えるだけでは茶人とは言えないと思うのです。
これまでの人生を通して感じてきた感情であったり、その人生感までも茶を通して相手に伝えることが出来るか。

自身というフィルターを通しているので、提供する茶には自分自身というものが何らかの形で必ず現れます。
手を抜いていたり、準備が不十分であったり、独りよがりの茶では簡単に見抜かれてしまう。本当に怖い仕事です。

自分自身に響かせるということは、自分というものを常に磨く努力をしなければなりません。美しいものに触れる機会、そしてそれとは反対の苦しい、邪悪な世界を見る経験というのも時には必要かもしれません。

そんな茶人が表現する一杯のお茶は、嗜好品でもなければ、のどの渇きを潤すだけの飲み物とは明らかに違うものであることは間違いありません。

茶が作られた歴史、生産、製造の方法、どのような思いでもって作られた茶であるか。そしてそれをお客様に最もよい方法で提供できる知識、技術があること。茶を楽しむ豊かで満ち足りた時間、雰囲気を作り上げることができること。
これらが体現できるのが茶人なのではないでしょうか。

そんなお茶を淹れる「人」に注目した選手権が先日開催されました。
このことについてお話していきたいと思います。


淹茶選手権2022 東京本選を振り返る


2022年2月20日(日)
東京・大手町にあるENEOSビルの3×3Lab Futureにて
「淹茶(えんちゃ)選手権 2022 東京本選」が行われました。

淹茶選手権 東京本選の様子はコチラをクリックするとご覧になれます
Youtube



選手権では「課題茶部門」「フリースタイル部門」の2つの部門での合計点で競われます。

「課題茶部門」では 茶、急須、茶碗は全て運営側から指定されたものを使用。茶は1週間前に自宅に届いたものを、当日初めて触る茶器を使って淹れ

「フリースタイル部門」では 茶、茶器など出場者が自由に選択しパフォーマンスしていきます。


ルール、採点について


パフォーマンスにあたってはルールが存在します。
禁止事項や違反、減点対象となる行為など。

例を挙げると、
・火気厳禁。使用する水は支給されるペットボトルの軟水。
・両部門とも制限時間は一人10分。制限時間後、すみやかに終了しない場合は10秒ごとにマイナス3点。
・課題茶を飲んだ印象およびなぜその淹れ方をするのかの説明を必ず盛り込む
・フリースタイル茶部門においては事前にテーマが伝えられる
・大会3日前までに事務局が準備したフォームにフリースタイル部門で使用する茶、茶器、道具、パフォーマンス内容を記入して提出する。
など。

そして採点は下記の5つの項目が審査されました。

  1. 技術/テクニカル (茶、茶器などを衛生的に扱っているか。テーブル上が整えられているか。など)

  2. プレゼンテーション(内容の構成、時間、言葉の使い方)

  3. <課題茶部門>課題茶の理解と表現、<フリースタイル部門>茶葉の選択理由と表現

  4. (濃度、提供温度、触覚、バランスなど)

  5. 魅了(説明と実践の一貫性、所作、満足感、心地よい時間の提供、情熱など)


ここを見て欲しい!出場者だからこそわかるポイント解説!


淹茶選手権の九州大会、静岡大会、東京本選の様子がYoutubeに公開されています。
東京本選の動画はコチラから→→ Youtube 

その中で東京本選に出場された皆様のここが凄いと思うところ、見どころ、出場者にしかわからないポイントを解説したいと思います。

宇野明日真さん

自分の話し方を変えるのは、容易なことではないと思うんですよね。
普段は優しく穏やかな口調でお話される印象でしたが、選手権ではガラッと変わり完全にプレゼンテーションの話し方をされていたことに驚きました。

同じ世代の方に茶を伝えるために、どんな方法で伝えるべきか。
彼が日本茶をやる理由や情熱を強く感じるパフォーマンスだったと思います。プレゼンに是非注目してみてください!


緒方 塁さん

お勤めのカフェで普段から使われている茶釜、柄杓を使ってのパフォーマンスでしたが、所作がスムーズで本当に美しいです。
着物のリメイクである衣装も、ご本人の雰囲気に合っていて素敵でした。
フリースタイル部門で、急須のふたを外して一滴を絞るときのリズム、急須の角度などは相当な回数淹れた経験がなければ成しえないと思います。是非そこに注目してみてください!


神﨑悠輔さん

室礼、雰囲気づくり、衣装など。ひとたび話を始めると一気にその世界に引き込まれます。
お茶を淹れて待つ間の時間「話は変わるんですけど・・」とアドリブで話された話は全てお客様に楽しんで頂くためであり、そのとっさのアドリブもかなりの場数を経験していなければ出すことは出来ないと思います。その世界観に注目してみてください!


べったなさん

選手権の最中にも発言されていましたが、茶に対する感度を上げてもらうため、今後の茶の在り方について問うために来たと。並々ならぬ覚悟を持って臨まれていたと思います。
そもそも茶とは何なのか。あなたにとっての茶とは何なのかを考えさせられるパフォーマンスでした。唯一無比の存在感と茶に対する向き合い方に注目して頂きたいです!

選手権に出場して

出場を決まるまでの苦悩


2022年1月、神奈川県 登戸にある「お茶と食事 余珀」様と共に
「夜の余珀を愉しむ会」 を開催致しました。

淹茶選手権の大会運営関係者でもある余珀様からお話を伺って今回の大会の存在についてを知ります。
最初の印象としては面白そうだなという印象でした。

ひとつのお茶を淹れるにしても、人の数だけ方法があり、正解がなく
その方がお茶をどのように捉え、表現するのかに大変興味があったからです。

お話を伺ったその日に自分も挑戦してみたいと意気揚々と返答しました。

しかし、自身の考えが浅はかだったと気づかされます。
大会についての説明会と称したzoom会議に参加し、会の詳細やルール、違反行為などについての説明を受けました。

課題茶として淹れるためのお茶が配られるのは、わずか50g。
大会の一週間前に茶が届き、そこから淹れ方、茶器、プレゼン内容を決め、
更にその課題茶とは別にフリースタイルでの茶の選定やパフォーマンス内容この2つを同時に仕上げなければなりません。

zoom会議が行われた12日後には本番。

今回の選手権は「お茶を淹れること」だけではなく、
所作を含めた茶を淹れることの基本的な能力、茶についての知識、なぜこのお茶を選択したのか。どうしてこの方法で淹れるのかを分かり易くかつ限られた時間で説明する能力など様々な分野での高い能力が求められます。

当然ですが仕事や家事の合間を縫って時間を捻出しなければなりません。
何をするにも時間がかかるタイプの不器用な私には
とても間に合わせることは不可能だ。納得のいくクオリティのパフォーマンスをできる自信がない。とこの時、諦めていました。

zoom会議の終盤に「出場するか否かもう一度考えさせていただきたい」ことを伝えました。他の出場者の皆様は出場することを決め、士気を高めていらっしゃる中で、自身の発言は如何なものだったかと思いますが
それだけ自分にとっては高い高い壁だったのです。

そこから数日間、ずっと悩みました。
なぜ私は茶を淹れるのか。この選手権に出場する意味はいったいなんなのか。出場した場合、しなかった場合、両方の今後についてなど。

頭が真っ白になるくらい考え続けた後に浮かんだこと

「お茶を淹れたい」

この一点でした。

ここ数年、お客様の前でお茶を淹れる機会が持てませんでした。
皆さんとの約束を果たすことがずっと出来ませんでした。
仕方がないことだとわかっていながらも、このことがネックになっていました。
チャンスがあるのなら、どんな形であれ、やるべきだ。

もう一度、選手権に出場する方向へと気持ちを向き直し準備を始めます。


大会の日

大会本番の様子


淹茶選手権に出場するにあたり楽しみにしていたことの一つに
出場者の方々とお会いできるというのがありました。

憧れであり、尊敬すべき茶の淹れ手の方々と同じ舞台に立つことが出来る高揚感。皆様が茶に対してどんな考えをお持ちなのか大変興味がありました。

丁度この日は冬季オリンピック閉会式の日。
出場される皆様は、さながらオリンピックに出場されるアスリートのようでした。

自身のやるべきことにとても集中していて、落ち着いて淡々と準備を整えられている印象でした。どんなことが起きようとも動じない。そんな信念にも似た感情を受け取りました。

選手権で使用する道具、お茶をベストな状態で準備し、
手先が見られるから。と爪の先まで丁寧なケアを施し、
どのような衣装で出場すれば、自分らしさが出せるかを意識された衣装の準備をし。
これらは選手権の点数には反映されない部分でしょう。しかしこのような細かな部分まで物事を考え、入念に準備されている姿は本当にプロフェッショナルでした。

選手権の舞台の前には関係者の方が数十人。
カメラが2台もむけられ、本番一発勝負。

緊張からその重圧に耐えるのは容易なことではありません。ハートが強いことは勿論、自分に自信がなければあの場に立つことは極めて困難です。


葛藤

フリースタイル部門 本番の様子

お茶を淹れることに優劣などないのに、私はこれからこの場で尊敬すべき皆様と戦わなければならない。
なぜ順位が付けられなければならないのか。なぜ戦わなければならないのか。

ただ、何もしなければ何もはじまることはないし、
何かをするとしたら、自分は茶の魅力を伝え、届けることしかない。

ひとつだけ決めていたことがありました。
ここ数年、様々な制約がある中で我慢しなければならないこと、あきらめなければならなかったことが沢山あったことと思います。
審査員の方に、カメラの向こうで見てくださっている方のために希望のある言葉を投げかけたかった。

人との約束、希望があれば、困難な今を乗り越えてゆく力になるんじゃないか。そう思ったからです。

ただ、その一言を発することも、自分にとって想像以上に重いものでした。
なぜなら一緒にお茶を楽しむという約束を、ずっと守れていなかったのは他でもない。自分だったからです。

それでも言わなければならない、いや。言うのだ。
「また私と一緒にお茶を楽しみましょう」
この一言を絶対に言わなければならない。

言うことで実現するんだ。皆様にとっての希望となるように。

結果を受けて

優勝トロフィー

淹茶選手権2022 東京本選の結果、最優秀淹茶賞(1等賞)を頂きました。
応援してくださっていた皆様の声が力になりました。この場をお借りいたしまして御礼申し上げます。

この大会終了後、全員一人一人に別室に呼ばれフィードバックを頂けたことは大変大きかったと思います。
どういった部分を評価していただき、逆にどの部分に改善の余地があったかなど。自身では気づくことのできない部分をご指摘頂いたことで今後の活動に活かせるのではないかと思います。

そして今回この賞を頂いたことは「お茶を淹れ、伝える能力がある」と認めて頂いた。と受け止めています。そうであるならば私は自身の能力を人々の喜びのために活用したいと思うのです。

淹茶選手権の最後に言った一言を実現するため。
今まで会えなかった人、会ったことがなかった人に会いに行くために、先日、自動車免許を取得しました。
今年は日本全国に足を運び、お茶に出会う、そして楽しんで頂く機会を多く作っていきたいと思います。

いかがでしたか?

まだまだお茶を淹れる人の存在や、お茶のこと自体も知られていないのが現状だと思います。

小さなキッカケで、人生は大きく変わるものです。自身が茶と出会ったように...

もしあなたが茶人と出会うことがあったら、沢山質問してみて下さい。茶の奥にあるストーリーを、今ここに生きている人々の想いを丁寧に伝えて下さるはずです。

そんな体験を茶を通してお届け出来るよう、自身も精進して参ります。

最後に

インスタライブ配信では、お茶について様々なテーマを掘り下げて紹介しています。今後のお茶イベント情報ゲストの方とのコラボ配信も企画中ですので、そちらもお楽しみに!
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