[メモ] 四福音書の証言者(1)ヨハネ福音書の影の著者

上記の一連のメモでは、エマオ途上のイエスの顕現について、登場人物のうちクレオパでない方の使徒がシモンであると推測し、またクレオパが「イエスの養父ヨセフの兄弟クロパ」および「使徒マタイの父アルファイ」および「使徒マッテヤ」と同一視されると推測した。

この関係性から、マタイの福音書は、使徒マタイが執筆者であると共に、エマオ途上のイエス自身の講解説教を聞いたクレオパが影の監督者・証言者となっていることを推測できる。

また、マルコの福音書がペテロの口述証言をペテロの通訳者マルコが執筆したものであるとする伝承は古く、ヒエラポリスの使徒教父パピアスに遡る。

また、ルカの福音書がパウロの監督のもとに書かれたとする証言も古く、リヨンのエイレナイオス、カルタゴのテルトゥリアヌス、アレクサンドリアのオリゲネスによって、広い地域で一致した伝承が残されている。

このように見ると、共観福音書はそれぞれ「二人の証言者」により書かれたということが伺える。ものごとの裁定には二人以上の証言者を必要とする教えが反映されているのであろう。


【執筆者】     【証言者・監督者】      

マタイ(十二使徒) クレオパ(=十二使徒マッテヤ?)

マルコ       ペテロ(十二使徒)

ルカ        パウロ(使徒)

ヨハネ                      ??????


このように考えると、第四福音書、ヨハネの福音書にももう一人の隠れた証言者がいるのではないか、という推測が自然とおこる。

思い出してみると、第四福音書自身が複数の証言者の存在を暗示させているのである。

"これらの事についてあかしをし、またこれらの事を書いたのは、この弟子である。そして彼のあかしが真実であることを、わたしたちは知っている。"ヨハネによる福音書 21:24

この語り手は、筆記者が自分と別にあることを示唆している。高等批評などの一般的な立場としては、これは「ヨハネ教団」の後の世代による加筆であるなどと考えられている。しかしマルコの福音書のエピローグに種々あるような場合とは異なり、出回っている写本や引用の中でヨハネ21章が切り離されているものはない。

ここで一般的な解釈を離れて、ヨハネの福音書が最初から複数の証言者によって編まれた可能性を考えてみよう。この21章の「証しをし、書いた弟子」は主に愛された弟子として出てくるヨハネ福音書中の匿名の弟子であり、最後の晩餐のときにイエスの胸元に寄りかかって尋ねた弟子である。

"ペテロはふり返ると、イエスの愛しておられた弟子がついて来るのを見た。この弟子は、あの夕食のときイエスの胸近くに寄りかかって、「主よ、あなたを裏切る者は、だれなのですか」と尋ねた人である。"ヨハネ福音書21:20

この「胸元に寄りかかった人物」が「イエスの弟子ヨハネ」であるという証言も、リヨンのエイレナイオス(c. AD 170)、アレクサンドリアのオリゲネス(c. AD 230)、エフェソスのポリュクラテス(AD 2c)によって証言されており、古くから広い地域で一致する確度の高い伝承である。

これらのことをまとめると、

・ヨハネ福音書の執筆者は愛された弟子ヨハネである。

・愛された弟子ヨハネはおそらくゼベダイの子、使徒ヨハネと思われる。

・ヨハネ福音書には執筆者自身の証言が含まれる。

・ヨハネ福音書の語り手は執筆者自身の他にも存在する。

ではヨハネの福音書の隠れたもう一人の執筆者は誰なのであろうか。考えてみよう。(つづく)




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