[メモ]義人ヨセフ(1)

「エマオ証言」シリーズのメモでは、エマオ途上の二人のうちの一人がシモンであること、また名の示されているクレオパは実は使徒マッテヤのことであり、かつ使徒・福音記者マタイの父である、と結論づけた。

しかし、ここで新しい疑問が現れる。「この状況でマッテヤに比肩する使徒候補などいるのか?」という疑問である。

クレオパ=マッテヤという比定が正しいとすれば、マッテヤは十使徒に先立ってイエスの復活の証人となっており、しかもおそらくはイエスの叔父であり、その特別性、特権性は群を抜いている。イエスはもはやクレオパをユダの欠員を補う使徒とすることを定めていたと言っても過言ではない。

しかしユダの欠員を補うために候補となったのはクレオパの他にもう一人いる。

バルサバ=ヨセフ=ユストなる人物である。

"そういうわけで、主イエスがわたしたちの間にゆききされた期間中、すなわち、ヨハネのバプテスマの時から始まって、わたしたちを離れて天に上げられた日に至るまで、始終わたしたちと行動を共にした人たちのうち、だれかひとりが、わたしたちに加わって主の復活の証人にならねばならない」。そこで一同は、バルサバと呼ばれ、またの名をユストというヨセフと、マッテヤとのふたりを立て、祈って言った、「すべての人の心をご存じである主よ。このふたりのうちのどちらを選んで、ユダがこの使徒の職務から落ちて、自分の行くべきところへ行ったそのあとを継がせなさいますか、お示し下さい」。それから、ふたりのためにくじを引いたところ、マッテヤに当ったので、この人が十一人の使徒たちに加えられることになった。"使徒行伝 1:21-26

このバルサバ=ヨセフ=ユストという三つの名を冠された人物について、聖書は他の箇所で明示的には言及していない。しかしペテロに次ぐ復活の証人となったクレオパの名に先んじて挙げられるほどの人物となると、使徒らにとって、また初代教会にとって極めて大きなプレゼンスを持った人物であることが予想される。

ではそのような人物が福音書に全く出てこないということがあるだろうか…?ここで、バルサバ=ヨセフ=ユストという名前を詳しく見ていこう。

(1)「バルサバ」という名

アラム語系の名前。「シャブアの子」あるいは「豊かさの子」。「バル〜」は「〜の子」という意味だが、親子関係を表す(父称による呼称)こともあれば、性質を表すあだ名であることもある。後者の例としてはバルナバ(「励ましの子」)などがいる。

タルムードにはベン・カルヴァ・サヴァなる人物が出てきており、家に訪れた犬たち(カルヴァ)を豊かにする(サヴァ)子(ベン)であることから、つまり貧しい者たちにたくさん施したことから、そのように呼ばれたとされる。このベン・カルヴァ・サヴァは、エルサレムがローマに包囲されたころの三大富豪として記録されている。

このような例からもわかるように、この使徒候補「バルサバ(バルサヴァ)」という人物はあだ名になるほど裕福であった可能性がある。

福音書中に「金持」と言及される人物は四人いる。

1.アリマタヤのヨセフ(マタイ27:57)

2.譬え話の中でラザロを迫害した紫の衣の人物(ルカ16:19)

3.永遠の生命について問うた役人(ルカ18:18)

4.徴税人の頭ザアカイ(ルカ19:2)


(2)「ヨセフ」という名

これは普通のヘブライ名で、おそらく彼の本名と思われる。

福音書中に出てくる「ヨセフ」は四人いる。(系図中の過去の時代のヨセフは除く)

1.イエスの養父ヨセフ(マタイ1:16)

2.イエスの兄弟ヨセフ(マタイ13:55)

3.小ヤコブの兄弟ヨセ(フ)(マタイ27:56)(2と同一の可能性あり)

4.アリマタヤのヨセフ(マタイ27:57)


(3)「ユスト」という名

ユストはラテン語系の名前「Justus」のギリシア語音写であり、意味は「義人」である。この名は二つのことを示唆する。すなわち⑴ラテン語圏の人々との関わりがあること、⑵正しい人として知られていたこと、である。

教会史において「ユスト」の称号で最も知られた人物は、主の兄弟ヤコブ(James the Just)である。しかし主の兄弟ヤコブとバルサバ=ヨセフ=ユストを同一視する証拠は少ない。

ラテン語での「ユストJust(義)」に対応するギリシア語は「ディカイオスδικαιος(義)」であり、ヘブライ語は「ツァディクצדיק(義)」である。

福音書中で「義人δικαιος」と呼ばれる人物はイエスを除くと4人いる。

1.イエスの養父ヨセフ(マタイ1:19)

2.祭司ザカリヤ(ルカ1:6)

3.ザカリヤの妻エリサベト(ルカ1:6)

4.アリマタヤのヨセフ(ルカ23:50)


さて、このように、バルサバ=ヨセフ=ユストの三つの名の示す特徴をすべて兼ね備えた人物が福音書には登場する。この人物こそがまさにバルサバ=ヨセフ=ユストなのではないだろうか。つまり、

バルサバ=ヨセフ=ユストとはアリマタヤのヨセフのことである。

アリマタヤのヨセフはサンヘドリン議員であったことからローマ帝国との関わりもあり、ラテン語系のあだ名が付くことも納得がいく。

そして、彼は「イエスの埋葬の証人」であった、ということも、彼の使徒候補としての特権性を助けるものであろう。しかし、いかに彼が社会的地位が高くイエスの埋葬の証人であったとしても、ペテロに次ぐ復活の証人であり、イエスの叔父でもあるクレオパ=マッテヤに比肩するとまではまだ納得できない。

そこで次にこの推測をもう一歩進めてみよう。



追記:「義人δικαιος」と呼ばれる人がもう少しいた。

「正しい信仰深い人δικαιος και ευλαβης」老シメオン ルカ2:25

「正しく聖なる人δικαιος και αγιος」洗礼者ヨハネ マルコ6:20




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