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私と息子、2人での暮らし


生まれ育った愛知県を出て、さまざまな場所を訪れて辿り着いたのは宮崎県の海に近い町。
そこで3歳のひとり息子と一緒に、庭のある小さな家で2人で暮らしています。

朝、目を覚ましてからしばらくベッドの中で今日一日の段取りをぼんやりと考えてから、寝ている息子を起こさないようそろりと抜け出す。
シングルベットを2 つ並べているというのに、息子は大抵私のベッドに侵入し狭い枕元で横向きになって寝ている。
赤ちゃんの頃から変わらない彼の寝顔を眺めて、胸がキュッとなるような幸せに浸る。

息子が起きてきてからはもう戦争だ。
トーマスのプラレールで一緒に遊びたい息子と、朝ごはんの支度をしたい私。時々ケンカしながらも限られた時間の中でお互いのしたいことをお互いができる範囲で譲歩し合いながらこなしていく。
それでもベッドの中で考えていた段取りがきちんとそのままこなされていくことはまずない。
以前はそれが嫌でついイライラしてしまったけれど、今では割り切れるようになってきた。というより、私自身にも段取りがあって、息子自身にもきっと段取りがあって。
お互い様ということに気づいただけ。私たちは親子だけれど、この小さな家に住む同居人、共同生活者。
それぞれの心地よい暮らし方がある。それを尊重したい。


実は、私たち2人だけの暮らしはまだ始まったばかり。
新しい家族のかたちの中で私たちは模索し、寄り添い、反発し、見つめ合って、手を繋いできた。
そんな時を過ごしながら、私も彼も、お互いをまだ知っていっている途中。お腹の中にいた彼は私の気配を残しつつも、しっかり彼ひとりとしての生き方を身につけてきている。
あのすぐに壊れてしまいそうな頼りないふわふわの小さな体だった彼は、日々の一瞬の出来事の合間に驚くような成長を垣間見せる時があって、3歳といえどもとても頼もしくなった。
私の立派なパートナーであり、小さな相棒。


この暮らしは、私の人生にとっての大きな岐路の先にあった。
その岐路を経て、今では穏やかに平和に暮らせている。本当に幸せなこと。
この暮らしを始めるにあたって、心に決めていたことがある。
本当にやりたいことに取り組む。
自分の心に素直に従う。
そういう思いもあって、部屋の一角に小さな小さな作業スペースを設けて、そこで絵を描き始めた。

子供の頃は絵を描くことがとにかく大好きで、いつまでもどれだけでも描いていられた。
本当に好きだったけれど、成長していく段階の中で色んな状況や感情の変化があっていつの間にか心の奥底に追いやってしまった。
そうして絵のことなんてすっかり忘れて、そしてそのまま大人になった。

きっと誰もが、日常の中の何気ないものが心の琴線に触れる瞬間があると思う。
綺麗な空だとか、通り抜けた風、雨上がりの空気や虫の声。
「ああ、いいなあ」と思う瞬間。
あの瞬間が私はたまらなく好きだ。
そしてその瞬間に、私には見えたもの感じたものが絵や色彩として映ることがある。
それを本当に絵として描き出せたのなら、心の中にある景色を再現できたのならどんなに幸せなことだろうと思った。
本当の幸せって、きっとそんな些細なものなのかもしれない。

そうして人生の岐路を迎えるにあたって、私が自分自身と向き合い、自分に問い続けた先にあったものは、もう何十年と向き合ってこなかった絵を描くことだった。
琴線に触れたあの瞬間に感じる、純粋な幸福感。
もっと感じていたい。そんな生き方をしたい。
初めて筆をとった時、涙が込み上げそうになった。


息子にも、本当に好きなものを見つけてほしい。
胸が高鳴って、笑顔になれて、もしくは表情を繕うことさえ忘れるほど真剣に没頭できて、そして魂が揺さぶられるようなもの。
なんでもいい、多くなくてもいい、みんなより飛び抜けていなくていい。ひとつでも見つけられたら、きっといつか彼の心を救ってくれる時が来るはず。
それを見つけられることが、どれほど大切なことか。

絵を描くことがやっぱり好きだと自覚し、自分の感性を否定しないことに決めたらもうそれからはとにかく楽しくなった。
私は、いつか息子と一緒にお絵描きの旅に出たい。
元々旅が好きで、知らない場所や文化、人と接することが好きだ。
そんな旅の中で、好きな場所で好きな時間だけ絵を描く。
それは旅中に息子と共に過ごした時間、一緒に見た景色、触れた文化、感じた気持ちから芽生える絵。だから、息子との共同作品だ。
そんな風に絵を描いて、どこかで息子と一緒に個展をひらく。
そんなことができたら、私の人生の目的の半分は達成。

そんな想像をしながら、小さな小さな部屋の一角で絵を描き、海と山を眺め、夕日に感動して、息子と笑って、遊んで、眠る。
ささやかな日々を送っている。愛しい時間。

多くのものを手放したら、残ったものが一層大切に思えるようになった。
なんて穏やかで豊かで幸せな暮らしだろう。
そんな私と息子の暮らしの中の小さな出来事や思い、浮かんだ文章を自分への覚書きとして書いていけたらいいなと思っています。




































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