見出し画像

それぞれの正義があるからね

書くかどうか迷ったし消すかもしれないけど、やっぱりモヤモヤしたこの気持ちを書き出して、心の整理してみようかなと思う。

京都でのお仕事を終えて昨日はお休みで、朝からお散歩がてらブラブラしていたら、セイロンティーを販売しているのを発見して、軽い気持ちで茶葉を見つめていたら、それを販売している50代くらいのスリランカの方(そのメーカーの社長さん?)に声を掛けられて軽く会話を交わした。

たまたま私の横で紅茶を見ていた女性が、有名な紅茶メーカーさんの紙袋を下げていて、私に「紅茶、お詳しいんですか?」と聞いてきた。

「紅茶が好きで、紅茶の仕事をしています。奥様も紅茶がお好きなんですね?」とニッコリ、その女性の紙袋に目をやると

「さっき、ここに来る前に別のところで、この紅茶を買ってしまったんですけど、ここを通ったら、これは偽物というか、良くない紅茶だって言われてしまって・・・」と悲しそうに持っていた紙袋を見つめた。

「えっ?そんなことはないですよ」と私が目を丸くすると、私と女性の会話に、スリランカのその人が割って入ってきた。

「貴女は紅茶の仕事をしてるって言うけど、紅茶のこと、本当は何も知らないでしょ?◯◯も◯◯も(←結構な大手メーカーさん)どこも、ろくな茶葉を扱ってないし、あんなものは紅茶とは呼ばない、◯◯(←国名)には紅茶はない」と言われて、とても残念で悲しい気持ちになった。

でも、わざわざ買わなくていい喧嘩を私がムキになって買うこともないからと、静かにその場を離れようとしたら

今度は、私の横にいたその女性に向かって「◯◯の紅茶は身体に悪い香料を使ってるし.そんな値段で買えるものは紅茶じゃない」「自分はスリランカの茶園だけじゃなくて、日本の専門機関や行政の幹部、百貨店の上層部、いろんな権力者と繋がってるから、正しい情報が手に入るし、影響力もある」というようなことをとても流暢な日本語で熱く語り始め、よくわからないマウントをとっていた。

悲しかった気持ちがジワリと怒りに変わり、自分の心臓がバクバク鳴りはじめ、手のひらが冷たくなるのを感じた。

その彼が散々「他とはモノが違うから」とご自身の紅茶の素晴らしさ、それと同時に、他国や他社メーカーさんの紅茶の品質の粗悪さや流通の問題点について熱弁しているのをジッと堪えて聞いた。その時間はとてもとても長く感じられた。

そして、会話が途切れた瞬間、万を辞して
「あの・・・同じ紅茶を扱う者として、ひとつだけ言わせていただいてもいいですか?

貴方が紅茶をとても愛していて、産地の方々のことも想い遣っているのも、お客様に安全でいいものを届けたい気持ちも、情熱的に真摯に紅茶に向き合ってきたのも、すごく伝わったし、とてもよくわかりました。

ただ、だからと言って、そんな風に他社さんを何度も名指しにしたり、その方々が作っている紅茶のことや、その国の文化を声高に悪く言ったり、こちらのお客様がせっかく買われた紅茶に、不安感を植えつけたり恐怖心を煽るような言い方ばかりをしてしまったら・・・

貴方が本来やりたいことを勘違いされたり、せっかくのその紅茶やお客様への愛が、誤解されて伝わってしまいませんか?それはとても残念で、もったいない気がします」と言った。

本当の本当の本心を言うと「おい、いい加減にしろ、マジ1回黙れ」というのが本音だったけど(←負けじと口が悪いw)、喧嘩腰になったら伝わらないと思ったので、慎重に言葉を選んで優しく言ったつもりだったけど、きっと私の表情や声に静かな〝怒り〟が滲んでいて、相手も少し「しまった」という表情になった。

一瞬、狼狽した彼は「僕だって誰かれ構わず、こんな話をしてるわけじゃない」と必死になって、急に言い訳をし始めたけれど・・・あれだけスラスラと流れるように言葉が出るのだから「いつもこの感じで話しているな」と感じ取った私の感覚はきっと間違ってなかったと思う。

「もちろんあなたの紅茶も素晴らしいし、こだわりや他との違いもよくわかりました。
でも、大手メーカーさんも小さな紅茶屋さんもみんな、それぞれ一生懸命に自分達がいいと思うモノをお客様に届けようと努力されてると思うんです。
そこには、誇りを持って働いてる人たちがいて、そのおかげでごはんを食べられるご家族もいて、そこの紅茶が大好きだというお客様やファンもいます。だから、自分のよしとする基準や製法と違うからと言って、安易に他社さんやそこの商品の悪口を言うのは、あなた自身の価値を下げてしまって、あなたの紅茶のためにならない気がします。」

怒らせちゃうかもしれないと思ったが、せっかく嬉しい気持ちで買ったばかりの紅茶にダメ出しをされた女性の気持ちや、この紅茶を作っている人達のことを思ったら、どうしても言わずにいられなかった。

「じゃあ、貴女は本当はマズいって知ってて、悪いモノだとわかっていても言わないの?健康被害があってもお客様に教えないの?それは不誠実じゃないのか?」という感じで、今度は逆に私が詰め寄られる側になった。

きっとこの人も消費者さんの健康を守りたかったり、生産者さんに還元されないことに憤りを感じたり、目に見えない何か大きなものと戦っているんだなぁと「その気持ちもわかるよ」と切なくなった。

その場では、これ以上もう何も言うまいと黙ったけど、もしも、彼のその問いに私が答えるとしたら・・・

例えば、そのメーカーさんが「健康食品」として、それらを「ウリ」に紅茶を販売しているのなら、もちろん健康被害があってはならないと思うし、農薬検査やJAS認証に嘘があってはいけないと思う。

私だっていつも安全な紅茶を探してきたし、私にも「苦手な味わい」の紅茶だって正直ある。

でも、味の好みはそれぞれだと思うし、第一、私には土からモノが作れないし、私たちが持ってない技術や設備だってある。だから、生産者さんにも他社のメーカーさんにも〝作っていただいて、買わせてもらえる〟のだから、苦手なモノを選ばなければいいだけで、文句や悪口を言える立場ではないと思っている。(もう一度言うけど、苦手なものは私にもある)

それに、農作物の製法や規定もお客様の動向も、常に進化したり、変化していくもので、今の正解が10年先も正解かはわからないから、その時その時のベストを尽くそうと決めているし、もちろん、お客様を騙す気なんて1ミリもない。

ただ、「健康食品」や「お薬」ではなくて、紅茶は、あくまで「嗜好品」なのだから、太るってわかってても甘いケーキが食べたい、酔うってわかっててもおいしいお酒を飲みたい、身体に悪いと知っていてもタバコが吸いたい、そういうものと同じく「楽しむ」もののハズ。

もちろん健康や美容に良い面もたくさんあって、それを目的で飲む方もいらっしゃるし、日々の癒しやスイーツのお供に飲む方もいて、紅茶に「何を求めるか」は、お客様が決めること。

あなたにはあなたの正義がある。
でも、私にも私の正義があって、
他社さんにもそれぞれの正義がある。

別に彼と喧嘩したいわけじゃないし、私が全面的に正しいとも思ってない。

ただ、考え方や価値観が違っててもいいから、同じ紅茶を愛する者として、自社のものを心から誇るように、他の人が作るものにも敬意を払ったり、お客様の選ぶ権利を尊重したり、少しだけでも歩み寄れたり、わかり合えたらと頭をよぎったけど・・・

これ以上、私が彼に意見することは、逆に私の正義を押し付けることになるからと、伝えたかったたくさんの言葉を飲み込んで、「色々と教えてくださって勉強になりました。本当にありがとうございました。」と彼の紅茶を買わせてもらって終わりにした。

情熱というのは、時々、人を盲目にもさせるし、人を傷付ける刃にもなるのだなと学んで、「私もやっちゃってるかもなぁ」と反省もした。

その女性には「心配しなくても大丈夫ですよ。どこの茶園さんもメーカーさんも一生懸命にお茶作りをされてますから・・・それに今はお客様も情報を得られる時代ですから、本当に悪いことをしているメーカーさんなら、ちゃんと淘汰されていくハズです。だから、安心してお好きな紅茶をお好きなように、楽しんで召し上がってくださいね。たまに「こうじゃなきゃ許さん!」みたいなラーメン屋さんの頑固オヤジみたいな人が、紅茶の世界にもいるんですよ・・・笑 でも、そういうお店にもその厳しさが好きだっていうファンがいるんですよね?」とコッソリ伝え、笑顔で別れた。

それでも、早々にホテルに戻って、引き籠りたくなる程度には気分が滅入った。昨日、買ったケーキも食べる気になれず、今朝やっとティータイム(緑茶でw)

「無力だなぁ」と一瞬、思いそうになったけど、「いやいや、まだ微力なだけだ」と思い直し、小さくても私にできることをやっていこう。

どうか今日も一人でも多くの人に伸び伸びと、楽しいティータイムを過ごしてもらえますように。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?