『ドラゴンボールの息子』その9「ぶらざあのっぽは夢の国」
父はアニメ脚本家として多くの作品を世に残しましたが、それ以上に多くの「人」を残してきたのです。
『ぶらざあのっぽ』
父は多くの才能ある若者を集めて脚本家集団を作り、こんなふうに名付けました。
194cmある「のっぽ」な父とその兄弟たちという意味です。
昔のアニメファンの方なら、こんなスタッフロールをご覧になった方がいるかもしれません。
僕が物心ついた頃に父はすでに「ぶらざあのっぽ」を作り、多くの若者たちと共に活動をしていました。
父は子供である僕と姉にはいつも、「金は残さないが、経験は残してやる」と言い続けていました。
それと同じく脚本家としても、「金ではなく、人を残したい」と思ったそうです。
今の時代でもそうですが、自分から弟子をとる脚本家はあまりいません。
なぜかというと、自分の執筆活動だけで本当に忙しいですし、がんばって弟子を育てても「同業者」が増えるだけだからです。
「小山さんはバカだなぁ……ライバルなんか増やしちゃって」周りの人からは、そんなことも言われたそうです。
ですが父は長い年月をかけて、
多くの「人」を育てました。
ガンダムシリーズ、ヒーロー戦隊、ポケモン、
仮面ライダー、プリキュアシリーズ、ガルパン、ラブライブ!
小山高生が残した「人」たちが、
今でも様々な作品で活躍しています。
おかげで父は今でも多くの弟子たちに慕われたり、いじられたりして、本当に豊かな老後を過ごしております。
さて、ここからは僕にとっての
「ぶらざあのっぽ」をお話しましょう。
子供の頃の僕にとって「ぶらざあのっぽ」は脚本家集団ではなく、ただの「楽しいお兄さん・お姉さんが集まった場所」でしかありませんでした。
なにがそんなに楽しかったかと言うと……
一流脚本家になる皆さんは、ハッキシ言って、おもしろカッコよかったのです!
※先輩たち、怒らないでくださいね。
どのお弟子さんも「子供心」を忘れずユニークで、いつだって小さな僕に全力で相手してくれました。
だから僕は小学校から帰ってくるといつも、
「ぶらざあのっぽ」の事務所に遊びに行ってしまうんです。
自宅から10分ほどの道のりを自転車に乗って行くと、見るからに古~い感じのおんぼろな「2階建てアパート」にたどり着きます。
1階にはさびれたカラオケスナックがある、
いかにも昭和の建物でした。
それから外階段を使って2階に上がるんですが、これが鉄製のくせにひどく揺れて不安定なだけでなく、不気味なほどに「カン、カン」と足音が響き渡るんです。
2階に上がっても事務所の入口のある廊下は小さくて薄暗くて……今考えると、子供がひとりで行くような雰囲気じゃなかったような気がします(笑)
たしか……一番奥の部屋が「ぶらざあのっぽ」の事務所で、隣の部屋には後の脚本家「川崎ヒロユキ」さんが住んでいました。
そう……後に「ガンダムX」など、
多数の作品で知られる人です!
これが若き日の僕と川崎さん。
川崎さんの部屋の前を通る時は、
よく「美味しそうな香り」がしました。
当時の川崎さんは父・小山高生も認める「脚本の天才」だったのですが、さらに「料理上手」のスキルも持っていたのです!
僕はその香りを横で感じつつ事務所のチャイムを鳴らすと、その日の留守番を任されたお弟子さんが必ず迎え入れてくれました。
今考えれば僕なんて、
完全な邪魔者だったろうに……
「師匠の息子」ってことで、お弟子さんたちはみんな僕にやさしいんですよ。
なんとも、やっかいな『おぼっちゃまくん』だったことでしょう!笑
事務所はおよそ6畳と4畳半のいわゆる、
「2K」の間取り。
とにかくタバコ臭くて、本やおもちゃ、ゲームが雑然と並んでました。
当時、出版社から贈呈本として毎週送られてくる少年ジャンプやマガジンなんかが、使われない風呂場に所狭しと積まれていたものです。
例えるならそう、「ガラの悪い部室」といったところでしょうか(笑)
でも、僕はそんな事務所が大好きでした。
それは、誰かが持ち込んでくる「最新のゲーム」があるからだけじゃありません。
そこにいる「人」が、
とにかく魅力的だったんです。
だから僕はいつも夕方5時に町内で鳴るチャイムを無視して、さらに事務所に居座り続けようとしていました。
すると、決まってうちの母から事務所に電話がかかってくるのです。
行き先も告げずに出かけてるのに……
母ちゃんはエスパーなのかっ!
僕はそんな風に思っていました。
その当時、ぶらざあのっぽの姉御である「影山由美」さんが電話をとりました。
「ここにはいないって、言って……!!!」と子供の僕が懇願しても……
「あ、いますよー」
影山ねぇさんに一瞬で裏切られて、
自宅に強制送還されてました。
さすが、影山ねぇさんだぜ……っ!笑
でも、僕はまた翌日も懲りずに事務所へ行っちゃうんですよね。
たぶん子供の頃の僕には、事務所は「タダで行けるテーマパーク」だったんじゃないかなぁ……
豊富なアトラクション(ゲームや漫画)と楽しいキャスト(お弟子さん)が、師匠の息子だから全力で「おもてなし」をしてくれる、まさに事務所は僕にとって「夢の国」だったのです。
……なんて、都合よく思ってるのは僕だけで、毎日のように相手してくれた先輩たちには今でも本当に申し訳ない限りなんですけどね。汗
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