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ショートショート2 【羨望の終わり 嫉妬の始まり】


【マリーゴールドの棺】というお題を貰いました。
ショートショートを書かないかという依頼?がありましたので今回はこちらにショートショートを書いていきたいと思います。

【羨望の終わり 嫉妬始まり】

マサが席に着くと、店員にコーヒーと言った。
かしこまりました。といい店員は頭をさげる。
街に緑が広がりを見せ始め、吹く風も温かみを帯びている。とはいえまだTシャツ1枚で外に出るには心許ない。
マサはカフェに向かう前に服装に悩んだ。
外の様子からするに薄いパーカーでいいだろうとそれを羽織り今に至る。
今日はマサにとって特別な日だった。
彼女の由美子と付き合って3ヶ月目のデートだったからだ。
記念日というもの大切にしたいマサだったが由美子には、そんな毎月気張らないでよと言われていた。
毎月にプレゼントを用意して3回目。
由美子の喜ぶ顔が見たい一心だった。
周りには男女の客が席を埋めていた。
気まずさを感じ、用もなく腕時計やスマホを見やる。
由美子が到着するまであと10分。
今日は由美子をどんな風に喜ばそうかと考えで頭はいっぱいだった。
コーヒーを口に運ぶ、前まで角砂糖を1個入れて飲むのが常だったのだが最近は専らブラックだった。
挽きたてのコーヒーの香り、コク、それでいて少しの酸味。口に広がり鼻腔へと抜けていく。
このカフェのおすすめだ。
由美子を待つこの時間も何とも言い難い楽しみのひとつだ。高揚感。
一言でいうのであれば、それだ。
時間が迫ると胸の鼓動が高鳴り、どんな表情でいればいいのかわからなくなる。
由美子がマサを見た時にものすごく真顔だったら笑ってくれるだろうか?
頭に浮かんだそんな考えも空を切るようにかき消し、自嘲した。
待ち合わせの時間になったが由美子は来ない。
スマホを見ても何も応答がないようだった。
女性店員が近づいてきた。
注文をしていないのにパンケーキがその手にあったのだ。
「いつも、ありがとうございます。サービスです」
「いやいや、そんなに毎回大丈夫なの?ありがとう。」
店員はいえいえといって顔の前で手を振った。
マサの席に目をやると
「彼女さんへのプレゼントですか?」
「うん。今日で3ヶ月目でね。それのプレゼントさ」
「彼女さん愛されてますね。羨ましい」
店員はマサに向き直り破顔した。
「そのプレゼント、私がもらおうかしら」
と気さくな店員だ。
「こらこら」といって2人笑みを浮かべる。
「それではごゆっくり」
頭をさげその場を後にした。
この店員は毎回、サービスといって軽食を運んでくれる。ありがたいとは思うがいいのだろうか?とは思いつつ口にする。ここのパンケーキも絶品だった。
またこのコーヒーもパンケーキに合う。
口にした瞬間にとろけるようになくなってしまう。そこにコーヒーを流すのだ。
メッセージアプリを確認する。
由美子とのやり取りは40分前で止まっている。心配なのでメッセージを送ろうかとした時だった。
スマホに着信がある。
見知らぬ番号からだった。
不信を抱きながらスマホを手にとる。
「もしもし!マサくん!」
由美子の母親の声だった。
声から狼狽の色と慌てぶりが窺える
とても早口だった。
「落ち着いて聞いて!由美子が死んだの!」
言葉の意味を理解するのに数秒を要した。
「なんですって!?」
「病院に運ばれた時はまだ息があったんだけど」そう言うとと由美子の母は声を震わせた。
泣いている。そんなことはすぐに把握出来た。
「今どこにいるんですか?」
「病院よ」
「わかりました。今すぐにいきます。」
慌てて、席を立ち会計に向かう。
先程の店員が対応してくれた。
「あの、良ければこれ」といって花を渡してきた。
「ありがとう。もらっておくよ」と奪うように取った。花に詳しくないので名前は分からわないが鮮やかな黄色が映える花だった。
一輪だけ紙に包まれている。

店を出てタクシーを拾い、乱暴にドアを閉めた。
「病院まで急いで!」
バックミラー越しに睨まれたような気がしたがそれどころではない。
信じたくない。その思いで由美子の携帯に電話をする。出るはずもないのにどこかで淡い期待があった。
電子音が鳴るだけで応答はない。
やはり由美子は.........
発信していたスマホを切ろうとした。
「もしもし?」と声がした。
「由美子!?由美子なのか?」
違和感はあるがそうであって欲しいと思った。
「いいえ。違います。」
マサはそれを聞くと、大きなため息を吐き、落胆した。
「じゃあ誰だ!?どうして由美子の携帯を持っている!?」
「あの、これ拾ってですね。落とし主困るだろうと思って」
腑抜けたようにああと感嘆を漏らす。
「で、私が持っていたわけなんです。」
そういう事か、由美子はもういない。
今まさに現実を目の前に突きつけられて鼻先を殴られるような痛みが心に走る。
「関係者の方ですね。この携帯をお渡ししたいのですが」
「わかりました」マサの言葉に力がこもっていない。
後で取りに行く約束をして電話を切った。
病院に到着するとお釣りはいらないといい1万円札を渡す。
タクシーを降りる時に気づいたが3ヶ月記念日のプレゼントをカフェに置いたまま忘れたようだった。
今となっては貰う相手のいないプレゼント。
中身はコルクボードで二人で撮った写真を貼って飾ろうかと思っていた。
その被写体はマサだけとなってしまった。
あのカフェももう行かなくなるだろう。
地下へと向かうエレベーターの中でスクリーンショットのように切り出された由美子の姿を脳裏に写し出していた。
一歩が重たい。霊安室にいって由美子の顔を見たいという思いと今ここから逃げ出したいと思う感情が混ざり気が滅入る。
霊安室の前には由美子の家族がいた。
警官と話している由美子の母親はマサに気づきこちらに目を向ける。
「マサくん」
由美子の母親がマサに気づく。
「由美子は中よ」
「はい」
手にしていた荷物を投げるようにして置き霊安室へと入る。
昨日までの由美子とのやり取りを思い出し涙が頬を伝う。アウトドアな由美子は肌が焼けていた。赤褐色に帯びた色は健康体そのものだと思う。今横たわる由美子は"生”という色を根こそぎ剥がされた人の形をした物に見えた。
褐色だった肌の色は失い。
白という言葉、色が際立つ。少しすれば起きてくれるのではないかと思うくらい表情は柔らかい。触れた頬に熱など感じれる訳もなく、それは陶器を手にしている感覚に近い。力を込めれば容易く割れそうな物と化している。
「由美子、どうして」
嗚咽にも近い声をあげ、泣きじゃくる。
その場に崩れこんだ
霊安室にマサの声が響く。
マサの声が無機質なコンクリートの壁を跳ね返るのだった。
霊安室の入口が開く音が聞こえ、振り向くと由美子の母親が立っていた。
驚愕の眼差しを表情にして
「これをどこでだれから貰ったの?」
由美子の母親が手にしていたのは先程のカフェで貰った一輪の花だった。鮮やかな黄色がこの霊安室になんとも釣り合わない。
「さっきまで由美子と待ち合わせをしていたカフェの店員に」
由美子の母親は狼狽を見せた。
マサの携帯が鳴る。
メッセージアプリだった。
死んでいるはずの由美子からのメッセージ。
「マリーゴールドは気に入ってくれたかしら?」
間を置かず
「3ヶ月目のプレゼントありがとう。これからも二人の思い出を飾っていこうね」
マサは頭に一筋の光が閃く。
まさか、、
由美子の母親に目を戻す。
「由美子殺されたのよ。出会い頭にナイフで何度も。その時に体に黄色の花びらがついていたって警察の方が」
声の震えが一層強くなる。

羨望の終わりは嫉妬の始まりを意味する。

以上、お題を貰い書き上げたショートショートです。
マリーゴールドの花言葉を調べると黄色の花全般に「悲しみ」「絶望」「嫉妬」というワードがあり、ルノルマンカードでは棺をひとつの事柄の終わりというワードがありましてそれらをイメージしてこんなお話を書いてみました。
恋愛感情のもつれって人生を狂わせるみたいですね。

僕が初めて読書と言える事をしたのが小学5年生の時、当時映画でやっていた「学校の階段」のノベライズ本でした。

それからあまり読書というものはしていなかったのですが20歳になった時、池袋ウエストゲートパークの再放送を何気なく見ていてオープニングに原作者の名前があり、これ小説だったんだ!という驚きからこの原作者である石田衣良さんの本を読み漁るようになり、こんなお話を書いてみたいという思いから執筆をちょくちょく始めたものです。
ミステリーといえば、クローズドサークルに集められた登場人物たちが様々なトリックを使われて殺され、探偵役がその謎を暴くスタイルが普通だと思い読書をしてきた。
だけどこの池袋ウエストゲートパークは体を使い、悪いやつを追い詰めるといった体力型のミステリーというイメージを与えてくれた。
そうミステリーのジャンルにあるハードボイルドと言われるもの。
頭脳ではなく己の人脈、体力で事件の謎に立ち向かう姿はとても興味を惹かれるものだった。
それから石田衣良を始め、レイモンド・チャンドラー、大沢在昌などハードボイルドを得意とする作家に触れて読書生活を過ごして来た。
具体的な池袋ウエストゲートパークの感想文とレイモンド・チャンドラーのお話はまた後日。

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