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クラブ活動

「まきちゃん、一緒にクラブ行かない?」
就職活動真っ只中の大学四年の夏、友達に突然誘われた。
とはいえ、私も上京してから三宿や新宿のクラブは行ったことがある。
しかし、今目の前にいる彼女が言っているのはどうやらそれとは違うのだ。

「実はお父さんの友達が今度東京に来るんだけど・・お父さんが社会勉強のために、娘をクラブに連れてってくれって、その人に頼んだみたいで」

彼女の会話に出てきた登場人物と「社会勉強」というセリフに私は「ああ、そっちのクラブね」と納得した。

そんな機会なかなかないし、予定も空いてたし、面白そうだからと一緒に行く約束をした。

学生だった私は、当時八王子の駅ビルに入ってた若い子向けのブランドで2980円で買った青のキャミワンピを着ていった。夏はTシャツばかり着ていたので、これしかまともに着ていけそうなものがなかった(笑)

待ち合わせ場所の銀座のホテルのロビーに行くと友達が待っていて、しばらくすると、そのお父さんのお友達という方がやってきた。

その方は産業医をされていて、今日は学会のために上京したとのことで、彼女のお父さんとは学生時代からの趣味仲間でもあった。
「今日はお父さんから、社会勉強頼まれてるからねー」と言いながら、ひとまずアジア料理店で食事をすることになった。

私も上京してから、何度か銀座に来た事はあるけれど、夕方から姿を変えるこの街は初めてで、レストランに向かう途中でも着物姿やドレス姿の人とすれ違うたびに、ドキドキした。そしてペラペラなキャミワンピがひどく貧相にも思えた(笑)

レストランでは、初めてトムヤムクンを食べて美味しかったのを覚えている。ZIMAを飲んだ友達が「これ美味しいねー」と言っていた。ZIMAはいつもいっている方のクラブですでに覚えていたので、向こうのクラブも役に立つもんだな、と思った。

さて、いよいよ社会勉強のクラブへ。
銀座の繁華街のビルの一角。小さなエレベーターに乗り込む。
指定した階が開くと、テレビやドラマでみた世界が広がっていたーー。
心の中で「お母さん!まきは、まきは今、銀座のクラブに来ています!とても華やかな世界です。東京って‥東京ってすごいよ」と北の国からの純みたいな心持ちになっていた(笑)

天井にはびっしりと煌めくシャンデリア。
フロアの真ん中には大きな黒いグランドピアノ。
それを囲むように、ソファとテーブルが配置されていた。

まだ早い時間に着いたので、通された席は広々したソファ席だった。綺麗なホステスさんが楽しくお話してくれて、いい匂いのするお名刺をいただいた。
しばらくお話していると、連れてきてもらった方に「ヘルプで何人かいれていいですか?」と聞いていた。

すでに女子大生2名が座ってるのに、ヘルプで3人来て、女性が6人いて、端からみると、ものすごい豪遊してる感じに見えた。私のワンピースは2980円だけど(笑)

ホステスさんたちが私と友達が大学四年で就職活動が苦戦しているという話をしたら

「じゃあ、ここで働けばいいのに」
と上品な笑いを含みながらいってくれた。
「お母さん!まきは、まきは今、銀座のクラブで働いちゃえばと言われましたよ。果たして私のようなものでも、この東京砂漠・・やっていけるのでしょうか。八王子に住んで4年。すっかり都会人ぶって申し訳ありません」という気持ちだった。

私の知らないこんな世界があったとは。
たしかに社会勉強にはなる。
友達のお父様、そしてそのお友達!ありがとうございます!

私と友達は出された単なるウィスキーなのに、その割り方が絶妙でとてつもなく美味しいのに感動し、置いてあるおつまみのグラスとそのおつまみの美味しさにも感動した。

私はちょっとでも「ワンチャン話面白いからいける」と思った自分を全力で殴りたくなった。こんな水割り作れねぇ・・。

気づくとけっこうな時間が経っていた。
京王線で帰る私達は電車の時間もあったので、帰ることにした。

帰り道、友達は「男の人ってあんなんで楽しめたりしてるの嫌だなぁ・・」と言っていた。
私は現実問題のそうゆうのが嫌だとかじゃなくて、自分自身の体験として、今後二度とできない経験をさせてもらえたことで気分が高揚していたから、友達が吐露した想いにはっとさせられた。

逆に考えると、もしかしたら彼女のお父さんはそこまで計算した上で連れて行ってあげてと言ったのかもしれない・・。
2980円のワンピースで銀座のクラブに行けたよ!スカウトされたよ!なーんて言ってる私とは違うのだ(笑)

本当に社会勉強になった、夏の出来事だった。

※一年後、社会人になってから当時付き合っていた彼氏が昔いったキャバクラの名刺と私のいったクラブの名刺を見せ合ったことがある。そもそも紙質が違っていて、キャバクラが香水の匂いに対して、クラブの名刺はほのかないい香りがする!と彼氏が敗北したように言ったのを、今でも覚えている。




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