運の話

来年は大変革の年らしいよ、と年末に遊びに来てくれた友人が教えてくれた。
彼女は髪を流れるような桃色に染めた、美しいものとスイーツをこよなく愛する人で、子供たちも(特に上の娘は)憧れと親しみを持ってよく懐いている。テレビはうるさくて苦手、という彼女が先日珍しくテレビを付けたら、手相占いもやるお笑い芸人が来年の世相というか、世の動向を占っていたそうだ。
 それによると、なんでも200年続いた一つの時代が終わり、次の時代に入る年で、何かしらの周期の関係で、普段なら年に1日あるかないかのものすごく幸運な日が、今年は2回訪れるのだという。その日は1/20ともう1日は忘れてしまったので、また思い出したら連絡してくれるのだという。普段避けているのにたまたまテレビをつけたらそのような話だったので、大変驚いて我が家に来る時に是非とも伝えようと覚えておいてくれたのだそうだ。話に説得力のある彼女が、特別嬉しそうに意気込んで話してくれたのと、たまたまその日に演奏の予定が入っていたので、これは何かあるぞと、我が家全員もその日が来るのが楽しみになった。年が開けてしまえば二十日間なんてあっという間だ。
 かくして当日、朝起きるとカーテンの隙間から朝日が差し込んでいる。朝から気温も高く、洗濯物がよく乾きそうだなと思った。子供たちの着替えもいつもよりすんなり終わり、朝食の味噌汁は赤味噌だった。幼稚園に向かう道々の信号も青ばかりで、昼食は好物の高菜としらすのパスタだった。下の子と妻が南向きの居間で昼寝をしているのを見ながら皿を洗い、繁忙期で発送が遅れていたセールの靴下が届き、幼稚園のお迎え先でママ友とカレーのスパイスについて盛り上がり、帰りにアナ雪2を娘と車で歌いながら帰った。
 宝くじも当たらず、1万人目のお客様にもならなかったが、1日機嫌良く過ごした。幸運な星めぐりの日はこんなにもいい気分で過ごせるんだな、機嫌良くいられること自体がラッキーなんだなと感心しながら家に戻り、演奏の現場に出発する前にコーヒーを飲みながら、今年もう一度訪れるこの幸運の日がいつなのか気になった。こんな気分で過ごせる日がまた来るなんて。「芸人 占い師 ラッキーデー」で検索すると、手相占いの島田秀平が出てきた。なるほど東洋系の占いね、独りごちながらラッキーデーに言及しているインタビューサイトを開く。200年続いた土の時代が終わり、風の時代が来る。お金や土地から通信や人との繋がりが重視されるようになる、と。なるほど。ラッキーカラーは赤と青。思わず自分の服装を見返す。まあ、パンツが紺だからギリセーフだな。赤いセーターでも着てたら一等前後賞だったかもな。ラッキーデーは、一粒万倍日のことね、宝くじ売り場で見たことあるな。日にちは1/22と6/20。
ん?と思って数回読み返す。何度読んでも今日じゃない。これは明後日だ。月と日にちが混ざったんだ、彼女の勘違い。意気込んだばかりにうっかりしてしまったのか。そのこと分かった途端に、むせ返るくらいの幸福感が胸の底から湧いてきた。勘違いで、こんなちょっとしたうっかりでこんなにも幸福な気持ちで過ごせるのか。今日なんてラッキーに取り囲まれている、とまで思ったのに。一粒万倍日ではなかったが、その日は最後まで機嫌良く過ごした。これを書いた翌日も割といい気分だった。自分の単純さに呆れないでもないが、それとこれとは関係のない話だ。
 ちなみに明日がそのラッキーデーにあたる。新しい財布を下ろしたり、好きな人に告白したりするといいらしい。僕も何か新しいことを始めてみようと思う。良い1日になりますように。

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