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『世の終わりのための四重奏曲』

シャンゼリゼ劇場に響いた、ピアノとヴァイオリンの、たったふたつの音の永遠。オリヴィエ・メシアン Olivier Messiaen「Quatuor pour la Fin du Temps 」

パリ2000年代始め、本当に足繁く西洋古典音楽の演奏会に通った。相棒はだいたい30歳以上も離れた大先輩。もちろん一人天井桟敷で聞くことの方が多かったが。
一緒に行ったその方は当時ヴァイオリンのイザベル・ファウストIsabelle Faust にはまっておられ、わたしはサティ以降の”フランス人作曲家”に興味を持っていた時期。演目はメシアン、ヴァーレーズ。最高でないわけがない。8分15が、永遠となる時間だった。そういった世界を楽譜という紙の上で音符を記す作業とは何なのかと、時間の在り方を、時計で測ることの意味もふくめ、様々な心象風景が現れては消える音の響きの中で思い耽った。

openradio No.167でご紹介したのは「世の終わりのための四重奏曲」から 「Louange À L'immortalité De Jésus イエスの永遠性への賛歌 」。ピアノはダニエル・バレンボイムDaniel Barenboim 、ヴァイオリンはルベン・ヨルダノフLuben Yordanoff。8曲からなる作品のひとつと、メシアンの代表作が収録されているこのアルバムタイトルは「Garden of Love’s Sleep」。この曲自体の、滑るような音と音の流れがたまりません。指揮はMyung-Whun CHUNG。
John Ogdenのピアノによる1969年の演奏「The kiss of the Infant Jesus」。然り。

先ほど登場した大先輩から、arteというヨーロッパの音楽番組でこの曲を聴いて、あの時のコンサートを思い出したよ、というメッセージをいただいた。

「神を信じようが信じないようが、精神の高みを感じることができる。」とメールを読んだところで彼のその言葉自体がovniの記事になっていました。シンクロニゼーション。


最近ポール・クレーの本から刺激を受け、色彩の音的感覚に目覚め、そして手元にあったHermesのAmbre Narguileの香りをまといながら、この香水を調香したジャン=クロード・エレナが放った言葉を思い出した。
 「匂いは言葉、香水は文学」 ……
この文脈からいって「言葉」「文学」を音世界の言葉に置き換えたくなるのは当然だろう。
アルバムの表紙、そしてブックレットの挿絵を飾るのはArt DirectionであるFred Münzmaier。
香り立つような音、調香された音列、空間と、そこにいる人間を包む音や香りに眩暈さえ覚える。

パリに住み始めて以来、誕生日にはいつも誰かから花束を贈られる機会に恵まれている。たとえツアー中の秋田にいようが、新橋のビジネスホテルにいようが、パリ11区のアパートにいようが、いつも何らかの方法で花が届けられます。ある時は死者から贈られたこともある。これ本当の話。

 花とは香りを放つ魔法の植物。花を摘み、人に贈り、部屋はその芳香で満たされる。あるいは色彩。過去の花々の残り香、色を思い出し、メシアンの音世界に沈みながら、花が佇む庭とは、眠るための愛情であったと、パリの午後を過ごす。

メシアンが音を紡いだ「世の終わりのための四重奏曲」、あの80年前、彼が生き延びた収容所に庭はなかった。絶望以外の庭はなかった。その事実とただいま現在私たちが経験することの庭とは、幻想であるという想像はできるだろうか。

人生とは庭の上に広がる空を見逃し花に戯れる幻想だ。

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Garden Of Love's Sleep / Jardin Du Sommeil D'Amour

1 O Sacrum Convivium!
Choir – Coro dell'Accademia Nazionale di Santa Cecilia
Chorus Master – Norbert Balatsch
Conductor – Myung-Whun Chung

2 Jardin Du Sommeil D'Amour (Turangalîla-Symphonie)
Conductor – Myung-Whun Chung
Ondes Martenot – Jeanne Loriod
Orchestra – Orchestre De L'Opéra Bastille
Piano – Yvonne Loriod

3 Le Baiser De L'Enfant-Jésus (Vingt Regards Sur L'Enfant Jésus)
Piano – John Ogdon

4 Demeurer Dans L'Amour... (Eclairs Sur L'Au-Delà...)
Conductor – Myung-Whun Chung
Orchestra – Orchestre De L'Opéra Bastille

5 Louange À L'Immortalité De Jésus (Quatuor Pour La Fin Du Temps)
Piano – Daniel Barenboim
Violin – Luben Yordanoff

6 Les Ressuscités Et Le Chant De L'Étoile Aldébaran (Des Canyons Aux Étoiles...)
Conductor – Myung-Whun Chung
Glockenspiel – Renaud Muzzolini
Orchestra – Orchestre Philharmonique De Radio France
Piano – Roger Muraro

7 Choral De La Sainte Montagne (La Transfiguration De Notre-Seigneur Jésus-Christ)
Choir – Chœur de Radio France
Chorus Master – Philip White (3)
Conductor – Myung-Whun Chung
Orchestra – Orchestre Philharmonique De Radio France

8 Le Banquet Céleste
Organ – Olivier Latry

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