セザール・フランク -ミモザ秘めたる愛-

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思い出したのはやはり香りでした。あるいは色。

セザール・フランクを知ったその日。フランクの音楽を教えてくれた人と街の市場に出向き、フランスでは珍しい鮪の、色よき切り身、あるいは烏賊、そしてコリアンダーの束60サンチームを見つけて、さあお昼はこれを調理しよう、なんて言っていた矢先、目の前の花屋にはミモザが溢れている。もう両手いっぱいの花束を、彼の奥さんに贈りたくなって、買い求めたのです。

ミモザを求める時、一番気を付けなければいけないのは、花粒が十分に咲ききっていなければならないこと。咲きひらいていないと、どんなに水揚げよろしくしても、絶対に開くことはありません。ふわふわのミモザが放つ芳香は、そう、土からの命あってのこと。その命が枝から花へ満ちきった時に、いただくのです。あとは部屋を満たす香りと色を2日間満喫する。で、ミモザの命は終わり。これがこの花の命の宿命でその原理を知ることは大切だと、フランスに住み始めてから知ることとなりました。

さてC.フランク。彼はまず吉田秀和の名著「主題と変奏」を差し出し、自慢のオーディオで聞かせてくれたのです。

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Franck: Sonata for Violin and Piano in A - by Christian Ferras, Pierre Barbizet

そしてキーシン : Franck: Prelude, Chorale & Fugue

彼の計り知れぬ音楽的経験を、晩年の創作によってしかわたしたちは知る由もない。しかし教会のオルガン奏者として糧を得、音楽による目に見えぬプレッシャーとそれに従属する時を経て生み出された音楽の深さに、息をのむ。

さてフランクその音楽自体を経験、それですらもない語ることすらできぬわたしですが、書面やらネットで聞き覚えすることより、ある音の実体験は、そのものが存在のひとつであると確信しています。

今宵、どんな日であろうと、ミモザが放つ芳香に身を任せたい。その空間にC・フランクの音楽が鳴ってる、そんな人生の時間なのです。


C・フランクをピックアップした回のopenradioはNo.191 。mixcloudからご視聴いただけます。

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