ムムリク問題
これはスナフキン初登場のシーン。
「テントからムムリクが」とあり、
そのためスナフキンはムムリク族だと
言われたりもするが、実際のところは
よくわからない。
ムムリク(mumrik)という語には
”無礼で乱暴で粗雑な愚かな男”
”変な奴” というような意味がある。
上記引用部分を字義通りに訳すと
例えば(あくまで例えば、だが)
「テントからガラの悪い変な奴が
あらわれました」あたりになる。
しかし、その後のスナフキン像を
考えると、しっくりこない。
この後のやりとりで
Jag är Snusmumriken.
(ぼくはスナフキン)と名乗るのだが
snusmumurikという語には
(snusumumurikenは定冠詞が付いた形)
「かぎタバコを常用する男」や
「薄汚い男」「だらしない男」
といった意味がある。
とはいえ、これをそのまま訳語に
してしまうと、違和感がありすぎるだろう。
さて、こちらはトーベ評伝の図版ページにある
舞台のスナフキン設定スケッチ。
トーベ自身が描いたもので コメントには、
「服はくたびれていて端っこは破れ、
どこかむさ苦しく、生地も安っぽい」
とある。
となると、『彗星』での登場シーンは
「テントからむさ苦しい感じの奴が
現れました」あたりがよいのかもしれない。
Snusmumrikenの日本語訳名は
英語版名Snufkinに倣ったスナフキン。
MumrikやSnusmumurik(en)と
スナフキンとは、なかなか繋がらないだろう。
かと言って、くどくど説明めいた訳を
持ってくるのもどうかと思うし、
この後、物語を読み進めていくうちに
mumrikとは何ぞや?という答えを
読者自身が明らかにしていくのがよいのではないか。
そのためここは、旧版の訳語「ムムリク」を
新版でも引き継いだのだった。
(「種族」なのかどうかは不明です)
そして、「ムムリク」という表現は
他の作品にも登場している。
3章のヘムレンさんのせりふの
「追っぱらってくれんかね」の後には
snälla mumrik!とあり、ムムリク、頼むよ!
という感じだが、ここは訳出していない。
あとの「スナフキン」はmumrikなのだが
ヘムレンさんは切迫している場面なので、
もう少し乱暴な口調でもいいだろうし、
ムーミントロールの台詞は全体的に
もっとぶっきらぼうな感じにすると
mumrikの語感を活かせるだろうな。
(そこは改訂訳版なので、なかなか……)
さらにもう1作品。
「ねえ、スナフキン!」と呼びかけている部分が
実はMumrik!なのだ。
旧版で「スナフキンおじさん!」となっているのを
新版では「スナフキン!」とすることになったが、
ここはむしろ「おじさん!」の方が
よいのではないかとも思う。
24人のこどもたちが「スナフキン」と
呼びかける場面はなく
(スナフキンという名を知らないのかも?)
こどもたちにとってスナフキンは「おじさん」
なのだろうから。
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