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たった一語で!

新版『ムーミン谷の十一月』に登場する
フィリフヨンカは自分自身を
「こじらせ」がち。
自分軸がない訳ではなく
むしろそこはしっかりしているのに
「私だって」が「私ばっかり…」に
傾きがちで、結果的にこじれてしまう。

(だいたい、わたしって、おそうじをしすぎるのよ。
あれこれ気をつかいすぎるんだわ……。
わたしもう、ぜんぜんべつの、フィリフヨンカじゃないものになるわよ…)
 こんなふうにフィリフヨンカは、思いをめぐらせました。泣きたいようなみじめな気もしていました。だって、フィリフヨンカはフィリフヨンカで
あって、ほかのものになれやしないのですから。

『ムーミン谷の十一月』3章

その後、気分転換にムーミン谷に
行ってみたものの、一家は留守で
会いたくもないミムラやヘムレンたちと
生活を共にする破目になってしまう。

「おお、寒い!どうしてあなたたちは、わたしがきらいなの。どうしてあなたは、わたしがすべきことを、思いついてくれないのよ!」

『ムーミン谷の十一月』12章
(↑挿絵は16章のもの)

そんなフィリフヨンカも物語の終盤
大きな変化を遂げる。

「もうしばらく、持っててもいいよ」
と、スナフキンは、ためらいがちにいいました。
しかしフィリフヨンカは、あっさりと答えました。
「持っていって。わたしは自分のハーモニカを手に入れるわ」

『ムーミン谷の十一月』19章

ためらいがちな(!)スナフキンに対し
フィリフヨンカは「あっさりと」返答する。
ここで使われているsakligtという副詞は
「さばさばと」「そっけなく」「割り切って」
というニュアンスなのだが、この単語は
『十一月』の中でもう一度だけ登場する。

スナフキンにどんな手紙を書けばいいのか知ってるのは、ムーミントロールだけでした。あっさりと短く。約束するだの、恋しいだの、かなしいだのということは、いっさい、これっぽちも書きません。

『ムーミン谷の十一月』12章

上記の「あっさりと」がsakligtなのだ。
ムーミントロールの手紙とは正反対の、
気遣いでヘトヘトだったフィリフヨンカが
大きく変化したことを
たった一語で表現しているという……!

ちなみに、このsakligtという副詞は
全集1巻~8巻の中で、あと1回しか
使われていない。

「これはもう、どうみても死んでるわよ」
ちびのミイがあっさりいいました。

ムーミン谷の冬』3章

フィリフヨンカとちびのミイという
対照的にも見えるふたりの物言いが
同じsakligt……これは訳語を揃えないとね。

そして実は『十一月』において
ミムラがミイのことを形容詞の
sakligを使って、こんな風に言っている。

(ミイはあいかわらず、やっぱりそっけなくて、おこりんぼかしら。今でもまだ、お裁縫かごを自分の部屋にしているかしら)

『ムーミン谷の十一月』9章

ここは「あっさり」よりも
「そっけない」がよいので
無理に揃えなかったが。

ミイはsakligなので物言いもsakligt
あれれ、そしてムーミントロールの
手紙がミイっぽいというのは
ちょっと面白かったりする。

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