天窓から転げ落ちたヘムルは……
短篇集『ムーミン谷の仲間たち』最終話の
『もみの木』で、冬眠していたムーミン一家を
起こそうと、ヘムレンはムーミン屋敷の天窓から
突入する(玄関は雪で埋もれているからだろうな)。
ヘムルが天窓に足をかけた途端、
窓は内側に開いたから、さあ大変!な
この場面。旧版では
「ヘムルはもろに雪と暗がりと、ムーミン一家が
屋根うらにつめこんでおいたがらくたをつき
ぬけて、ころがり落ちてしまったのです」
とあるのだが、よく読むと何か違和感が。
原書を参照してみるとここは:
hemulen ramlade ner i snö och mörker och
allt som muminfamiljen lagt upp på vinden
för att använda senare. となっている。
ヘムルは雪と暗がりの中に転がり落ちたのだが
そこは屋根裏部屋で、今は使わないものが
あれこれ詰め込んであった、という文章。
つまり、
①雪が積もっている天窓が内側に開いた
②雪と一緒にヘムルは屋根裏部屋の暗がりに
転げ落ちた
③そこは季節外れのがらくたが積んであった
ということであり、「がらくたをつきぬけて」
転がり落ちると、屋根裏部屋の床を突き抜ける
ことになり、階下まで落ちてしまったかのように
読めてしまう。
しかしこの後ヘムルはドスンドスンと階段を下り、
ドアをバーンと開けて怒鳴り散らすのだ。
そのため、新版ではこのように修正。
「雪もろとも」は「雪にまみれて」
の方がよいかもしれない。
いずれにしても雪がクッションになって
ヘムルは負傷を免れたわけで……
よくぞご無事で!である。
ところで、この『もみの木』は
クリスマスシーズンにおけるトーベ自身の
苦悩をモチーフにして描かれている。
新聞のクリスマス特別紙面に掲載する
新作ムーミンをイラスト二色刷りで急いで!
という依頼にうんざりしながら執筆したトーベ。
当時の辟易ぶりを、ヘムルやガフサが苛々しながら
クリスマスの準備に奔走する様子に重ねて
『もみの木』という物語に仕立て上げたのだ。
年の瀬、クリスマスや正月の準備で
何かと慌ただしくなるのは日本も同じ。
初めて『もみの木』を読んだ小学生のとき
ガフサやヘムルたちが走り回る様子に
外国もそうなんだ〜!と親近感を
覚えたのを思い出す。
とはいえ、それもこれも平和だからこその風景。
"Glöm inte - Julen är fridfull"
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