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虫眼鏡でフィルムを……?!

ムーミンママはベランダにすわり、火をつけようとフィルムを虫眼鏡で焼いていました。けむりが立ち上り、火が出て、心地のよいつんとしたにおいが、鼻をつきました。

新版『ムーミン谷の冬』6章

新版『ムーミン谷の冬』 で春になり
ムーミンママが虫眼鏡で集光して
フィルムを燃やす場面だ。

この虫眼鏡とフィルムは物語の冒頭、
ムーミントロールが冬眠から目覚めてしまう
前の描写でも登場している。

それぞれのベッドのそばには、春になったときにいりそうなものが、すっかりそろえて置いてありました。スコップだの、火をつけるときに使う虫めがねとカメラのフィルムだの、風力計だの、そのほかいろんなものです。

新版『ムーミン谷の冬』1章

春になったら、太陽の光で
フィルムを燃やすというのは
一般的なことなのだろうか?

スウェーデン語系フィンランド人の
言語コミュニティで訊いてみたところ、
セルロイドフィルムが全盛だった1950~60年代の
「あるある」だったそう。
「子どもの頃よくやった」
「あの臭いを思い出すよ」
「男の子たちはこの遊びを"Filcka"って言ってた」
「女の子たちもやってたけど、臭くてねぇ」
「めっちゃ楽しいけどめっちゃ危険」
という声や
「これで火事になっちゃった人もいたよ」
「こんな危険なことをやるお母さんはいなかった」
というコメントも。

カメラのフィルムがセルロイドだった時代。
実際、セルロイドは燃えやすいものだった。

セルロイドは熱可塑性樹脂として90℃の高温で溶け加工が可能だが、極めて燃えやすく、170℃以上に達すると自然発火する。そのため摩擦などでも簡単に発火する。また耐候性が低く光でも劣化し、耐久性も低い。20世紀初頭から1950年代にかけて多くの工業製品に使用されたが、この可燃性の高さから火災事故の主要原因ともなり、姿を消すこととなった。

https://i-maker.jp/blog/celluloid-8946.html

そして、フィルムが焼ける臭いを
Toveは「心地のよい」と表現している。
ここで思い出すのはToveの小説
『少女ソフィアの夏』の『ナイトガウン』
という章の一節だ。

Lukt är en viktig sak, den påminner om allt
som man har upplevat,
den är ett hölje av minne och trygghet.
(臭気というものは重要で、今までに経験してきた
あれこれを呼び起こしたり、思い出や安心感を
包み込んでいたりするのだ。)

長かった冬が終わり、しっかりと顔を出した
太陽の光を集めてフィルムに火をつける。
また春がめぐってきたうれしさは
冷たく厳しい冬を経験したからこそ
感じるものなのだろう。そして
匂いや臭いはそれまでのあらゆる感情や
これから始まる季節のうれしさや切なさを
一瞬にして想起させるきっかけになる、
ということかもしれない。

スマホどころかデジタルカメラもなかった
1980年代、写真を撮るのはフィルムカメラだった。
もちろん、もう既にフィルムはセルロイドでは
なかったけど。
撮影しても現像するまでどんな風に撮れているかは
わからない、そのドキドキも面白かった。

どれもフィンランドではなくスウェーデンの写真ですが。
野菜スライサーの実演販売。日本と同じじゃん!と思わず撮った一枚。

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