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コロナ禍備忘録①体調不良になる

新型コロナウイルスの恐ろしさを身をもって感じたのは、
志村けんさんの訃報だったかもしれない。

報道された情報しか知らないけれど、
志村さんに関するその情報の限りでは、急速に悪化して、
あっけないほど簡単に命を奪っていくものなのだということを見せつけられた。

直接の知人ではないけれど、子どもの頃から当たり前のように知っている人の死というのは、世の中の多くの人がそうだったように、私にとってもショックが大きかった。

2月下旬頃から感染拡大防止措置として、仕事で関わる予定だったイベント中止の連絡が入るようになり、
身近に迫りつつあることは感じていたものの、
当初は、GW頃までには落ち着くかな、そうだといいな、というくらいの感覚でいたのが正直なところだ。

そのうちに、オリンピック・パラリンピック東京2020の延期が決定。
私は大会関連の仕事にも携わっていたので、もちろんその仕事も全て中止になったが、
頭のどこかで大会の延期や中止の予想はしていたし個人的にもその方がいいと思ってはいたけれど、
それが現実となり、関わっている人や物事への影響を考えた時、
やはりそれなりに衝撃だったことに違いない。

その後は目に見えて世の中が大きく動き出していったように思う。
感染者数は増加の一途で、
週末の外出自粛要請が発令されたり、志村さんの訃報が伝えられ皆が驚き悲しんだり、
我が家は業種は異なるものの夫婦共にフリーランスで、私以上に夫の仕事は大打撃を受けており、
この頃から私は、得体の知れない不安にすっぽり包まれてしまっていたのだと思う。

そんななか発令された、緊急事態宣言。
そこには「イベントの開催制限、自粛」についての文言があり、
今でも十分自粛をしているのにこれ以上何を自粛すればいいのか、
その時点では補償に関してはぼんやりとした輪郭ばかりで明確に示されなかったこともあり、
追い討ちをかけられるように、一気に気持ちが落ち込んだのをはっきり覚えている。

その日は、仕事で関わっていた知人の訃報も伝わってきていた。
救急搬送されたものの病院で次々と受け入れを拒否され、結局間に合わなかったとのことだった。

身体の、ある箇所に痛みがあり前の週に受診していたそうだが、それが原因なのか、
コロナが関係あったのか、なぜ受け入れられなかったのか、詳細は分からない。
でもはっきりしていることは、今この瞬間にも、
コロナ以外の病気や怪我で、診察、手術、入院や通院の必要な人が間違いなくいる、ということ。
だから医療崩壊は絶対に起こしてはならないのだと、突然の悲しい報せを受けて思いを強くした。

そんな風に色々なことが積み重なっていた4月7日、その夜に私は熱を出した。

熱っぽさを感じて体温計を脇に差し入れてみたところ、37.3度。
平熱よりは確実に高い。嫌な感じがした。
娘とベランダで、スーパームーンや宇宙ステーションが通過するのを眺めていたので、
湯冷めかなと思いつつも、不安が膨らんでいく。
結局その後2週間にわたり、36.5度から37.3度を行ったり来たりを繰り返すことになる。

微熱が出てから3日目の朝。
「37.5度以上」という謎の絶対条件をクリアしていないこと、
頭痛と言えるか分からない程度の頭の奥の疼きがあるだけで他に全く症状がないこと、
そして、過去2週間に海外渡航歴がないこと、周囲に感染者がいないこと、
微熱が出てから4日以上経っていなかったこともあり、PCR検査は対象外。
これらに当てはまらない何らかの不安がある人向けの相談センターは、
混雑しているようで電話が繋がらなかった。

その後、かかりつけ医の、好意的で柔軟な対応により、
まず抗生物質の服用し、効果が見られなかった後は血液検査を行い、
感染などの目安となる白血球や炎症性蛋白質の数値はじめ、その他も数値上では異常が無いことが確認出来た。
肺炎の可能性は低かったので、レントゲンは撮っていない。

それでも、変わらずに続く微熱。
医師にさえ分からないことが多い未知のウイルス。
不安はすっきりとは拭えない。

一度、体温計が37.6度を表示したことがあったが、
念のため10分後に再度計ってみると37.1度、
さらに30〜40分後に計ると36.7度と、ほんの1時間の間に激しく変動した。
そんなことって普通の風邪でもあるのだろうか、
やはりコロナの症状なのだろうか、いずれにせよ心配だ。

昨年あたりから更年期障害の症状か、時々激しい頭痛や微熱があったのだが、
看護師の友人からは、自己判断せず、頭痛を侮らないよう忠告されていた。
今回の頭の疼きが微熱に何か関係があるかもしれないとも思い、
今更ながら脳神経外科に問い合わせてみると、今は微熱がある患者のMRI検査は出来ないとのこと。
微熱の原因を探りたいのに、微熱を原因に断られる。

万が一、知らずに新型コロナの陽性患者を診察した場合のリスクを考えれば、病院の対応にも納得出来るものの、
もしもこれで何か別の病気を見逃すことになったら…
身体の不調ばかりか気持ちの不安も解消出来ないもどかしさが募る。
平常時に、友人の忠告を聞かずに放置していたツケが、
非常時に、こういう形で回ってくるのだと自戒。

もしものことを考えて、家族への感染を防ぐためにも家庭内隔離をすべきだが、
余程の豪邸でない限り、完璧に隔離をすることは相当難しい。
行動時間をずらすことは出来ても、場所を分けることは出来ない。
トイレ、お風呂、洗面所など、どうしても共用せざるを得ない場所がある。
とは言え幸いにも、夫も娘も至って元気で、結局何ら症状が出なかったことは救いだった。

かかりつけ医からはじめに処方してもらった抗生物質の効果は1週間。
それ以降も熱が下がらなかったら、また受診すべきか訊ねると、こんな答えが返ってきた。

「熱が下がらなかったら、下がるまで何も考えずに家でじっとしてて」

もしも他の症状が出てくれば、それはまた新たな判断基準になるのだが、
何も変わらない場合、医師にもやれることはない。
ただ、微熱の原因が分からない以上、いくら血液検査で異常値が無くても
新型コロナウイルス感染症である可能性も否定出来ない。
新種のウイルスのことは、誰にも明確には分からないのだ。
だから、出来ることと言ったら、ただ熱が下がるのを待つだけなのだと。

そして「何も考えずに」というのが一つのポイントなのだと、悟った。

それまでひと月以上、不安を拭うために情報収集し、
そのことで逆に不安が増幅し、その不安を拭うためにさらに情報収集する。
仕事のキャンセルや外出自粛で時間が出来たことから、
ひたすらそれを繰り返し、頭も心もいっぱいいっぱいになっていた。
夜もよく眠れていなかった。

最初の受診の際、かかりつけ医に眠れないことを伝えると、安定剤を処方してくれたのだが、
それも効いたり効かなかったりで、その後もしばらく不眠の状態は続いた。

心配した両親が、両親のかかりつけ医にも相談したところ、
忙しいなか嫌な顔せず話に耳を傾けてくれたそうだ。そして、
「陽性か陰性かは、検査が出来ないから分からない。
そして陽性だとしても、薬はない。
だから気持ちとしては、自分は陽性なのだとむしろ開き直って、
家にいなくちゃいけない、休まなくちゃいけないし、休んでいいのだと思いなさい。
幸い、身体の苦しい症状はないのだから、気持ちをゆったりさせて過ごしなさい」と。

要するに、私のかかりつけ医と言っていることは同じだ。
そしてわりとプラス思考の母からは
「もうこうなったら、あくせく頑張ってきたご褒美だと思って家族とゆっくりね」と言われた。

自然治癒力で対応出来るくらいの軽い症状ならば、
そうしてじっとしていることが、医療機関への圧迫や医療崩壊を避けることにも繋がる。

何も考えずに、ゆったりと

それは簡単なようでいて案外難しいことなのだけれど、
でも私の場合、その糸口はとても身近なところにあったと思う。