見出し画像

旅は くすり。

旅は、薬である。

自分をもっと強くしたい。心を穏やかにしたい。昨日までと違う世界が見たい。

その時々で理由は異なる。いわば、処方箋をもらいに病院に通うような感じ。

自分にぴったりの薬をもらうため、私は旅に出る。


処方箋1:ヨーロッパの空気

2016年夏。私は、ある試験の結果発表を待っていた。

合格すれば途上国で生活することになる。もちろんヨーロッパには行けない。

ならば、合否はともかく、ヨーロッパに行っておこう。お腹いっぱいヨーロッパの空気を吸い込んでおこう。(こんなに長い間ヨーロッパに行けなくなるなんて、この時は予想していなかった。)

私は東ヨーロッパのクロアチアとスロヴェニアを選んだ。スロヴェニアにはヨーロッパ最大級の鍾乳洞がある。鍾乳洞マニアなら絶対に行っておきたかった。

空港から、プリトヴィツェ湖畔国立公園へ向かった。

道中、タクシー運転手のお兄ちゃんがクロアチアという国の説明を延々としてくれた。クロアチアンジョークも交えながらの説明は、そこまで英語が得意というわけではない私にとって、ちょっと頭が痛かった。

画像1
公園内の滝。絵画のよう。

どこを見ても、ただただ、美しかった。

透き通るエメラルドグリーン色の水。広大な森の中に大小の滝。

世界遺産は好きだったが、私の興味は宗教建築系で、あえて自然遺産を見ることはなかった。しかし、ここはガイドブックやパンフレットで見るよりも数百倍すごい。美しすぎる。

画像2
大小の魚とカルガモが行き交う透き通った湖の数々。

とにかく広いので、迷子になりながらも2日間かけて公園内を歩いた。

自然の力ってすごい。「来れる人は全員もれなくここに来た方がいい。」そんな感想をもった。

画像3
どこを切り取っても絵になる。

処方箋2:港町

ロヴィニュという小さな町へ移動し、小さなホテルに着いた。

ホテルの入り口や場所が分かりづら過ぎて、タクシーの運転手さんが苦労していた。

7部屋しかないこのホテルに入った瞬間から、私の頭の中は「魔女の宅急便」のテーマ曲が流れて止まらなくなった。

ホテルの小さな部屋からは港が見える。スーツケースを開けながら、「何ならもう私はキキなんじゃないか。」とさえ思えてくる。

画像4
ホテルの窓からの眺め。

「クロアチアでどこが1番よかった?」と聞かれたら、ロヴィニュと答える。そのくらい気に入ってしまった。

どこを撮っても絵になる町だ。とにかく写真を撮りまくった。

画像5
時計塔がよく見える小さな町
画像6
ボートで行き交う人を眺める

ロヴィニュで、海を見ながらひたすらボー――っとする楽しさを覚えてしまった。その後の旅でも、海や川を見てボー――っとする機会が格段に多くなった。

この晩、試験の合否発表があった。ホテルでインターネットを使い、受験番号を確認。

合格していた。

ああ、これで来年から途上国で生活するんだ。

行先はまだ分からなかったが、勝手にエチオピアだろうと思っていた。

画像7
ジジ、会いたかった!

次の日、ジジに会ってしまった。

ジジ!って呼んだらついてきたので、ジジである。ここまでくると、もう私はキキである。ほうきがあったら空も飛べたであろう。

画像8
路地好きにはたまらない

石畳がつるつるで、何度も滑った。大好きなロヴィニュともお別れ。

処方箋3:城壁の上

高いところに上るのが好きだ。時計塔などがあれば必ず上る。

とくに、ヨーロッパは町並みがきれいなので、素敵な景色を見ることができて嬉しい。

遺跡の残る町ポレチュ(クロアチア)を経由した後の、スロヴェニアのピランもそういった場所があった。移動で疲れていたが、城壁を見つけてしまった。上るしかない。

画像9
城壁の上から
画像10
水平線がくっきり

私は、城壁の上から海に向かって叫んでいた。

Today is my day!!!!

なぜ英語だったのか。数日間日本語を使っていなかったからか?

ただ、試験に合格したのが嬉しかったのだと思う。

画像11
街の中心の広場

泊まったホテルのバイトっぽいお兄さんがものすっごくかっこよかった。

海沿いをふらふら散歩するのに最適な町。ピランも素敵な町だった。

この後、いよいよメインイベントの鍾乳洞!

しかし、そんなにすんなり行かせてはもらえなかった。

処方箋4:アイスクリームとお城

鍾乳洞までタクシーで向かった。運転手さんは英語を話さないスロヴェニア人のおじさんだった。

鍾乳洞に着くはずが、鍾乳洞よりもだいぶ先にある本日の宿泊先のホテル。

いろいろ言ってみたが埒が明かず。

画像12
湖を眺めながらとりあえずアイスクリームを食べる

一番楽しみにしていた鍾乳洞へ行けなくなってしまったことに悲しくなり、とりあえず湖を見ながらおいしいアイスクリームを買って食べた。チーズケーキとレモン味のアイス。傷心の自分に優しい味だった。

現地ツアーをやっている会社に当たってみたもののダメだった。

どうしようもないので、お城を観光した。

画像13
城から見るブレッド島
画像14
城から見た風景

お城から見える景色が美しかった。

ヨーロッパ特有の乾いた風がスロヴェニア国旗を揺らしている。

画像15
マスのグリル

今回の旅で1番美味しかった料理。適当に入った店で食べたマスのグリル。

その後、どうしても鍾乳洞をあきらめきれなかった私は、何とかして鍾乳洞へ行けるタクシーを捕まえた。よかった。

処方箋5:ADVENTURE            

いよいよ鍾乳洞に着いた。

今回のタクシーのおじさんも英語を話さない人だったので、電話番号を伝えるのにも一苦労だった。(結局筆談。)

チケットの買い方が分からず、右往左往してしまった。

やっとの思いで入場できた。薄暗い鍾乳洞の中をトロッコで駆け抜けていく。楽しすぎる。

ポイントまで着くと、後は徒歩で見ていく。壮大すぎる世界に圧倒されてしまう。

画像16
画像17
画像18

帰りも地上までトロッコで走り抜ける。中はものすごく寒かったが、外は夏の暑さだった。


目いっぱいヨーロッパの空気を吸って帰国した。あと数年はヨーロッパに行けないことが確定したのだから。

日本に帰ると、これから暮らすことになる国が書いてある通知書が届いていた。

エチオピアじゃなかった。カンボジアだった。近すぎて拍子抜けしたことを覚えている。

画像19
ピランの街並み


もう一度クロアチア、スロヴェニアに行けるとしたら、何をするだろう。

やっぱり海や湖や滝をボー――っと見ようかな。

高いところに上ろうかな。

(しいて言うなら、ドブロブニクに行ってないから行きたい。)


旅は薬。

元気になれる、優しくなれる、頭がよくなる、魔法の薬。