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【新作落語台本】当たるも八卦

こちら、2023年新作落語台本募集の落選作品です。昨年、勢いのままにコントっぽい感じで書いて結果が出たので今年も……と思いましたが、読み返すと勢いだけだったかもしれません(笑)

また来年、精進します!

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男1「あー、暇だな……人はたくさん通るのに誰も見向きもしねぇ。なんか楽して儲かる仕事ないかなと思って、パッと浮かんだのが占い師。だって適当に相手の話聞いてさ、適当にもっともらしいこと言ってさ、それでお金もらえちゃうんだから。で、早速商店街の片隅に机と椅子置いてこうして座ってるけど……まぁ暇!三日やってて、客なんてひとりも来ねぇ。昨日なんて、やっと話しかけられたと思ったら……」

外国人「エクスキューズミ―?」

男1「いらっしゃ……え、外国の方?」

外国人「ソウデス」

男1「なんだ、日本語話せるのか。じゃあ最初から日本語で言えよ……で、なにを占うの?いったいなにを知りたい?」

外国人「エキハドコデスカ?」

男1「は?」

外国人「エキハドコデスカ?」

男1「なんだよ、なにを知りたいって道を知りたいのか……占いじゃねぇじゃねぇか。ほら、あそこの黄色い建物を右に曲がってまっすぐだよ」

外国人「オーサンキュー……グッドラック!」

男1「……なんて、占い師が幸運祈られちゃ世話ねぇやな。そんな感じでさっぱりなんだよ。待ってるだけじゃダメなのかな。いっそ呼び込みでもやってみるか?(咳払い)さぁらっしゃいらっしゃい!占いやってるよ!安いよ!奥さん、今日はいい占い揃ってるよ!……なんか八百屋みてぇだな。(咳払い)えー、うらなーい、占いはいかがっすかー。手相に人相、姓名判断!うらなーい……って、弁当売ってんじゃねぇんだから」

男2「すいません、占い、いいかね?」

男1「わっ!ほんとに客が来た!やってみるもんだねぇ」

男2「えーっと、こちらはどんな占いを?」

男1「手広くなんでもやってますよ。手相、人相、姓名判断に……あとは週刊誌占い」

男2「週刊誌占い?」

男1「えぇ、そこに週刊誌が並んでるでしょう?その中からあなたがどれを選ぶかで運勢を占います」

男2「へぇ、面白そうだ」

男1「やってみます?じゃ選んで……あ、これね。えー、占い占い……(ページをめくる)ところであなたの星座は?」

男2「ちょっと!それ雑誌の占いのページ読んでるだけでしょ!」

男1「ダメ?占いには違いないんだけど……あ、他に噺家占いなんてのもありますよ」

男2「なんだいそれは?」

男1「あなたの好きな噺家を教えていただければ、それによって今後の運勢を占います。まずはどの団体を選ぶかが運命の分かれ道」

男2「……やめとこう。いろいろ問題になりそうだ」

男1「そうですか」

男2「そもそもあんた、こっちの占ってほしい内容もまだ聞いてないでしょう?」

男1「あ、そうか。ではまずそれを噺家占いで占いましょう」

男2「そこは占わなくていいんだよ!」

男1「じゃあなんです?お金のこと?将来のこと?恋愛……は、まぁその年齢と顔じゃありえないか」

男2「失礼だな!年齢はまだしも顔は余計だろ!……あのね、仕事のことで悩んでて」

男1「ほう、仕事の悩み」

男2「今の仕事ね、結構長くやってるんだけど、本当に自分に向いてるのかわかんなくなっちゃって」

男1「なるほど……で、なんの仕事やってるんです?」

男2「……せっかくなら当ててもらおうか」

男1「えー」

男2「だってあなた、占い師なんでしょ?」

男1「占い師だからってなんでも当てられるわけじゃないんですよ……ちょっとぐらいヒントください」

男2「わかった……まぁ、客商売かな」

男1「ほう、客商売」

男2「お客と会話する仕事というかね」

男1「お客と会話……わかった、ホスト!いや、その顔と年齢じゃありえないか」

男2「だから顔は余計だろ!違うよ」

男1「えー……最初のひと文字教えて!」

男2「もはや占いというよりクイズだね、これじゃ……『う』だよ」

男1「う!う、う……宇宙人!」

男2「宇宙人は職業じゃないだろ!」

男1「う、う……牛!」

男2「人間ですらない!」

男1「……馬!」

男2「真面目にやれ!」

男1「うーん……わからない!降参!」

男2「占いで降参ってなんなんだよ……わかった、教えてやろう……占い師だ」

男1「……は?」

男2「占い師、あんたと一緒」

男1「なんで占い師が占いに来るの?」

男2「あんたも知ってるだろ?占い師は自分自身のことは占えない……だから他の占い師に占ってもらおうと思って」

男1「そうは言っても同業者相手なんてやりにくいな……」

男2「大丈夫、なにを言われても受け入れる準備はできてるから」

男1「でも……」

男2「はい、鑑定料一万円(お札を出す)」

男1「やりましょう」

男2「現金だね、まったく」

男1「ではまずは手相からですね。右手を見せて……ほう、ほう、なるほど……うむ、ズバリあなたは、手汗を掻くタイプだ」

男2「それは見ただけでわかるでしょ!占いでもなんでもない」

男1「そう?じゃあ、手相やめ。次は人相ですね……えー、眼鏡をかけていて、鼻の下にヒゲ、髪は短くて小太り……うむ、ズバリあなたは、中年男性」

男2「だから見た目でしょ!もっとそこからわかる性格とかそういうことを……」

男1「えー……あなた、忍耐強いね」

男2「あ、それはそうかもしれない」

男1「だって、こんないい加減な占いにつきあってくれてるから」

男2「おいおい、自分でいい加減って言っちゃったよ」

男1「いや、同業者だから開き直って言うけどさ……だって、たぶんあなたもそうでしょ?いつも適当に当たらない占いやってんでしょ?そもそもオレみたいなインチキに占ってもらおうと思う時点で、あなたセンスがないよ。だから占い師に向いてるか向いてないかと言われたら、答えはノーだね。まぁ、それでも口八丁手八丁でなんとかやっていけるかもしれないけど」

男2「……聞き捨てならないな」

男1「え?」

男2「もう我慢ならねぇ!あんたねぇ、さっきから占いをなんだと思ってんだ!少なくとも私は、あんたよりは誠心誠意占いをやってる!」

男1「おう、そうかい……じゃあ、逆にオレを占ってみろよ!」

男2「……はぁ?」

男1「そこまで言うならお手並み拝見だよ。占いの方式はなんでもいい。オレのことを占ってみろ!その結果次第でそっちがインチキかインチキじゃないかはっきりする!」

男2「なんでそんなに偉そうなんだよ」

男1「はい、鑑定料だ」

男2「それさっき、こっちが渡した一万円じゃねぇか!」

男1「九千円お釣りくれ」

男2「ケチだね……まぁいい、売られたケンカ、いや、売られた占いは買おう……うられたとかうらないとかややこしいけど。ちょうど今、商売道具も持ち合わせてるしな」

男1「お……なんだ?水晶玉?なかなか本格的だね……あ、ズバリあなたは、とりあえずカタチから入るタイプだ」

男2「今は占わなくていい!こっちが占う番なんだから……ハッ!ムムム……」

男1「ねぇねぇ、この水晶玉いくらしたの?カッコいいねぇ、安かったらオレも買おうかな」

男2「占いの最中に口を挟むな!集中してるんだから……あなた、生まれは九州だね。三人兄弟の末っ子だ。小さい頃から努力が嫌いで言い訳してばかり。でも、その言い訳のせいか口だけは達者に育った。
えー、そして、大学進学を機に上京。卒業して機械メーカーに就職するが長続きせず、その後は職を転々。持ち前の口の上手さを武器に楽して稼げる仕事がないか考えて、思いついたのが占い師。早速路上で始めてみたもののちっともうまくいかない。昨日なんて、せっかくの客かと思ったら外国人に道を尋ねられただけで大いにガッカリ……とまぁ、こんなところかな。当たってるかい?」

男1「……あ、あんた、オレのファンか?」

男2「ファンってなんだよ!そんなわけないだろ」

男1「じゃあ……神様!神様だな!」

男2「そんな大げさな」

男1「だって、すごい……すごすぎる!全部当たってる!みんなこの水晶玉にうつったのかい?」

男2「あぁそうだ」

男1「昨日の外国人のくだりも?」

男2「あぁ」

男1「もはや占いのレベルじゃないよ!すごいな、えぇ……。なんであんたみたいな天才占い師が向いてるか向いてないかで悩むんだよ!一生続けろ!間違いなく天職だ!」

男2「あんたもそう思うかい……実は、さっき別の占い師にもそう言われたんだ」

男1「じゃあ、どうしてわざわざここに来たんだよ!はしご酒じゃないんだから」

男2「飲み会みたいに言うんじゃないよ……いや、セカンドオピニオンとして」

男1「医者みたいに言うんじゃないよ……しかし、こんな天才占い師が世間に知られず埋もれてるだなんて……」

男2「……いや、実はそれなりに知られているんだよ」

男1「え?」

男2「そろそろ種明かしといこうか。眼鏡をはずして、付けひげをとって……さ、これでどうだい?」

男1「あーっ!あんた……『目白の父』!この前テレビで見たよ!当たると評判の占い師!」

男2「やっと気がついたか」

男1「しかし、なんでわざわざあんたみたいな有名人が、変装までしてオレをたずねて占ってくれだなんて……」

男2「……私はね、占い界全体のことを考えているんだ。この業界、ちゃんとした人間はたくさんいる。だがね、一部のいい加減なインチキ占い師が世間にのさばると、業界全体のイメージダウンに繋がる……誰とは言わないけど」

男1「……すいませんね、どうも」

男2「そういう輩に客を装って近づき引導を渡す……そう、誰が呼んだか、占いGメン!」

男1「占い爺さん?」

男2「Gメン!」

男1「目白の父だったり爺さんだったり大変だね」

男2「だからGメンだって!……今日はあんたで二人目の摘発だよ」

男1「じゃあ、さっき見てもらったって言ってた別の占い師も……」

男2「ああ、インチキだったよ。最終的に、風呂の残り湯を神の水と偽って売りつけようとしてきた」

男1「最悪だな……噓つきは大嫌いだ」

男2「あんたが言うなよ……さ、もうわかっただろ?占いっていうのはあんたみたいな素人が気安く足を踏み入れていい世界じゃないんだ。さっさと別の仕事を探しな」

男1「待ってくれ!いや、待ってください!ここで出会ったのも何かの縁です……師匠!心を入れ替えますから、弟子にしてください!あなたみたいな天才占い師のもとで修業すれば、オレだってきっとインチキじゃなく本物の占い師に……!」

男2「はぁ?いや、しかしねぇ、占いというのは人に教わるというより、持って生まれた勘というかセンスというか、そういうのが大事だからねぇ」

男1「わかりました!じゃあ、オレが弟子入りしてうまくいくかどうか、まずその水晶玉で占ってください」

【完】


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