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2012年秋、マツダスタジアム(過去のブログより)

※この文章は約10年前にブログに投稿したものです。「野球が好き」のハッシュタグを見て思い出し、久々に読んだらいろいろ懐かしかったのでnoteに転載することにしました。あの頃の僕はまだ独身で、時々こうして気ままな一人旅とくだらない妄想をしておりました……。


現実というのは、時に残酷である。

「計画を練っている時が一番楽しい」

よく聞く言葉ではあるが、その通りだと思う。計画の際に想像していた未来は、平然と僕を裏切る。しかも、大抵は悪い方向に――。

1ヶ月前、僕はあることを知った。

これから雨天中止がなければ、カープのホームゲーム最終戦がヤクルト戦であることを――。2チームはCS争い真っ只中。現状ではまだカープがリードしている。おそらくシーズン終盤までこの争いはもつれ込むだろう。そうなれば、直接対決であるこの一戦は、かなりの盛り上がりになるはず。もしかしたら、目の前でカープ初のCS進出決定となる可能性だって、ある――。

SS指定席を予約することに躊躇はなかった。バックネット裏で、僕は歴史の証人になる――。

しかし、未来はやはり僕を裏切った、悪い方向に――。

裏切られた過程については、書かない。書きたいことはたくさんあるが、取りとめがなくなりそうので、書かない。

ただの消化試合と成り果てた10月4日。行くのか?本当に――?一気に下がったテンションの中、自問自答を繰り返す。正直言って、もうファンを辞めようかと思うくらい今年の終盤の戦いには失望した。それでも、行くのか――?

……4日午後、僕は広島行きの新幹線に乗っていた。

どうせいくら失望しようと、カープ以外の球団を今さら好きになんてなれない。周囲に流されるままホークスファンになろうとも思わないし、他のセ・リーグのチームなんてなおさら応援できない。ダメな男から離れられない、情の厚い女性のような懐の広さで、これからも見守っていこう。

そう、やっぱり、大っ嫌いなのに愛してる――。

約1年振りのマツダスタジアム。赤に染まった客席。カープが好きな人達が、こんなにいる。そのたったひとつの共通項だけで、孤独が和らぐ。

プレーボール。

初回から幾度となくチャンスを作るも、併殺、三振――。まるで今季終盤の戦いをそのまま体現するような試合展開。逆にヤクルトにワンチャンスを活かされ、追加点まで効率よく奪われ、6回を終えて4-0。今のカープ打線が4点を取れるとは残念ながら思えない。

ホーム最終戦で快勝して、ファンに来季への希望を抱かせてくれるはず。そんな僕の想像を、やはり未来はこともなげに裏切る――。

そうなると、試合以外に興味が沸いてきてしまう。

前の席は、20代前半と思しき女性二人組。レプリカユニフォームを着こなし、黄色い声で懸命に応援している。特に、左の娘は応援歌まで完璧に歌えている。隣の酔っ払ったおじさんに話しかけられても、笑顔で、しかも気さくに応対して盛り上がっている――。

……好きかもしんない。

わかっている。カープのユニフォームを着た女の子は3割増し。例えるなら、ゲレンデの恋のようなものである――。

でも……こういう愛嬌のある天真爛漫な女性は正直タイプだ。人見知りで単独行動が好きなように見られる僕だけど、その実、淋しがり屋で、大勢で騒ぐことだって嫌いじゃない。むしろ好きだ。そんな僕の本質を、こういう女性ならば、解き放ってくれそうな気がする。自分をすんなり出せそうな気がする。そして、一緒にいても苦にならない、そんな関係になれそうな気がする――。

こういう娘と、結婚したいなぁ。やがて子供が産まれたら「鯉太郎」と名づけたりなんかして、時々「合体」したりなんかして――(おいおい、それ某日誌のストーリーや!)。

膨らむ妄想。もう目が離せない。

試合は9回裏。先頭の堂林がヒットで出塁。盛り上がるスタジアム。打席には天谷。例の娘が黄色い声で叫ぶ。

「天谷さぁ~ん!お願いだから打ってぇ!天谷さぁ~~ん――!」

生まれて初めて心の底から天谷になりたいと思った――。「オレが天谷で天谷がオレで」みたいな展開ないかなぁ――?(ならないし、なったとしてもどうしようもないぞ!)

天谷はあえなく三振。その後菊池も倒れて二死。続く代打は東出。沈みかけたスタジアムの雰囲気が、ネクストバッターズサークルにあの男が登場したことで、一変する。

背番号1、前田智徳――。

ざわめきがすごい。期待感が伝わってくる。例の娘を見やると、興奮のあまり半ば絶句したような面持ち――。

……わかっていたよ。君のレプリカユニフォームの背番号1を見た時から、君が本当は誰を待っているのか、ちゃんとわかっていたよ――。

マエケンや堂林といった同年代の若手ではなく、いぶし銀前田のユニフォームを選んだ君。生粋のカープファンなんだね。しかも、応援歌も完璧に歌えるくらいだから、間違いなく僕より生で前田を何度も見ているはずなのに、そんなピュアな反応をする君――。

あぁ、僕がこの街の人間だったなら、僕があと5歳若かったなら、僕がもっと社交的な人間だったなら、間違いなく声をかけているのに――(条件多すぎ!)。

スタジアム全体が異様な雰囲気。カウントスリーボールから、東出が見逃すごとに大きな歓声が上がる。東出、やりにくいだろうなぁ……。かく言う僕も、なんでもいいから出塁してほしいと願っているひとりなのだけれど。

結局、東出は四球を選び、この試合で一番の歓声が響き渡る中、前田が打席に立つ――。

例の娘も、前田の名前入りのタオルをかざして「前田さぁ~~~ん!」と大声援。

正直言って、ここでホームランが出てもまだ1点負けてるわけなんだけど、そんなことはもうどうでもいい。どうでも、いいんだ――。

もしかしたら、僕が生で見られる最後の打席になるかもしれない。頼む前田!打ってくれ!僕のために!そして、こんなに応援している例の娘のために――!

僕が彼女に与えることができなかった喜びや幸せを、前田、君が与えてやってくれ――!(どんな脳内変換だよ!)

……詰まった当たりはファーストゴロ。ゲームセット。溜め息がスタジアムを包む。例の娘も天を仰ぐ。でも、笑顔――。

それでいい。君は強い子だ。ひとりでも、きっとうまくやっていけるさ――(だからどんな脳内変換だよ!)。

チャンスをことごとく活かせなかったカープ。ここまで妄想しておきながら例の娘に一切接触できないダメな僕。そのふたつのフラストレーションがない交ぜとなり、二重のやるせなさが僕の心に渦を巻く――。

結局、カープと僕、似たもの同志ってことなのかなぁ――?

最後に野村監督の挨拶。拍手と怒号の比率が半々。でも、きっと「辞めちまえ!」なんて言ってた人だって、来年の春にはまた、スタジアムに足を運ぶのだろう。野次を飛ばしながらも、カープを応援するのだろう。

環境も自分も少しづつ変化しながら、でも基本的には変わることなく四季は巡って、その中でいろいろ期待して、何度も裏切られて、でもたまに報われることもあって、一喜一憂しながらも毎日は続いていく――。

きっと、それが現実。それが未来。

まぁ、そんな人生も、悪くないか――。

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