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半分ろうそく

「お前、鼻ペチャだよな、キスする気にもなんねーわ」
 いつもの軽口をたたくと、彼女は思いつめたような顔をして、静かに部屋から出ていった。
 しばらくして帰ってきた彼女を見て、驚いた。 
 真っ白な蠟のような肌。美しい鼻筋。まるで別人だ。
「どうしたんだ、それ」
「体をね、ろうそくに変えてみたの。だから顔もいじり放題」
「すげー! 画期的じゃん」
「キスする気になった?」
 うん、うん、と何度も頷く。
「じゃあ瞳を閉じて、ちょっと待ってて」
 言われたとおりに目をつぶる。
 カチっとライターをつけるような音。
 ふいに何かが顔に圧しつけられた。
 パイ投げのパイを顔面にくらったら、こんな感じだろうか。柔らかくて、息が、できない。
「ぐぅぅっ?」
 外れない。呼吸が、できない。意識が遠くなる……。

 刑事二名が不審な遺体を前に茫然と顔を見合わせた。
「何だこれ?」
「男性か? ろうに覆われてよく分からないな」
「半分ろうそく、だな」

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