見出し画像

草食系男子に教えられたこと

 運命の恋だった。
 彼の物静かで、何を考えているのか分からないところに魅かれた。
 私が「付き合って」と言えば、彼はこくりと頷いてくれた。幸せだった。

 恋は、男女が手をとりあって踊るダンスだという。
 ならばあの恋はポールダンスだった。
 動かない彼のまわりをひたすら一人で踊る、哀しい道化。
 一人で笑い、一人で怒り、一人で泣き、やがて疲弊した。

 別れを切り出したのは半年後、昼下がりのカフェで。
 彼はサンドイッチと珈琲、私はアールグレイ。
 別れましょう、と言えば、彼はこくりと頷いた。告白したときと同じように。
 私は両手で顔を覆い、彼に質問をした。
「あなたは今、何を考えているの?」
 彼はサンドイッチを見つめ、こう答えた。
「何も……。そういえばサンドイッチって、サンドイッチ伯爵が作ったからサンドイッチっていうらしいよ。知ってた?」

 草食系男子に教えられたことはいくつかある。
 一人相撲の空しさ、癒えぬ傷心、自分の愚かさ、そしてサンドイッチを作ったのは、サンドイッチ伯爵。

たらはかにさんの【#毎週ショートショートnote】に参加しています。

【毎週ショートショートnote】『ショートショート書いてみませんか?』お題発表!2/19|たらはかに(田原にか)|note



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?