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火星の別件逮捕

『海がほしい』
 火星は強くそう思った。
 生命の源、海さえあれば、生き物に愛される星になれる。
 火星は地球から海を盗むことにした。
 支配者ヒトの姿を借り、火星は地球に降り立った。 
 ザザーン
 寄せる波の音。潮風が心地よい。
 今からこの海を盗む。
 簡単だ。海水に触れさえすれば、火星に転送される。
 きっと窃盗は犯罪なのだろう。
 しかし誰にも咎められまい。
 海をなくしたヒトは生きていけないのだから。
『盗むか』
 一歩足を踏み出したそのとき――
「きみ、きみ」と声をかけられた。
 ゆっくりと振り向くと、青色のヒトが立っていた。はて青色? ヒトの色はこれでよかったはずだ。わからない、火星は首を傾げた。
「ダメじゃないか、全裸で出歩いちゃ。現行犯逮捕ね」
 両手にかけられた銀色のわっかをしばし眺める。
 わからない、ただ一ついえるのは、一世一代の窃盗計画は失敗したということだけだ。
 ナゾの別件逮捕によりしょっぴかれる火星の後ろで、波がザザーンと笑っていた。

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