顔自動販売機
くだらない世の中だ。
顔自動販売機が普及したせいで、巷には量産型美男美女が溢れている。
金を払えば好きな顔が買えるんだ、そりゃみんな美形を選ぶさ。そういう俺だって、毎朝イケメンのボタンを押して、生まれつきイケメンですって顔で生きている。
まぁ俺は金持ちのボンボン、おやじの会社の副社長だからこの顔を買い続けることができるが、顔を買うために借金を抱えるやつだっている。美形の顔は高価だからな。けれどみんなやめられない。きょうび素顔で生きているやつなんていないんじゃないかな。
くだらない世の中。もっとくだらないのは今の状況。カネ目当てで群がる『美女』どもの中から、数日中に結婚相手を選べとおやじに命令されている。一体女のどこをみりゃいいんだよ。顔は変えられる、中身は銭ゲバ、うんざり、だ。
「副社長、どうされました」
今日付けで入った秘書に問われ、顔をあげる。
「ん?」
美人じゃない。地味で薄メイク、しかし顔立ちは整っている。
心臓がどきどきしてきた。
「君、それは素顔かい?」
「はい、毎日顔を変えるほど、裕福ではありませんので……」
秘書が恥ずかしそうに俯くのをみて、この子だ! と稲妻が走った。
結婚式の控室で花嫁はうっそりとほほ笑んだ。
まさかこうも上手くいくとはね。
――花嫁の本当の顔は、だれも知らない。