見出し画像

塩人

 ずっと気になっている。
 いつも通りすぎるたびに、チラチラみてしまう。
 だめだ、と分かっている。
 本能的にわかっている。
 彼の胸にとびこんだが最後、身もココロもとろけ、自分を保ってはいられないって。
 だけど危険なものほど惹かれてしまう。
 あなたはしおんちゅ。
 大きな山。
 まっしろな未知の世界。
 不思議。
 あなたに触れたい、触れたくない。
 私はぐらぐら、ぬらぬら揺れている。

 ある日、決心した。
 どうなってもいい、あなたに触れたい。
 そうして私はあなたの胸に飛び込んだ。

「あれ? お母さん。最近玄関にいたなめくじ、今日はいないね」
「ほんとね、そこにある盛り塩に頭から突っ込んだんじゃない?」
「まさかー」
 あはははは、と母子は笑った。

 あなたはしおんちゅ、私はしあわせ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?