奇岩の山の頂上にて
ウラジオストクから5時間のフライトでアバカンに到着。出口には、ホーメイ歌手のセルゲイ・オンダールが偶然いて握手。彼は4年ほど前からアバカンに住んでいる。誰かを待っていたのだろうか。預けた荷物を受け取ると、オトクン(今回の企画者)が登場。13人乗りのバスに乗り、180キロトゥバへの道を行きエルガキ自然公園のキャビンに到着。なぜかセルゲイも手ぶらで同乗して来た。
「こんにちは」
流暢な日本語で迎えてくれたのは、アイドゥンくん。ウラジオストクの大学で日本語を勉強し、9月に日本に留学する予定だという。
エルガキは、ロシア共和国クラスノヤルスク区に位置している。
アイドゥンくんはトゥバのクズルからわざわざクルマを飛ばして挨拶に来てくれたようだ。すでに今回のワークショップのマスターであるセヴェック・アルドゥンノールさんとオッペイ・アンドレイさんが到着していた。セヴェック・アルドゥンノールさんは、ムングンタイガから。オッペイ・アンドレイさんは、バイタイガから。ふたりとも4000m級の山に住んでいる。
セヴェックのカルグラーはほんとうに凄い。オッペイさんのホーメイも熟練の渋味。発音、舌の位置、喉のかたち、歌詞と盛りだくさん。結局、また雨が降ったりで、4時過ぎの昼になった。
さて、翌日、ほんのわずかなハイキングと思ったら、約12キロのトレッキングをした。国立エルガキ自然公園の素晴らしさを堪能した。しかし、昼過ぎに山頂目指すのは、10時半に日が暮れるこの地のみの無謀か。ぬかるみに足を取られ、泥だらけのズボン。雪の残る山の肌。行者にんにくを取る仙人オッペイさん。ガイドの山男アンドレイの蚊もさせぬ鋼鉄の腕。わき水を飲む生きた心地。あと2キロ、あと1キロ。それはあと5キロだったり。しかし到着したときの感動たるや言い尽くせぬ。なんだろうこの彩色の湖は。頂上でカルグラーを唸った。カルグラーは、声が低くビリビリと震えに震える特殊な歌唱法で、トゥバに伝わる伝統のもの。ホーメイと呼ばれる歌い方のひとつである。そのなんと自然に合った響きであることか。
エルガキ(Ergaki)のロッジから220km走り、昼過ぎにトゥバ共和国の首都クズルのブヤンバドィルグィホテルにチェックイン。
(新しいエレベーター!! )
昼食後、みんなはTyvakyzyのチョドラーのワークショップ。
ぼくは隣のトゥバテレビのスタジオを借りて、ふたりのホーメイジのレコーディング。大きな目的はセヴェックのカルグラー。短い限られた時間の中、今回のアルバムのすべてを録り終えることがスムーズにできた。セヴェックは、まるで若い時のように声が出たと満足そうだった。
クズルから南へまさしく悪路をくね走り5時間。シジムからエルジェイへ。ロシア正教会の古儀式派 (Старообрядчество) が移り住んでいる町だ。手動のフェリーで川を渡り、さらにボートで川岸のキャビンに。スープ、パン、じゃがいも、ミルク、Сима́のグリル、イヴァンチャイ(Иван Чай)。すべてが夢のごちそうのような滋味。優しい味をしている。夕食後、ロシア民謡と日本の歌を交互に歌う夕べ。もちろんセヴェックのカルグラー、オッペイのホーメイ。オトクンの口琴もシミジミ。
夜空は満天。宇宙が降り注ぐ。カルグラーとともに。
2011年9月 セヴェック・アルドゥンノールはムングンタイガにて永眠。
巻上公一
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