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靴を集めてみようか。ジョン・テイラー。

靴を集めてみようか。
ジョン・テイラーは、そう言って肩を組み、輪になって足を揃え、みんなの靴を写真に撮った。箱根神社の参道でのことだ。熱海から長野県の茅野に移動中だった。
5人で10足の靴のサークル。どの靴がジョンのだろうか。
赤いカバーのiPhoneで撮るのは、いつもいたずら心に溢れたものだった。人柄というのは滲み出るものだ。いつもきちんとした身なりで、穏やかな表情を忘れることが出来ない。そしてきりっとした佇まいは、彼のピアノの振る舞いそのものだとおもう。この人にしか弾けないピアノがあった。
ぼくはメドウの日本ツアーを企画した。2012年の秋のことだ。
メドウは、ピアノのジョン・テイラーを中心にしたグループで、サックスのトーレ・ブルンボルグ、ドラムスのトーマス・ストレーネンのトリオ。
彼らを日本に招くことになったのは、長年交流を続けているトーマス・ストレーネンからの依頼だった。トーレとトーマスはノルウェー人、そしてジョンはイギリス人である。
彼らを結びつけているものはいったい何だろうか。まさかの靴紐なのか?
その秘密を知っている音楽家は、世界広しといえども多くはあるまい。なるほどどおりで裸足で演奏しないわけだ。
とにかく彼らの演奏を聴きながら、その柔らかな心に魅了されっぱなしだった。
ジョンは、ツアーのオープニングデュオでのぼくと佐藤芳明、水谷浩章、佐藤正治、そして嶋村泰の演奏にも深く耳を傾けてくれていた。
今年のはじめぐらいに北欧のジャズ祭で、ジョン・テーラーに会った方が、彼がぼくの話をしていたというのを聞いて、早くまた会いたいと思っていた矢先だった。訃報を聞いたのは、ちょうどこの写真を見ていた時だった。
5人で10足の靴のサークル。どの靴がジョンのだろうか?

巻上公一 2015年8月


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