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1 その詩は血と汗と涙でできている

 最近、自分のプロフィールに「詩人」を加えた。四十年以上に亘って活動するバンド「ヒカシュー」の歌詞を詩集『至高の妄想』にまとめたのがきっかけだ。ヒカシューでは曲も作り、ベースを弾き、歌をうたい、東芝EMIという大手の会社からデビューした。二十三歳の時だ。翌年のデビューアルバムに収録された「プヨプヨ」という詩をアートディレクターの石岡瑛子が気に入り、パルコの新聞広告用に詩を書いて欲しいという依頼を受けた。そのことを東京都現代美術館で開催中の石岡瑛子の回顧展「血が、汗が、涙がデザインできるか」を見に行き、思い出していた。
 前田美波里を起用した資生堂のグラフィックデザインから一九七〇年代のパルコのCMの革新的アートディレクションだけでも目も眩むような勢いを感じるが、一九八〇年代後半にニューヨークに渡ってからの仕事は、アカデミー賞衣装デザイン賞の受賞、北京オリンピック開会式の衣装の担当など、世界に存分に認められた仕事ぶりだった。
 パルコのポスターの色校正には、夥しい石岡瑛子の校正が書き込まれていた。二校、三校、四校、五校と、自分の表現を突き詰めていく。残念ながら、ぼくが担当した新聞広告は展示されていなかったが、何回も書き直したことを覚えている。「もっとあなたらしく書いてね」と言われたような気がする。5回目くらいの書き直しの末採用になったが、「書けるわよ」という彼女の声がいまでも耳に残っている。
静岡新聞「窓辺」掲載 2021年1月6日


20210106窓辺巻上公一さん1


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