サラダバス|毎週ショートショートnote

バスが停まると、乗客席の中ほどに座っていた男が突然立ち上がり、運転席のそばへと歩いて出た。手にはライフル銃のようなものが握られている。

「このバスはオレが乗っ取った。これから全員、言うとおりにしてもらう。おとなしくしていれば命は保証する」

満員の乗客たちを見回しながら、彼はポケットから大きめのビニール袋を取り出した。

「おまえたちが持っている野菜サラダをこれに詰めるんだ。このバスの中にある野菜サラダ、全部だ!」

男はビニール袋を右の列の先頭に渡した。乗客は自分たちの持っていた野菜サラダをビニール袋に入れ、袋を次の席に回す。それがくりかえされると、ビニール袋はトマトやブロッコリーでいっぱいになった。

男はバスの乗客でいちばん年長の女に声をかけた。

「そのビニール袋を持ってバスを降りろ」

「なんですってえ!」

女は激怒した。

「さっきから何してるかと思えば、ユウタくんもみんなも! 好き嫌いしないで、野菜もちゃんと食べなさーい!」