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シャチと新選組

 NHKのドキュメンタリーで、知床の海のシャチの群れの話がありました。近頃シャチは人気で、イルカウォッチングならぬシャチウォッチングに若い女性が押し寄せる事態になっているそうです。
 私としてはこのシャチの人気が腑に落ちません。私がシャチという生き物を知ったのは、山川惣治やまかわそうじさんの絵物語、「海のサブー」でした。近所の男の子たちの間で回し読みされていたのです。ストーリーはほとんど忘れましたが、サブーたちが旅する海でシャチが襲ってくる場面だけは覚えています。その頃の遊びに海のサブーごっこがあって、必ずシャチが襲ってくるのでした。「シャチが来た、シャチが来た!」「早く船に上がれ!」などと、緊迫した場面を演じたものでした。
 シャチと言えば獰猛な海のハンター。ドキュメンタリーでは、小型のクジラの親子を襲ったり、チームワークで流氷に体当たりして、アザラシを海にすべり落として襲う場面などが記録されています。
 しかしシャチには肉食を主にする群れと、魚を主食とする平和的な群れがいるそうなのです。知床の海でシャチを研究している学者さんの一人は、水族館の飼育員から出発したのですが、その採用試験は水槽でシャチと一緒に泳ぐという過酷なもの。するとシャチは、その人を背中に乗せてプールを一周してくれたそうです。シャチは必ずしも残忍獰猛な生き物ではないようです。シャチの群れのそれぞれには文化のようなものがあり、頭脳プレイで獲物を捕らえるのもその一端なのでしょう。

 昔と評価が著しく変わったと言えば新選組でしょう。私が子供のころの時代劇に出てくる新選組と言えば、まったくの悪役でした。当時は桂小五郎、高杉晋作などの勤王の志士が主役。いえ、月形半平太や鞍馬天狗などの架空の人物が活躍していたのです。司馬遼太郎原作の「龍馬がゆく」がはじめてテレビドラマ化された時(昭和40年)、「龍馬? 勤王方にそんな人いたのかな」と思ったのは私だけだったでしょうか。
 特に土方歳三と言えば悪役中の悪役。近藤勇の上を行く非情の男。勤王志士の足に五寸釘を刺しとおして拷問するやら、仲間の裏切りを許さず粛清するやら。それが今はとしさまなどと若い女性に人気です。たった一枚のあの写真のせいでしょうね。断髪に洋装の軍服姿、白いマフラー。
 「燃えよ剣」を読んだ時、小説だから幕府瓦解後の歳さんの活躍は、司馬遼太郎さんの創作だろうと思いました。ところが歳さんは、ほんとに会津戦争にも加わり、蝦夷地にまで転戦していくのですね。捕えられてみじめに処刑された近藤勇とはちがい、ぶれずにすじをとおしたのです。

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