推し映画について語る-13:象は静かに座っている
2019年は映画館で60本鑑賞しました。Notionでまとめた映画ノートを眺めていると、どれも傑作だったし、この中からTOP3を選んで、と言われるとなかなか至難の業だな…と思うのですが、「もう一度、映画館で観れたらいいなあ」と思える映画について語ります。
▼Notionで作った映画ノート。手軽に思い出に浸れるのでお勧めです。
推し映画13:「象は静かに座っている」
2019年12月に、元町映画館で「象は静かに座っている」を観ました。29歳で世を去ったフー・ボー監督の、デビュー作にして遺作。
元町映画館前にある立て看板の、ポスターの色合いにガツンとやられ、通りがかるたびにしみじみ眺めて、観よう、これは観なければなるまいと意思を固めていました。234分の長尺に怯まないでもなかったですが、「牯嶺街少年殺人事件」も236分だしなと…と。結果、全然長くなかったです。
映像の素晴らしさ
忘れられないのは、映像の色合いです。夜明けのような、夕焼けのような、淡い色彩の映像に見入ってしまって。かつ、BGMが流れたのはおそらく4場面ほどじゃなかったかなと。どこまでも静かに物事が進んでいく映画でした。魅入られて、ずっと息を詰めて、世界にのめり込んでいました。凄かった。
演者さんの存在感(特にメインの4人)が半端なく、長回しに耐える演技力も勿論、素晴らしいのですが、監督の撮り方が上手いんだろうなと思いました。目が離せない。フレームの外でたくさんのことが起きているのに、それを映さず、ずっと表情を追っているのが、最高に良かったです。
圧倒的な才能だと感じました。これが遺作なのかと思い、ただただ、惜しいと思いました。
長尺の映画の良さ
「牯嶺街少年殺人事件」を観た時にも感じたのですが、長尺の、まるでドキュメンタリー作品のように「日常」も丹念に映し出す作品が好きなんだろうな、と思います。しかも群像劇。まるで登場人物の隣で、同じ時間を過ごしているように錯覚する感覚。
登場人物に丹念に寄り添わせてくれるからこそ、クライマックスにかけての衝撃がより大きなものになるし、心が揺さぶられるし、“最高のものを観た”感が残り続けるんだろうなと。ただただ、「映画として、凄い」と感嘆するんだろうなと思います。
登場人物について
登場人物は、全員、仲良くなれないなと思うタイプの人ばかりです(婉曲的な表現)。おじいちゃんと孫娘だけが聖域であり癒しだった…観ながら、日本人は甘いのかなあ、殺伐とした世界でsurviveしている人たちと伍していかねばならんのだということは肝に命じないとなあ、などと思いを馳せてしまうくらいでした。
にしても、小さなことからドミノのように転落していく様が痛々しくて、救いがなくて。特にブーとリン。つらい。お兄ちゃん(チェン)もつらい(クズだけど)。おじいちゃんのその後を思っても、やっぱりつらい。
こんなにつらい、救いがないような日常なのに、淡々とした映像がひたすら美しくて、本当にいっときも目が離せないのです。
すごい才能だ。なんでこれが遺作なんだ。なんて惜しい。もしまだ観たことがない人が居たら、そして映画館で観る機会があるなら、是非観ていただきたい傑作です。
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