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がんの転移に対応する

 手術前、各種検査の結果を見て呼吸器外科の主治医は言った。
「がん病巣は半年前のCTでは5mm、今回のCTでは7mm。3年前に切除した大腸がんの転移にしては小さすぎるし、成長も遅すぎる。なので、原発性の肺がんの可能性も大きい。もし原発であればラッキーですね。」

 つまり、原発であれば小さな初期がんなので、手術で切除すれば完治する。めでたしめでたし。転移であれば、肺以外にも散らばっているだろうから、今後も厳重注意しないといけない、ということだ。

 がんが早期発見・早期対応で簡単に完治する、というのは、すなわち、転移がないからだ。がんは転移の発生で治療の困難度の桁が上がる。

 結局、手術後の病理検査の結果、今回の肺がんは大腸がんの転移と判明した。大腸がんが肺に転移したということは、3年前にがんの病巣は切除されたが、切除される前にがん細胞が全身に散らばっていた、ということだ。

 ここでがんの転移の仕組みをざっくりおさらいしておこう。冒頭の画像をご覧いただきたい。今回の肺転移は血流によるものと思われるので、血流による転移を例にとる。(ご参考資料

 がんの転移は、
① 病巣から転移する細胞が切り離される
② 血管内を移動する
③ 血管内に着床する
④ 血管内から臓器に脱出する
⑤ 臓器内で増殖する
といったプロセスで進行する。

 手術前の検査では、肺転移以外はCTに写る大きさのがんはなかった。ということは、3年前に全身に散らばったがん細胞は、
 ア)血管内を漂い続けている
 イ)転移先に定着し、CTには写らない小さな病巣を形成中
 ウ)定着したが休眠したまま
このいずれかとなる。

 アは普通はありえない。がん細胞は血液中の免疫細胞に抹殺される。血管外に脱出したものだけが増殖する。血小板に「ガード」されて生き延びるものもあるが、血液中に漂っているかぎりは増殖することはない。

 イの状態であれば、がん細胞が成長するのを阻止すること、そして成長してもできる限り小さいうちに発見し対応策を打つことだ。がん細胞は免疫細胞の攻撃により破壊されるので、免疫力を高めること。そして、がん細胞の成長を阻止する効果のある食物の摂取すること、この2つで対応を続ける。成長しても小さいうちに発見するには、定期診断の間隔を短くすることも手段の1つで、主治医はそれを提案してくれた。もろんそれに従う。

 ウに関しては、一般論にしたがって、休眠中のがんにストレスを与えないようにするしかない。いろんな意味で体にストレスを与えない。家庭や仕事のストレス、睡眠不足、消耗系のトレーニング過多、などに気を付ける。
 
 多くの同様症例を見てきた主治医から、
「大切なのは、楽しく生きることですよ」
とアドバイスを受けた。理詰めな東大理三出身のドクターも、こうしたアナログな所見を伝えてくる。もちろん、これにも従う。

 ここまでくれば、やるべきことをやって、あとは腹を決めて転移の発生に備える。

 

 ところで、きわめて主観的な話になるが、ここで私自身が感覚的にとらえていることを記そう。

 今回、通常、大腸がんで一番転移が多い肝臓には転移がなかった。これは肝臓内の免疫細胞が活性化していたからだと考えている。大腸がんの手術後は、トライアスロンのトレーニングを順調にこなしていて、基礎固めとして意図的に有酸素運動を多く取り入れた時期だ。しかも同時に禁酒も開始している。

 肝臓は禁酒と有酸素運動で毛細血管の血流が円滑になり、免疫細胞が活性化し、がん細胞が成長するのを阻止できた、というのが私の感覚だ。

 そして、がん細胞は次なる通り道である肺に定着を図るが、免疫細胞に攻撃され大きく成長することができず、なかなか肥大化できないまま押さえられた。こんなことが起こっていたのではないか、と推測している。

 禁酒と有酸素運動によって体調がよくなり、血流は円滑化し免疫力はアップする。このことが、がんの拡散や肥大化を阻止する要因の1つになった、と考えるのだ。

 あくまで感覚的な話であり、証明のしようがない。何とでも言える話だ。単なる思い込みかもしれない。しかし、結果として転移が頻発せず、限定されたのは事実。ならば、思い込みでも、それはそれでいいではないか。

 問題はこれから先だ。今の状態が続けば、この思い込みも仮説くらいにはなるかもしれない。もちろん、肝臓や肺を素通りして脳に集中転移が発覚、なんてことになる可能性だってある。もしそうなれば、「お疲れ様でした」で終わってしまうのだが、世の平均値から考えて、その発生の確率は少ないと見た。(大腸がんの転移先の統計では、肝臓>肺>脳。少ない確率が重なる可能性をどう見るか、を考えた。)

 そう。確率なのだ。発生確率がゼロに近くても、ゼロでないかぎり発生することはある。しかし、それはそれ。確率の大きい方に信頼を寄せて事を進める以外に方法はない。がんに対する処方の論拠は、すべてこの考え方で成り立つ。なので、それで割り切る。


 今後も、禁酒とトライアスロンのトレーニングを続けていく。上記に記した対応を行い、次なる転移が発生しても、今回と同様、幸運であることを祈りたい。ベストを尽くし天命を待つ。それしかない。

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