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マイがん

【Ver. 2021.11.27 】

がんについて

 がんは早期発見/早期対処であれば完治する。あっけないほど簡単に治る。オデキやニキビと同じで、切除してしまえばそれでおしまい。
 ところが、早期対応をし損ねると、がんは怖い存在に化ける。じわじわと患者を追いつめる。しかも執拗に。そして確実に。

 私のがんの経緯を記そう。がんの早期発見の大切さを知っていただければ幸いだ。

1.大腸がん(2018年3月手術)

 発見のきっかけは会社の定期健診だった。検便に血液反応が出たので内視鏡検査を行って発覚した。発覚時は早期ギリギリという状態で、もう少し発見が遅れていたら完全にアウトだった。

 当時は仕事が忙しく検便を用意するのも面倒だった。いっそのこと、朝の散歩で愛犬がひねり出したウンチを容器に入れようと思ったほどだ。もしホントにそうしていたら、がんは発覚しなかった。そうなれば、がんは肥大化し手遅れとなり、これを書くこともなくこの世を去っていたと思う。

 余談はさておき、健康にはまったく問題がなかったし、腸に問題があるなんて考えもしなかった。塩分控え目、準玄米食(昔から分つき米を常食)、肉はあまり食べず、野菜を多食し、ふだんから有酸素運動を行う生活。なのでまったく病気知らず。

 大腸内視鏡検査は医師とともにモニターを見ながら行う。実際にこの目で見た。明らかに異様な形態の物体がわが腸の内部に存在した。初めてこの目でがんの実物を見た。その映像はくっきりと脳裏に残っている。あれは否定のしようがない。

 すぐに手術を手配した。がんのステージは手術後の病理検査を経て判明する。ステージ2判定だったが、実際は3に近かったと思う。

 術後は4か月に1回の術後定期検査を行っている。大腸がんは血流の関係から肝臓と肺に転移する事例が多く、主治医は多くの経験から肝臓を徹底マークして毎回精査した。転移や再発がないまま3年が過ぎる。このまま落ち着くものと思っていた。

2.膀胱がん(2020年1月手術)

 ロードバイクに乗るためか、年齢のためか、あるとき頻尿と尿道部(サドルに当たるので)の痛みが気になり、泌尿器科を訪れた。

 ちょうどこの時期に母親を膀胱がんで亡くしたこともあって、なんとなく行く気になって泌尿器科を受診した。今にして思えば、亡き母が呼び寄せたのかもしれない。いやいや、そんなトンデモはないでしょ、でもね、病院で亡き母を意識していたことは確かで、受診したときに母が膀胱がんで亡くなったことを担当医に報告している。

 検査のルーチンで残尿検査のため腹部エコー検査を行った。検査は残尿具合を見るだけなのだが、このとき、たまたまエコー画面をチラ見した研修医が、
「このシルエットがちょっと気になりますね、念のため調べてみてはいかがでしょう」
と勧めた。これで当初の手順にはなかった内視鏡検査が行われた。

 大腸のときと同じだった。医師とともに見るモニターには、明らかに異様な物体が映っていた。ステージ1のがんだった。すぐに手術を手配した。

 ちなみに、この膀胱がんは先に述べた大腸がんとは別種のがんで、いわゆる「原発性」で、膀胱で発生した膀胱ネイティブのがんだ。大腸がんの転移ではない。

 残尿のエコー検査でがんの存在がわかることはマレで、のちに膀胱がんの執刀医が「よく見つかりましたね」と感心していた。おかげで早期対応となり命拾いをした。亡き母親のトンデモかもしれないけど。

 もしあの残尿検査のとき、研修医がチラ見しなかったら、内視鏡検査には至らず発見されることはなかった。となれば、がんは増殖し気が付くころには松田優作と同じ運命をたどっていた、かもしれない。
 
 この早期発見は、本当に幸運中の幸運だった。あれだけ真面目に受けた大腸がんの術後の定期健診では、膀胱内にあるがんは見つからないのだ。大腸がんの術後定期健診では、CT検査を行うが、CTに膀胱内のがんは映らない。膀胱内部のがんは膀胱の内視鏡でないと見つからない。大腸がんの定期検査をしているからと安心していたら、膀胱がんは見つからずに進行していた。

 早期発見のおかげで(ステージ1)、転移の確率が小さいうちに切除できたので、転移の不安は少ない。しかし再発する可能性は高い。手術後は3か月に1回の定期検査を行っている。再発を早期に発見し対応すれば、問題なく対処できる。ただし膀胱系の措置はどれも痛いけどね、男性にとっては。

 なお、がんとは直接は関係のない話ではあるが、このときの手術では術後3日目に膀胱内で大量出血を発症し、4日目の未明に緊急再手術をするというハプニングが生じた。いわゆる合併症だ。これについては別途詳述する。

 このがんに関しては、再発は覚悟しているが、上記の理由から悲観はしていない。

3.肺がん(2021年5月手術)ー大腸がん転移

 大腸がんの手術からちょうど3年たった定期健診、そこで撮ったCT画像を見た呼吸器外科の医師が、ごくごく小さな異変に気が付いた。

 通常CTは10mm幅のスライスで撮影されるのだが、このときは大腸がんの主治医の指示で5mm幅で撮影された。これで大きさ7mmの影がとらえられた。10mmスライスでは映らない大きさだ。初期がんと推測されたが、原発性か転移かは手術後の病理検査の結果待ちになる。

 大腸がんの主治医は肝臓を徹底マークしていて、肺のチェックは呼吸器外科の専門医師に依頼していた。大きな病院で各科に専門医がいて、横連携も緊密に行っている。小さな病院であったり、大きな病院でも縦割り組織であれば、こうはいかないのだろう。

 ちなみに、この大腸がんの主治医は東大医卒、がんを見つけた呼吸器外科の医師は慶大医卒。両エースドクターの冴えわたった判断に助けられた。がんの診察では、個々の医師の判断が生死を分けることもある。

 手術は胸腔鏡手術で行われた。体の脇に小さな穴を開け、機械のアームを入れて行うもので、開胸しないので体へのダメージが最小になる。小さながんはこの方式で対応される。手術は無事完了した。手術による痛みは最小で、これには本当に助かった。

 肺のがんが大きくなると、具体的には7cm以上になると、この胸腔鏡手術では対応できず開胸手術となる。胸部は神経が多いため、開胸手術による痛みと苦しみは大きい。たとえがんが治ったとしても、手術後は苦痛に耐える生活が待っている。早期対応が大切というのは、具体的にはこういうことだ。

 切除されたがん細胞は病理検査の結果、大腸がんの転移であることが判明した。転移元の大腸がんは3年前に手術で除去しているので、この肺がんは3年以上前に大腸から離れ、時期は不明だが肺に定着し、今回の大きさまで増殖したことになる。

 呼吸器外科医いわく、転移してから3年以上経つ割には、がんの大きさが小さい、と。これは転移を考える上で重要なポイントを示唆しているので、この点も含め、転移対応として別稿にて掘り下げて考察する。

 転移が肺の1か所にとどまったのは幸運だった。これが複数個所で同時発生となると、手術対応は不可能で抗がん剤対応となり、手間と負担と時間のかかる処置になる。また肺のなかでも、転移は手術で切除可能な位置にあり、比較的容易な手術になった。本当に幸運が重なった。

 手術そのものは痛くはないのだが、手術後の回復措置で処置される胸腔ドレーン管は痛かった。これについては別稿で詳述したので、ご関心のある方はどうぞご覧ください。

4.膀胱がん再発(2021年11月手術)

 2020年1月に手術した膀胱がんは、3~4か月ごとに内視鏡による定期健診を行っている。当初は手術した病院ー泌尿器系専門病院ーで行っていたが、大腸がんの転移を期に、データおよび検査の共有を図るため、大腸がんを手術した大学病院に対応を1本化し、以降はその病院の泌尿器科で定期検査を行っている。

 定期検査では内視鏡で膀胱内部のがん再発を検査している。膀胱内部以外は大腸がんの転移検査で行っている。

 2021年に入り、膀胱内の内視鏡の検査および尿検査で「擬陽性」と判定され始めた。そして10月の定期検査で、内視鏡に映る膀胱内部にややうっすらと白っぽく見える箇所が発生し、主治医によると、がんの発生の可能性が疑われた。また尿検査でもがん細胞の存在が疑われるとのことで、切除手術を薦められた。

 緊急を要するものではないが、このまま放置するとがんになる可能性が強いという診断であった。手術方法は前回行った方式、経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-Bt)で、膀胱内部を薄く筋層まで削り取る方法。イレギュラーな事象が起きなければ1週間の手術入院とのこと。

 診察のその場で即決断。翌11月に手術することを決めた。この手の対応は早ければ早いほどいい。今までの経験からよく理解している。

 11月中旬に手術を行い無事終了した。5泊6日の入院だった。これ以降は定期健診を継続し、経過観察となる。

 なお、この手術を含め全手術に共通する「ある事後措置」について述べたい。尿管カテーテルについてだ。手術中や直後の排尿措置、膀胱系の手術では術後の尿量把握などの目的で措置される。これが実にやっかいな措置なのだ。(現在作成中)。

 先にも述べたとおり、一般的に、膀胱がんは再発率が高く、膀胱内の再発は早期対応さえすれば大事に至らない。さらに、主治医の見解では、私の膀胱がんが、幸運にも「穏健タイプ」であり、「凶暴性」を有するものではないらしい。

 これらが安心材料になって、この再発に関しては不安や心配をあまり感じていない。粛々と定期検査を続けていけば大事には至らないはず、と悲観はしていない。

 というわけで、今後も引き続き、再発・転移の定期検査を続けていく。手術対応後、再発転移がない状態が続けば再発転移の確率は小さくなっていくが、決してゼロにはならない。がん細胞は休眠状態が何年も続いても、何等かの原因で「スイッチ」が入ると再び活動と増殖を始めるからだ。

早期発見で簡単に完治するのだが

 冒頭で、がんは早期発見/早期対応で簡単に治る、と記したが、上記の状況をお読みになって、皆様はどうお感じだろうか。

 お気づきだと思う。がんは早期に発見し対応すれば簡単に治るのだが、実は、この早期発見がむずかしい。上記の私の例は、偶然に発見され、それが「たまたま早期」であっただけで、実際は発見されたときには既に末期状態というケースの方が多いのかもしれない。

 早期のがんに自覚症状はまったくない。本当にない。自覚症状が出るころは末期と考えて間違いない。だから検査を行うトリガーがない。就業義務で検査をする以外は、自らの意思だけがトリガーになる。 

 がんは発生する箇所によって発見方法が異なり、すべてのがんを網羅的に発見する手段がない。上記の私の例のように、大腸がんの術後の専門検査でも、すぐそばにある膀胱がんには気がつかない。そういうことが普通に起こる。

 ただ、偶然にせよ、何かのきっかけで早期発見され早期対応が成功すると、その後は専門的な術後定期検査など、精度の高い検査を受ける機会が増える。がんに対する関心や知識が増し、必要な検査がわかるようになる。そして何よりも、がんに対する警戒感が強くなるから、積極的な気持ちで検査に対応する。こうして、次なる早期発見の確率は高くなる。

 だから、最初の早期発見をいかに実現するかが鍵になる。地味ではあるが、会社の健康診断や自治体のがん検診などを真面目に受け、少しでも疑わしいことは放置せず必ず確認措置を取る。これで胃・肺・大腸は高い確率でカバーできる。それ以外のがんは個別に対応するしかないので、少しでも気になる症状があれば臆せず医師に相談すべきだ。それしか発見の方法はない。

悪いことばかりではない

 早期発見はむずかしいが、がんにかかると悪いことばかりではない。

 自分の体にがんが存在する。怖さもわかる。そんな状況で毎日を過ごしていると、否が応でも命の尊さがわかる。見慣れた景色や何気ない会話にも新鮮な輝きを感じる。一日一日を大切に過ごそうと考え、それを実行するようになる。

 自分に残された有限の時間を最大限に活用する。時間は無駄にできない。自分のやりたいことをやる、やり尽くす覚悟で取り組む。そう腹が決まる。

 こう考えるようになったのは、がんのおかげだ。がんにでもならなければ、ここまで徹底できない。日々の雑事些事に紛れてやらないと思う。

 だとすれば、これはがんの大きなメリットではないか。がんになったものだけが得られる習慣。そう考えればいい。実際そうだし。

戦いは続く

 幸運にも4回も早期発見・早期対応を行うことができた。ここまできた以上は、今までの教訓を活かし、これから先もモレのないよう「連戦連勝」を続けていきたい。

 相手はがん、そして再発・転移。手を変え品を変え攻めてくる。油断すると意表を突かれる。一筋縄ではいかない。よく考えて戦わないといけない。

 新規・再発・転移のもぐらたたきはこれからも続く。いい意味で、緊張感のある人生が続くわけだから、「がんのメリット」を存分に活かしていく。与えられた人生を懸命に生きる者には、神様は越えられないハードルは設定しないはずだ。そう思いながら日々を過ごしている。

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